軍事国家の意地
「少々…………疲れ……」
その言葉を発した後、剣聖の目から光が失われた。
「相手が決まった技を繰り出してくるとは限らない……か」
剣聖の決死の一撃。
まさか突いてくるとは思わなかった。
もしもそのまま相対していれば、俺も無事ではすまなかったかもしれない。
以前戦った時に、剣聖の神速は防ぐことができた。
その時の経験則から、同じ型同士なら負けるわけがないと俺も神速で相対したけど、まさか剣聖が自分の技をさらに改良して使ってくるとは思わなかった。
神剣流は昔からあったと話していたけど、それほど自分の技に思い入れはなかったのか?
これが訓練なら、勝敗は分からなかったかもしれない。
でも悪いな。
これは殺し合いなんだ。
剣聖の剣先が俺へと届く直前、咄嗟に避雷神を使わせてもらった。
そうしたことで突きは横へ逸れていった。
だけどその一回で、俺の魔力は完全に切れてしまった。
これから先、俺は雷魔法も避雷神も獅子脅しも使うことができない。
「今まで使えていたものが使えなくなると……不安だな」
敵はまだ多い。
赤い鎧の魔者や魔人が多くいる中で、俺は戦い切れるのだろうか。
「……シーラとやっと会えたんだ。こんな所で死にたくはない」
雨に打たれている剣聖の亡骸を見た。
その顔に曇りはない。
何かスッキリとしたような表情だ。
「ガルムには気を付けろ……か」
剣聖がこの戦いに参加していたことで、【怪童】のメンバーはやはり『裏』と同じ立場にいることが分かってしまった。
ガルムは一体何をするつもりなのか。
俺をどうしたいのか。
「もしも俺が扉を開けて、この銃をガルムが使うことができていたら俺は…………あの場で殺されていたのだろうか」
魔人を使役して来たるべき時のため、人間を殺すために兵力を蓄えようと、伝説の武器を取りに来ていたのだとしたら俺は始末されていたのだろうか。
しかし、結局ガルムは使うことはできなかった。
だから代わりに俺に魔人を使役させるよう仕向け、最終的にこの魔人達を何かしらの方法で俺から奪う算段に変えたのかもしれない。
「考えていても仕方がない。剣聖がこの戦いにおける敵の指揮官なら、後は討ち取ったことを知らせれば済む話だけど……他に指揮官がいた場合はその限りじゃないな」
まだ戦いは終わりじゃない。
後のことは後で考えよう。
俺は建物の上へとのぼり、少し高い所から国の中を見回した。
雨が降っている関係で火の手はほとんど見えない。
中央の城も襲われている状況はなし。
戦闘していると思われるのは…………左右の入り口方面か。
「どっちに行くべきかな」
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「近付くな! 遠距離攻撃と罠を多用して分散しつつ攻撃を加えろ!」
星宝三龍将ドットは上級魔人を相手にしていた。
新生大隊の多くと大隊長以下50名の部隊を引き連れて西門を警戒中、突如として上空から現れた上級魔人によって一気に場を乱された。
本来であればものの数分で兵士は残骸と化し、たちまち西側地区は壊滅しているだろう。
しかし彼もまた軍のトップ。
的確な指示により兵士を分散。
被害を最小限に抑えつつ、噂話でしか聞かなかった敵へ対する対策を、何年も、何十年も考えてきていた。
「シャッタード都市から流用されてきた兵器を使用しろ! 上級魔人にはそれが有効だ!」
魔人は知能を持たない。
主人の命じた意思を元に動くだけの人形である。
それを聞いたドットは、大国間で結んだ同盟を利用し、シャッタード都市から貿易にて魔術兵器を持ち込んでいた。
『無価値な生涯』
そのように名付けられた魔術兵器は一言で言うと爆弾だった。
地面にセットされた兵器は、ペアリングされた腕輪から魔力を送り込むことで、人の形をした土の塊となる。
見れば誰しもがすぐに人形だと分かるが、魔人にその区別はつかない。
人形を人だと思い込んで攻撃した瞬間、人形の中に込められた火魔法が破裂し、攻撃したものを爆発が喰らう。
