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第二部 第62話 夢の続きをⅠ②






「俺があの村、ハシリューに潜入していた、理由を話そう」


 愛依さんとぬっくんを交互に見ていたゼノス氏が、おもむろにそう話した。



 理由‥‥‥‥??




「あそこに潜入したのは、『紘国の新造戦艦のデータ収集』なんだが、半分は私用だった。あのまま戦争になれば、ハシリュー村が主戦場になる可能性が高かったからな。実母と妹の安否確認、だった」


 実母? それに‥‥‥‥‥‥‥‥妹?


 空中戦艦ラポルトが、「ふれあい体験乗艦」中に荒野で拾った少女アピちゃん、アピドーハ=ミタハは、ツヌ国の情報将校ゼノス氏と。




 異父兄妹だった。



 ゼノス氏の口から語られた経緯はこう。



 ツヌ国の王家に連なる諸家出身のゼノス氏のパパが、ハシリュー村を訪れて、若かりし(16歳くらい?)アピちゃんママと結ばれたらしい。で、ゼノス氏が生まれたんだけど、ちょうどそのころはガンジス島が紘国に編入される時機で。

 ツヌに帰ろうとするパパと島に残るママ。結局ふたりは別れることになって、ゼノス氏パパは幼いゼノス氏を連れてツヌ国に戻って行ったんだって。で、あっちで再婚。あとツヌ国王宮でけっこう色々ゴタゴタが起こって、人数足りなくなった王族として、ゼノス氏も繰り上がって王族登録されることになった、と。


 そっか。やっぱあっちの世界でもガチで王子様なんだ。ゼノス氏は。



 一方アピちゃんのママは、紘国主催の集団お見合いで紘国男性と結婚。そのままアピちゃんを授かって、ハシリュー村で育てていたと。


「あれ? ゼノスさん。アピちゃんのママ、つまり自分の本当のお母さんには逢ったりしてないの?」

「よく人からそう訊かれるが、実感が無いんだ。義母には普通に育ててもらったからな。ただ、情報将校としての仕事の一環で、けっこうハシリュー村には来ていた。幼いころ住んだ記憶もあってな。母親への思慕の情、もあったのかもしれないな」


 う~ん、複雑な家庭の事情であるね。他人の私はとやかく言えないよ。



「‥‥‥‥だが、あの日。逢初女史を見て俺の中の何かが壊れたんだ。言い訳が許されるのなら、それこそが我が内なるゼノス、この世界のゼノス王子だったと思う。『姫を我が物にせよ』という心の声に、我が手を止めることが出来なかった‥‥」

「うん。自分の中にエイリア姫が居たわたしならわかる。洞窟でもそんなこと言ってたもんね」


 結局、「憑き物」の正体はアトミスのゼノス王子で「逢初愛依 VS ツヌ国ゼノス」は同時に「エイリア姫 VS アトミス国ゼノス王子」のタッグマッチだったってことだよね。うう、ややこしい。

 今、こうして私が異世界に転移したから、ある程度は体感と納得があるけど、あっちの世界にいたままなら到底信じられない話だよ。


「だからと言って、俺のしたことを全てゼノス王子に被せる気も無い。俺にもある種の感情や欲があった。実際に行動をしたのは俺なのだから、それに対してはケジメをつける。その証として、こうして君を訪ねて来たんだ‥‥‥‥」


 確かに、正気に戻った? かもなゼノス氏はいい人オーラを出してた。だけどぬっくんの前で愛依さんを見つめて、「君を‥‥」なんて雰囲気出して欲しくないな。なんかやっぱりこういう人、天性の女たらしの匂いがする。


 あと愛依さんは、その女たらしさんに謝られると、瞳がうるうるしちゃうみたい。どうしたのかな? 「ちゃんと謝られる」ことに何か思い入れがあるのかな?


 ぬっくんと見つめあって「うん」って頷いてたので、まあ良しとするよ。

 たぶん、ぬっくんと愛依さんの間だけに通じるものが、あるんだね。




 ちなみにゼノス王子とエイリア姫の婚約は、当然立ち消えというか、消滅になってるよ。


 ツヌ国ゼノス氏。あの王子と同一人物とは思えないくらい節度ある態度だったね。出逢った最初からそうだったら、愛依さんの恋の行方もわからなかったかもだけど。


 でもやっぱりぬっくんは、どこかそわそわして不安げだったよ。そりゃ、相性確率が75億分の1、なんて言われたらね。ほっといたら愛依さん持ってかれるくらいの相性良しなんだから、平常心でいるほうが難しいよね?

 会見中、私がそっと彼の手(愛依さんとは反対の手、だよ)に手のひらを被せたら、強く握り返してきて。


 大丈夫。いざとなったら私が。


 ゼノス氏の顔面ボコボコにして、今度こそ放置! ゼッタイ戻さないから。




「逢初さん、エリーシア王。そしてみなさん、本当にすまなかった」


「‥‥いいえ。‥‥あなたはあっちの世界に戻るの‥‥?」

「戻ると思う」


「じゃ、もう逢うことはないわね。わたしたち」

「どうだろうか。海外駐在武官として外務省に出向する話が来ている。もしかしたら紘国のツヌ国大使館に赴任するかもしれない」

「え? ‥‥‥‥マジ?」


「これだけ流暢に紘国語を話せてしまうからな。はは。可能性は高いかもだ」

「大丈夫よぬっくん。何かあったら私が、今度こそ顔面ボコボコにして放置するから!」

「‥‥‥‥お言葉だが聖女様。あちらの世界で魔法を使う気か?」

「げっ‥‥‥‥!! そうだった」


「そうだな。こちらとしては赴任先は如何ともしがたいところだが。もし紘国だったとしても、君たちに危害を加えることは決してしないと、ここに誓おう」


「じゃ、今日で本当にお別れね? ゼノス君‥‥」

「‥‥愛依‥‥」


「はは。最後にそう呼んでくれるのか。本当に優しいな君は。‥‥‥‥そうだな‥‥」


 少しだけ寂しそうな愛依さんと、少しだけ心配を顔に出してるぬっくん。

 うん、まあ、正常な中二男子ムーブだよ。ぬっくんに共感しちゃって、私まで切なくなってきちゃった。


 そんなふたりを眩しそうに見ながら、最後に、ゼノス氏はこう言ったよ。





「もはや叶わぬ君との逢瀬、それは俺の、夢の続きを追うことで果たそうか」






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