第二部 第64話 夢の続きをⅢ ベイビーアサルト マギアス エピローグ③
「母さまは母さま。お母さんはお母さんだよ~」
困った。
三つ子の超絶能力の秘密を調べるつもりが、迷宮に足を踏み入れてしまったか?
いまいち状況がわからない。かといってA級冒険者が青ざめるほど優秀過ぎるこの三つ子が、事実誤認をしているとも考えられない。
基本に立ち返ろう。確実にわかることだけを抽出しよう。
「君ら三つ子が、それぞれ別の人、あのラーコーさんとは別の女性、『母さま』じゃ無くて『お母さん』に育てられた。しかもそれぞれ別々の。つまり君たち三人が、三人の母親に、ってことで、ここまでは合ってる?」
「「「そうだよ~」」」
話を整理したつもりだったんだが。一体俺は何を言ってるんだ? まったく意味がわからないが、一応そういうことだとは確定した。是非とも事情を知りたいが。
‥‥しかし‥‥こんなセンシティブなことを子供に根掘り葉掘り訊くのも憚られるなあ。‥‥だが、う~む‥‥。
「本当の母さまがぼくらを産んで。でもぼくらと逢えなくなった時に、お父さんには他に三人のお嫁さんがいたんだ。ぼくが赤ちゃんの時は、母さまがいないからぼくはずっと泣いていたんだって。みんなが困って、でもぼくのお母さんが抱っこしたら泣きやんだんだって」
「ぼくもそう。ぼくはお父さんの二番目のお嫁さんが抱っこしたら、なんかぴたっと泣きやんだんだって。みんな驚いたんだって」
「ぼくもぼくも。あのね、ぼくはね、一番目のお嫁さん。それでね、ぼくは一番目のお嫁さんのおうちに住むことになったんだ。あ、でもぼくらいっしょだよ。だって同じおうちに住んでるんだから。異母弟や異母妹は、まだ生まれていなかったよ」
「ぼくらがお父さんのさいしょの子どもなんだから、あたり前じゃん?」
「いちおう言っただけだよ」
「あ、でもね。『男の三つ子』はすっごいめずらしかったんだって。国中のニュースになったって」
「だってさ、ぼくらの国は、おとこの子がすっごい少ないから!」
「おとこの子が、一度に三人も! 三人もだよ! すっご~~い!! ってさ」
だめだ。自由に喋ると三つ子は私が処理できない情報を増やす。
一旦一連のことは飛ばして、「お母さん」の話にフォーカスする。
これ、乳母のことを言っているのか? 消去法でそれしか思いつかないが、それなら意味がつながるな。あのラーコーと名乗る女が私の記憶と同一の人物なら、そんなことがあってもおかしくはないが。
おおかたあの女、「母さま」と呼ばれる彼女が、「冒険者になる!」とかしょうもない理由で家を飛び出していてもおかしくない。それで残された三つ子を憐れに思った周りの大人が、三つ子をちょうど「一人が一人ずつ」分担するよう乳母をつけたとか。それが「お母さん」。とんだ育児放棄だが、それならば。
「お母さんはみんな、母さまといっしょに戦ったすごい人たちだよ」
「そうそう。魔王とうばつでね」
「かつやくしたんだよ。だからすごい【スキル】とか持ってて、すごいんだよ」
なんだと? だとすると、あの女冒険者の正体は、やはり私の見立てで合っているのか? いや、でもしかし。面影が似ているだけで、あの元女王と同一人物とかまさか思えん。
しかもだ。魔王討伐後に忽然と姿を消した功績者たちは、表舞台から去って、その一部はこの子たちを養育していた、ということになる。
だとする、ならば。
やはりというか、ここに来てあの風説が俄然、真実味を帯びてくるな。
曰く、魔王はまだ生きていて、また復活をする。前回魔王討伐をした功績者たちは、そのチカラを継承させるべく、後継者を育てている、と。
その三人が。
私の目の前にいる三つ子。
あの異常すぎる能力群も、魔王相手なら納得だ。
出生に関しても、複雑な経緯があることだけは理解した。
「さ、魔王にトドメ刺しに、行くぞ!」
花摘みに行っていた彼女が戻ってきた。
「え? 魔王とうばつ? 今から?」
「今からは宿屋。もう夜」
「な~んだ」
「今からでもいいよ」
「だ~め。子供は寝る時間。歯磨いて寝るよ」
「ちぇ。な~んだ」
「ラーコーさん、歯なんて磨くんですか?」
珍しいな。歯の掃除を気にするなんて。まあ、気になったら掃除はするし、物が挟まったら糸を通したりはするが。
「アタシのツレの姫の沢ゆめってのが『歯科衛生士』って仕事してるらしくてさ。『とにかくちゃんと、毎日毎回歯を磨け』ってうるさかったんだよ。特に子供の内から、『六歳臼歯ガ~』とかああだこうだってさ」
なんだその職業名は。相変わらずいい加減だな。そんな職業なぞ聞いたことがないが。
「ちゃんと磨いておけば、全身の色んな病を回避できるってさ~。力説された」
キレイにしておくことに異論はない。しかしたかだか歯ごときで大袈裟だな。何をどうしたら歯が全身の健康に関係するんだ? コイツ、変な医者もどきに騙されているんだろう。
まあ私には関係ない。めんどくさそうな話だから、掘り下げるのはやめよう。
アマリア解放戦線の一同が、身支度をして酒場を出る。
今後も可能な限り彼女らの動向を探るつもりだが。
最後にひとつ。三つ子の小さな後ろ姿を見て、ふと心に浮かんだ質問をぶつけてみた。
「なあ君たち。冒険者稼業は辛くないか? 寂しくないか? まだ親に甘えたり、友達と遊んだりするのが10歳の子だと思うんだが」
「ありがとう。おじさん」
「おじさんはやさしいね」
「でも大丈夫」
「ぼくら、ちゃんと学校行ってるし友だちとあそんでるし」
「そうだね」
「だからつらくないし」
「さみしくないよ」
「だって」
三人は、去り際に、無垢でとびっきりの笑顔をくれた。
「「「この世界で、夢の続きを見れるんだから」」」
「「「こうして母さまに逢えるんだから」」」
ベイビーアサルト 第二部 マギアス
了




