第二部 第63話 夢の続きをⅡ、と異世界☆歯科衛生士Ⅱ
週の2日。それだけ。
私は準歯科衛生士として、歯科医院のシフトに入る。
今はまだ、院長や先輩に色々教わりながらの修行の日々。グレーシーキュレットを歯肉縁下に入れるのだって、色々コツがあるんだからね? 患者様に快適に治療を受けて頂くためには、努力は惜しまないのです。
ちなモデルのお仕事も続けてるよ。これは業界に、私の需要がある限りは。幸いというか、歯科衛生士はマスクや顔前に防護グラスつけたりしてるから、意外と「モデル、咲見ひめ」の身バレはしてない感じ。プラス私はナースキャップも着けてるし。
でも何だろ? 歯科医院のバイトに入ったその夜って、毎回おんなじ夢を見てる気がするの。友達に相談しても、「そうだとして、それがどうしたの?」だったけど。
『ゆめさん。そろそろどうですか?』
「もうちょっと待って。まだ研鑽積ませて」
『そうですか。そろそろだと思ったのですが』
「せめて院長のお墨付きがもらえるまでは」
夢の中で私は、歯科衛生士としてスカウトされていたよ。ぬっくんがやるゲームみたいな、中世欧圏みたいな世界だった。さしずめ「異世界☆歯科衛生士」ってタイトルがつきそうな、アニメみたいなその世界。
『如何ですか? ゆめさん?』
勧誘してくる女性は、毎回必ず同じ人。黒髪に切れ長の目。ちょっとクールで無表情な感じだけど、どこか懐かしい人。
「ごめんまだ。待たせちゃってるね?」
『大丈夫です。転移する時は時間軸を選べます。地球世界で就寝している1時間を、異世界の1000時間にできるのですから』
うん‥‥‥‥夢なのにリアルだね‥‥‥‥あとこの設定、なんか既視感スゴイんだけど?
いやダメだよ? ダメダメ! ぬっくんと同じ「河守高校」目指してたのに、ぬっくん「みなと中央」に志望校変えちゃうんだもん。聞いたらホントは「れんげ東目指してる」って言うし! ええ? どうしよ!? 私の学力じゃ中央高は努力次第だけど東校はムリよ!?
だからちょっと焦ってるのよ私。異世界のスカウトを受けてる余裕は無いのよ。
‥‥‥‥ああ。今度こそ。
ぬっくんと同じ高校に行けますように。
っていうか。これで違う高校になっちゃったら、もう今度こそ立ち直れない気がするよ。
そしたらどうしよう‥‥‥‥。中卒でモデルに専念して帝都行く?
逆に、モデル辞めて衛生士一本にする?
「え? そんなん自分で好きにすりゃいいじゃん。‥‥ってか、ウチと河守高校に行くハナシが消えてんだけど?」
我が親友は呆れていた。取りあえずまきっちは、学力的には河守高校で確定みたいだよ。「小屋敷小トリオ」で河守に行く計画は、潰えたね。
一応説明。
この地域、そてつ郡は、河守川の広大な流域にある郡部だよ。みなと市、れんげ市、ぶんきん市とかわもり町とか。一応学区もこのそてつ郡で区切られてるから、私たちの進学先もだいたいこのそてつ郡の中の高校になる。まあ、電車ではたやま市の私立に行ったり、ちびまる東の理数科行ってもいいんだけどね。
偏差値的には①れんげ東、②みなと中央、③河守、ってのがこの地域の公立高校の序列かな。あ、私立はあれだよ。帝都とかと違って、地方だから公立のほうが強いんだよ。
『お悩みのようですね? ゆめさん』
「‥‥うん」
あ、またあの夢だ。
『私が出向いて、ゆめさんの希望に沿うように仕向けましょうか?』
「ええ?」
『もう一回は、『ふれあい体験乗艦』の時にやってますので。勝手はわかります。皆さんが志望校に受かるように、関係各所の要人に【催眠】をかければ‥‥』
「ま、待って! ぬっくんはどうするの?」
『と、いいますと?』
「だって。ぬっくんのホントの志望校はれんげ東だよ? でも学力が無いまま受かっちゃったら、あの超進学校、逆にその後が色々大変に‥‥」
『なるほど。私も王立騎士魔法学園卒ですが。実力無き状態で放り込まれれば、確かにそうですね』
「私だってそう。ぬっくんが行くからって東校にしちゃったら、同じ目に遭うよ。‥‥それに‥‥私たちのせいで落ちちゃう子もいるとすると‥‥」
『‥‥‥‥そうでした。これは浅慮が過ぎましたね、ゆめさん。私は二度も同じ過ちを繰り返すところでした。【催眠】の件、一切お忘れください』
「‥‥ううん‥‥わかってくれればいいんだよ‥‥高校受験は、あくまで全力を尽くすけど、ズルはしないで、結果を受け入れるよ‥‥」
『ええ。それが良いでしょう』
***
朝起きたら、私は泣いていた。
あの夢を見たからなのかな? わからない。
でも気持ちの整理はついていた。別に!
