第二部 第64話 夢の続きをⅢ ベイビーアサルト マギアス エピローグ①
私の名は、ジョージ=アルゴード。ある国のしがない御用学者だ。
専門は歴史学だが、そのためには経済史や宗教学も多少かじる。歴史を理解するには、その国の経済や宗教の理解が必須だからな。最近の若い後進はそれがわかっていない。まったく嘆かわしいことだ。
少し話が逸れたか。それで私の仕事なんだが。
普段は国が何かやる時に平民を騙すための「権威のある屁理屈」。それを頭をひねってこさえる、そんな事をやっている。
それで別口でお呼びがかかると、他国調査などもやる。歴史学者ってのはこういう時に都合がいい肩書なのさ。まあ要するに、王室直属の便利屋だな。
今回、国王である我が主の命により、隆盛著しいこのエリーシア王国の現地調査に来た。
あの草原の民を服属させ、隣国を属領にしてしまったんだからな。並みの手腕じゃない。
無事入国。早速王都を逍遥する。
いやはや。本当にここはアステイオンか? 数年前までクーデターで政情不安だった国とは思えん。市場に物は溢れているし、人で溢れている。
なにより皆、国民が笑顔で精気に満ちている。
あちらの世界の経済政策を取り入れた? いやいや、その気配は無い。それどころかエリーシアの経済部門を司る産業省の大臣は、未だ空席のままだ。
この国の女王がその才を見染めた10代の若者がその椅子に座る、なんて噂が流れたことがあったがありえない。ゴシップだろう。10代と言えばそうだな。確か、財務副大臣に一時、そのくらいの歳の少年が就いたとか、ウワサが流れたことがあったが。
入都する時に驚いた。目下エリーシア王都に隣接する荒野にて、何やら大掛かりな施設を作っている。巡らす塀の簡素さから、軍事目的ではないようだ。「てーまぱーく」だと小耳に挟んだが、何のことやらさっぱりわからん。一応は調べておくか。
まあ、それはそれとして。
我がエキノス公領国は、虎狼の国の北部にある小国だ。寒冷で農作物の収穫が見込めず、虎狼の国の部族の進入に常時頭を悩ませている。せめて経済でも好調にできれば、傭兵でも雇って国境付近を安定させるのだが。虎狼の国は貧乏国だろうと容赦ないからなぁ。ウチみたいな国に来ても金目の物は無いのに。‥‥‥‥いや、だからこそ収奪に来るのか?
エリーシアの女王が代替わりをして、もう数年か。聞けば大変にお美しく、まだお若いと聞く。だが非常に聡明で、しかも王宮をクーデター派に掌握されながら、あの魔王討伐で中心的な役割をし、自ら前線にも立ったという。風説ではその魔力は魔王をも凌ぐとか。‥‥今や芝居小屋の演目の定番だが、いや、誇張半分だとしても大変な傑物じゃないか。
ゆえに国民の人気は、今だ凄まじい。我が主もそこは非常に気にしている。
まずエリーシア国の経済の状況、と国策について。自分の足で拾ってきた市況も欲しいと言われている。
王都に宿を取り、調査を開始する。いや、とはいっても「何を見聞して来たか?」より「どう報告するか?」が重要なのだが。エリーシアの隆盛を把握したいのなら、自国に出入りする御用商人からの情報収集で事足りるはず。だが、残念ながら我が主に、そこまでの器量は無い。
再び市場に出る。「地元の情報筋」などとは割といい加減な表現で、こうして足を使って見聞きした情報を、態よく仕立てる魔法の言葉なのだ。
ん? ここは冒険者ギルド? 活況が外まで漏れ聞こえてくる。
ここも賑わってるな。経済が好調ということは、カネが回っているということ。さすれば、様々なクエストが高額で発生する。冒険者にとっても、エリーシアで稼業をすることに大いなるメリットを見出せるだろう。
思わずギルドに入ってしまった。ここを取材する予定は無かったのに。まあ、喉が渇いていたし景況感を見てみるか、と自分に言い訳する。幸い、懐に余裕はある。
カウンターで会計を済ませ、エールを受け取ってから席を探すが、賑わっているから当然混んでいる。この時間だと、これから出張るパーティが集まる頃合いか?
と、六人掛けのテーブルに、4人で座るパーティと目があった。
「おひとりかな? 席なら空いてるからどうぞ」
リーダーと思われる女性から声をかけられた。何故彼女がリーダーだとわかったか?
当然だ。残り3人がまだ10歳くらいの男児、なのだから。冒険者パーティというより親子連れだ。‥‥そして子供は‥‥三つ子か。
これはどういう集まりなのか? 俄然興味が湧いたので、相席の提案を有難く受けることにした。ただ、私がそうした理由はそれだけでは無い。リーダーの女性に、どこか既視感を感じたからだ。
「どうも。では相席させていただきます」
「どうぞ。アタシらはこの面子だから、どっちみち席は空いてたし」
「そうですか。いや、不躾な質問で恐縮ですが、冒険者なので? 拝察するにメンバーのかたはまだ年若いご様子」
「あんた学者かぁ。物言いが上手だね。そうだよ。ご覧の通りガキ連れて冒険者やってる。全部アタシの子だよ」
「母さま。ジュースおかわりしていい?」
「いいよ~」
「わ~い」
「あ、ぼくも~」
「ぼくも~」
夫に先立たれたのか? 初対面でそこまで聞くのは流石に礼を欠くか。しかし親子連れで冒険者、しかも3人は本当にまだ子供。これは珍しい。
その、リーダーだと名乗った女性は、全身を漆黒のアンダーウエアで覆い、手甲や膝当てをする軽装。
3人の三つ子も同じ漆黒の服装だが、それぞれに水色、深紅、桃色の刺し色のバンダナと、それぞれ装備を身に着けていた。‥‥‥‥これで見分けがつくな。ちょっとした衣服やモノで色分けする。三つ子あるあるか。
「どうせ訊かれるから先言っとくけど。アタシら魔王の命狙ってんのよね。昔の仲間との約束でね。アタシらの手で決着着けたいんだよね。あとはこの子たちがそうしたいって言うから。まあ無理はしてないから心配ご無用」
どうやら、生活のために必要に迫られて、のような理由では無いらしい。そこは少し安堵した。‥‥しかし、こんな子供で大丈夫か?
「そこも心配ご無用」
「ねえねえ母さま。ぼくの【スキル】おじさんに言いたい!」
「だめ。あと母さまじゃなくて、ここではリーダーって呼んで?」
「はい。母さま」
「だから~」
その後、この4人はクエスト受注のため掲示板へと移動した。テーブルが大きく空いたので、今度は私が相席を許可する側になった。
「アイツ等か。はぁ‥‥‥‥あれは頭がおかしくなるほど別格だ。合同クエストに行けばわかるさ。是非にも行け」
その後、椅子を並べた冒険者にあの親子連れのことを尋ねると、そう答えた。
私は俄然興味が湧いた。
彼らが参加するクエストを見て、後追いで私も申し込む。一応私も資格持ちだし、戦闘経験もある。学者としてのフィールドワークでは、場所によっては危険を伴うので、ね。
だが、度肝を抜かれた。
そのパーティの名は「アマリア解放戦線」。
今からその親子連れ冒険者パーティの、驚愕の詳細をレポートする。




