第二部 第62話 夢の続きをⅠ③
「夢の続きを‥‥‥‥」
やけに耳に残る、ゼノス氏の言葉だった。
王様に深く一礼し、ぬっくんに一礼し、衛士に挟まれて退出していったよ。
その彼と入れ替わるように、泉さんは帰ってきた。エリーシア王都での個人店、商売を整理して、それ以外の各支店やお店は畳んで来たらしい。その上で王都のお店は、例の泉さんが拾った少年、「メティアスくん」だっけ? に譲渡してきたと。
「それで、年下彼氏とはどうなったの?」
とは誰も訊かなかったよ。直接的にはね?
でも泉さん、なんか満足気だったよ。その店番の少年のことをうっすら質問したんだけど
「あの子とはもう、一生つながっていることになったわ。運命かも」
って言ってたって、誰かから聞いたよ。
ああ、急に転生して連れてこられたこの世界だけど。
もうすぐお別れだと思うと、なんだか切ないね‥‥‥‥。
***
三日間、王宮で盛大にパーティが催されたよ。「ラポルトの皆さんありがとう。そしてさようなら会」
当然主役は私たち。政情不安定なエリーシアを鑑みて、各国からも色々お心遣いが来たってさ。
当日は各国の貴族王族もこぞって来てた。‥‥あ、援助をしたのはこのため、かな?
色んな人にお礼を言われて、美味しい食事を勧められて。
あ~~私、こんな生活してたら太っちゃうよ。‥‥モデルのお仕事が‥‥。
「大丈夫よ姫の沢さん。この身体は仮初めのものでしょ?」
そ、そうだった。でも食べグセはつけないほうがいいから、やっぱ。
「王様! 姫様!」
あれ? 秋さんだ。どしたの? なぜなぜな~に?
「‥‥今‥‥未来視が降りて来たんですが、その‥‥急ぎ報告しなくては‥‥」
あれれ。予知能力持ちも大変よね。パーティのタイミングでも予知しちゃうなんて。せっかくの料理を楽しめないよ。あれは損な能力だよ。私は「聖女」で良かっ‥‥。
「なんじゃと! 魔王がまだ生きていると!?」
「ええ。今ハッキリとそういう映像が‥‥」
「秋が前に観た未来視と一致します。やはり魔王を滅ぼすのは私たちの次の世代の‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
き、聞こえちゃった~。どうしよう。あの戦いではトドメが刺せなかったってこと?
私の聖女風味のドラゴンブレスも不発?
ああ、一気に料理の味がしなくなったよ。
え? あっちの世界へ戻るの延期? どうするの~~????
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥めさん」
「‥‥‥‥の沢、ゆめさん」
「‥‥ので検温させてください。姫の沢ゆめさん」
あれ?
私、『王宮でお別れ会』をやってたんじゃ?
え? なんでベッドの上で寝てるの?
あ、ここたぶん、みなと市の病院かどこかだ‥‥。私って入院してたんだっけ?
そうだっけ? でもどうして? あれ? 検温、とな?
でも。そういえば。
あのお料理おいしかったな~。もうひと口食べたかった‥‥‥‥ん? 病院のベッドの上でなに言ってるんだろ私? そっか、そうそう。これは夢だよ。夢の中の私は、魔王と戦う聖女で魔法騎士だった。早く。あの夢に戻って、あのお料理をまた口にしたい。あの「ラポルトのお別れ会」を‥‥‥‥。あれ? お別れ会の会場ってどこだっけ? ‥‥いえ‥‥そもそもなんで私たちはお別れ会をやってた‥‥んだっけ? ‥‥あれ?
あと、会の最後にすっごい重大なこと言ってた気が‥‥‥‥ん~~??
ここは紘国。とある地方都市の、とある軍関係の病院だった。
その一般病棟にいる私は。
なんだかとってもエキサイティングな夢を見ていた気がする。
大切な夢を。
‥‥‥‥いくら切望しても、もう、「夢の続き」は見れない気がした。
***
紘和61年3月13日、火曜日、あの日。
私は、ぬっくんと愛依さんの「小さな結婚式」に招待されて、その会場である「みなとの丘公園」に向かっている途中で、貧血かなにかで倒れたらしいよ。
幸い会場近くだったし、実は結婚式で集まってた子たち全員倒れてたらしいから、この子たちのオマケで私は救急搬送されたっぽい。ラポルト16が同窓会をやったその場で、オマケの私を含めて全員貧血で倒れるって‥‥?
けっこう事案だと思うんだけど? SNSじゃあゼッタイ陰謀論でバズるよ!?
う~ん。私は。
公園に向かう山道で、ずっと誰かの背中を追いかけてた気がするんだけど‥‥。
う~ん?
だめだ。思いだせない。夢を見た時って、目が醒めちゃうともう思いだせなくなったりするじゃない? 今回もそのクチかな‥‥??
窓の向こうの夕日が落ちてきた。それを見つめる患者一名。
今ちょうど17時30分だよ。「小さな結婚式」が正午ジャストだっかから、もう4、5時間は経ったってことかな。
そう。さっき3月13日を「あの日」って言ったんだけど。
実はまだ「今日」なんです‥‥。
半年くらいは経ったと思ったのに。‥‥ってまさか。‥‥数時間を半年と感じるって、私の時間の感覚おかしいよね? なにこれ? 病院で半日寝てただけなのに、すっごい大冒険をしたような。
結局ラポルト勢の皆さんと私の入院騒ぎは、大して話題にもならず。軍も体面があるのか情報統制したみたいで、軍の病院でひと寝入りして帰された。
原因を探る人も不思議といなかった。みんなナゼか【催眠】にかけられたみたいにその問題はスルーして、ただ無事だったことだけ喜ばれた。
「軍の管理地で起こったことだから、公にしにくかったのかな?」
「ひひ。毒ガス実験でもしてて、ウチらが巻き込まれたんじゃね?」
「あはは。って怖っわ!」
「いや、小さな結婚式で出た、誰かの料理による食中毒」
「ふむむ。つまり、犯人はこの16人の中にいると?」
「まさかねえ。でも全員無事で良かった~」
「結局姫の沢さんは間に合わずに、道で倒れてたんだ。うっわ~大丈夫だったの?」
「とにかく全員無事で良かった~」
「せっかく、け、結婚した日にこれじゃあ」
「そうだった。あらためて婚前同居おめでと~♪」
全員同時に退院したけど、こんな感じだった。
病院の正門前で、三々五々に別れていく。「救国の英雄」の入院騒ぎなのに、マスコミも誰も居なかったよ。
私はまきっち、ぬっくんと同じ方向。途中まで愛依さんも一緒だ‥‥‥‥。
ん?
『愛依さん』‥‥‥‥?
やっぱり違和感。私って、逢初さんをいつの間に名前呼びに‥‥?
まあ、いっか。
愛依さんと仲良くなるのは、別に悪いことじゃないし。
正直気持ちのやり場に悩んでた、ふたりの婚前同居も、今は不思議と素直に心から祝福できる私がいるし。
うん。なんだか知らない内に。えらいぞ私。‥‥‥‥でも。
「‥‥靈能巫女魔法、【真心】‥‥」
「ん? どしたのひめちゃん?」
「あわわ! なんでもないよ~~っ」
「舞台の練習なら他でやってくれだゼ☆ 芸名、咲見ゆめさん?」
「そ、そうそう。今度のお仕事のセリフがつい‥‥‥‥」
「うふふ。熱心なのね」
とっさにこんな風に誤魔化したけどさ。もし叶うのなら。
もう一度、見たいな。
あの夢の、続きを。