もし上手く行かなくって、ぬっくんと同じ高校行けなくても。
私が何か失うワケじゃない。もう、ぬっくんとは、逢おうと思えばそうできるんだから。
逃げるのがダメ。そういうマインドがダメなの。
もし振られたって、結婚適齢期最後の一日まで粘ればいいのよ。
私の「好き」は! 永遠なんだから!!
『ふふ。どうでしょう? いっそ、上手くいかなければドラゴンになって、全てを灰燼に帰してしまうというのは? ふふ。また、あの時のように』
んん? 誰か何か言った? あの時??
それから。私は順調に成績を伸ばし。
ぬっくんもぐいぐいっと成績を伸ばし。
愛依さんは相変わらず最強で。
まきっちは相変わらずマイペースで。
それぞれの志望校に無事合格した。
「ひめちゃん、いやぁ。ほっとしたよ」
「やったね。ぬっくん」
愛依さんはれんげ東。まきっちは河守高校。
そして私とぬっくんは。
無事、みなと中央高校に合格していた。
「うぐぐ‥‥あとは同じクラスに‥‥ああ! ダメかぁ‥‥」
「残念。あ、桃山さんと泉さんとも違うクラスか。みんなバラバラだあ」
「残念~~。もう!」
『あれ‥‥ゆめさん? ‥‥ここは私、手伝っても良かったのでは?』
「ラポルト関係は、わざとバラされたかもね。固まってたらざわつくかもだから」
「そっか。そうかも。そうだよ! さすがぬっくん」
『あれ? ゆめさん?』
「ところでさ‥‥‥‥どうする?」
「なにが? ぬっくん?」
「あ、その‥‥同じ小学校だったし‥‥」
「うん。‥‥え?」
『‥‥‥‥ゆめさん?』
「僕も愛依とかの件があるし、変な意味じゃないんだけど‥‥」
「??」
「家、近いじゃん。僕ら。‥‥わりかし」
「うん。そうだね。わりかし、ね」
『ゆめさん?』
「だからさ、一緒に登校するとかも‥‥‥‥アリかなって。だって友達だし。ひめちゃんとは一緒にラポルト乗れなかったから、その穴埋め的な意味でも‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ぅ%ェ&X#ァ!」
「あ、イヤならいいよ。僕は婚前同居控えてるからさ。君まで人に変なこと言われるかもだし。‥‥ただ僕は、人に何言われても気にしないと、もう決めてるんだ。友達として、ちゃんとひめちゃんと高校生活を過ごしたいと思うから!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はぃ。わか‥‥り‥‥ました」
『あらあら。もう私の声は届かないようですね。‥‥これは時期を見て、改めてお願いに上がるとしましょうか? でも約束は忘れないでいてくださいね? 貴女は確かに、エリーシア王国の口腔衛生改善のために、歯科衛生士として助力してくれると約束してくださったのだから‥‥‥‥』
『一旦のお別れです。姫の沢ゆめさん。また‥‥夢の続きでお会いしましょう』




