第二部 第62話 マギアスは異世界マジ考察ガチ勢。当然あの設定も身も蓋もなく解題するよ!③
「そう。『勇者』とは。人類にとってのその本質とは?」
目を細めた姫様の、長いまつ毛が見えた。
少し憂えているようにも。
何だろう? 「魔王」から人々を救ったスゴイ人が「勇者」。
それで、万事ハッピーなハズなのに?
どうしてそんな顔、するんだろ?
「何だろね? 僕は全然わかんないよ」
「ウチもギブアップかな~。‥‥ひめっちは?」
「『人類にとってのその本質』でしょ? 私にもさっぱり」
ちょっと姫様と春さんの表情から、明るい答えじゃないのは感じる。
これ、重いハナシになりそうだよ‥‥。
私たちも黙ってしまった。3人でエイリア姫を見ると、その視線を受けた姫様が少しだけ口角を上げて切り出したよ。
「『魔王』を討伐した『勇者』。その者には、魔王と同等のチカラがあるのです」
私たちはすぐには、ピンと来ない。
「ん? そうじゃない? だって魔王と同レベルでないと魔王倒せないじゃん?」
「多少苦戦はするけれど」
「まあ物語的に、苦戦しないとつまんないんじゃね?」
「ええ確かに。魔王よりチカラは劣るとしても、でもおおよそ同等のチカラはあるのです。チカラを持たない、普通の民草からすれば」
「そっか‥‥‥‥‥‥‥‥あ!」
「どしたぬっくん。何か気づいたか?」
「そうだよ。その『勇者』が悪い人だったら? また『魔王』と同じチカラを持った人が前の人から取って代わっただけじゃん」
「え~~~~!? でも魔王は魔族のラスボスで、人類の絶対的な天敵じゃあ?」
「それは、今回私たちが倒した魔王のお話。この世界に残る伝承では異民族だったり、様々なケースがあります」
「そっか。ウチの家のお隣りさんが、『ちょっとムカついたから』くらいの動機で世界征服できる人だったらヤバいな!」
「ヤバいです。ええ」
「姫様がそんな言葉を。‥‥でも新鮮かも」
「うふふ」
「なんかわかってきた。『勇者』ってのはただの言葉で、ただのご都合なんだよね?」
「そうです。『勇者』や『英雄』という言葉には、『人類で、人類の味方で、正義の側で、人格者で』というニュアンスが恣意的に含まれているのです。『魔王を倒した、それと同等のチカラを持つ存在。だけど人類の味方』と。何のことはありません。そう呼ぶことで‥‥人類が安心したいからそう呼ぶだけなのです」
「もしかして。その人をそう呼ぶことで、その人自身もその気にならない?」
「そうです咲見さん。姫様の言の通り、魔王討伐者が『勇者』と呼ばれることで、自身が正義の人だと認識し、周囲との軋轢も減ります」
「言いかたは悪いですが。『勇者』と褒め称えられて悪感情を抱く人間はまずいません。人民からすれば、『勇者』、と褒め称えれば良く、ローコストハイリターンな呼称と呼べます」
「また春さん紘国の言葉を。でもそうだね。確かに『ご都合』だ」
「じゃあ魔王の代わりにこの世界をオレが‥‥邪魔するヤツはいないんだからなぁ‥‥ぐっひっひ‥‥」
「ってなる展開を防ぎたい、と。なるほど~~」
「もう一度整理して申し上げます。つまり『勇者』とは。『魔王』討伐を成し得た新たなる人類の潜在的な脅威を、ことさらに『勇者』という善のニュアンスを含む属性で呼称して、その人物の業績を顕彰し、その善性を吹聴し、人類との対決を回避させる。そのための方便、若しくはご都合に塗れた言葉。それが、『勇者』、です」
ここまで割と一気に、姫様が演説したよ。
ああ、お茶飲むの忘れてた‥‥。
姫様ぶっちゃけすぎだよ! とは言えないかな。
なんか「人間の世界って生々しいな。異世界って言ってもおんなじだな」って感じ。
「でも僕はあれだね。もし『勇者』って呼ばれてもじきにこの世界から居なくなるし。‥‥そうなんでしょ?」
ぬっくんが思いだしたようにそう言って。
姫様はまた優雅に、ゆっくりと頷いたよ。
「ええ。呼び寄せておいて誠に身勝手な言説ですが。なので暖斗さんが、『勇者』という立ち位置で今後困ることは無いということです。暖斗さんも、この世界も」
「そっか。この世界にとっても都合がイイのか。さっきのハナシ的に」
「あ~~もしかして春さん。私たちを召喚転移したのって、そういう心配を無くすため?」
「全部がそう、ではないですが。まず魔王を倒せなければどうしようも無いですし。でもそうですね。この世界の人類から、討伐後の心配事がひとつ無くなるのは確かです」
「勇者はいずこからか現れ、魔王を倒して世界を救い、やがていずこかへ去っていく。それが最良なのです。ふふふ」
最後のこの姫様の言葉に、コップを降ろしたぬっくんが苦笑。
「ああ~~。ソコだけはゲームのまんまなんだ~」