一個につき上級魔法並みの魔力を使ってしまうのが難点であるが、この国では剣術を重きに置いているため、魔力があっても魔法を得意としないものは多い。
そこにドットは目を付けたのだ。
「グオアアアアアアアア!!!」
上級魔人が人形に凶剣を突き立てた。
一瞬の閃光と共に、爆発音が起きる。
爆炎の中、それでも上級魔人は一見して無傷である。
この耐久力こそが真の怖さなのだ。
そしてそれはドットも理解している。
「少しづつでもダメージは与えているはずだ! 決して諦めることなく続けろ!」
周りの兵士が『無価値な生涯』を設置してその場を離れる。
遠距離から上級魔人に攻撃を加え、人形の方へと誘導。
そして爆発。
既にこれを何十回と繰り返している。
建物は吹っ飛び、一つ、また一つと隠れる場所が無くなっていくが、地形を把握している強みがある。
上級魔人の射線を切るように指示するのはドットの手腕だ。
「グウウウウ……」
上級魔人の動きが鈍くなった。
確実にダメージは蓄積されていた。
たとえS級討伐隊がいなくとも、ここは世界最大の軍事国家。
討伐隊が少人数で連携をとるように、軍もまた、大人数で連携を取ることができるよう精強に鍛えられていた。
「勝機……! ここだ! 畳み掛けろ!」
ここまで耐えてきた兵士達がその鬱憤を晴らすかのごとく飛び出した。
そしてこれが致命的な判断ミスとなる。
「グウ…………オアアアアア!!!」
上級魔人が凶剣を片手で大きく振り回した。
その太刀筋から生まれる衝撃波が、ありとあらゆる方向へと飛んでいく。
ドットも知らなかった情報。
上級魔人の最後の抵抗。
「う、うわああああ!!」
「よ、よけろるれあああああ!!」
「ぎゃああああああああ!!」
突っ込んだ兵士が真っ二つにされていく。
ここまで被害は0に近かったのに、ここにきて死亡者が増えてしまう。
圧倒的な実力差に、為すすべもない状況。
ドットの指示がという話ではなくなっていた。
「こ、こんな攻撃聞いていないぞ……!」
ドットは何とか物陰に隠れていたが、このままではジリ貧であることは分かっていた。
何かしらの手は打たなければいけないが、決定的な一手が見つからない。
「…………龍将、私が隙を作ります。奴の剣を防いでいるうちに、龍将が十の剣技で奴を……!」
そう、ドットに進言したのは、五天羅の一人であるラセツ。
彼は片手で重厚な盾を持ち、敵の攻撃を弾く戦い方をしていた。
この国では珍しく、フレニアルと同じ神剣流を用いない剣士だった。
「……あれを防げるのか?」
「誰かがやらなければならないでしょう」
「そうだな……。15mまでの距離まで詰めることができるのならば、後は私が何とかする」
今もなお斬撃が飛んでくる中、身を隠している場所で決意をする二人。
あるのは僅かな希望を灯した策と、己の鍛えてきた年月に伴う実力のみ。
「行くぞラセツ!!」
「はい! うおおおおおお!!」
飛び出すと同時に飛んでくるそれは、まるで斬撃の嵐。
一撃当たるだけで重厚な盾がへしゃ曲がる。
「がっ……! ぐっ……! うおおお!!」
ガンッ! ガガン!!
ラセツの体ごと持ってかれそうになるが、それでも確実に前進し、その後ろをドットが追随する。
上級魔人まで残り30m。
ラセツの左腕が千切れ飛んだ。
「あと…………あと少しだ…………!」
「おおおおおおおお!! ミラージュ王国のためにー!!」
反対側から10数人の兵士が、ドット達が飛び出したのを見て決意した。
これがミラージュ王国に捧げる命なのだと。
これが自分達の誇りなのだと。
上級魔人の攻撃が反対側に集中する。
瞬く間にバラバラの死体へと切り刻まれていく兵士達。
その姿に心の中で涙を流しながらも、二人は見逃さなかった。
一瞬にしてその距離を詰め、残りの距離僅か15mとする。
「今です龍将!!」
「おう!!」
ドットが投げたのはシャッタード都市の魔術兵器『無価値な生涯』。
それを上級魔人の足元に投げた。
即座に魔力を込め、人形が作られる。
それもまた即座に上級魔人によって破壊された。
同時に広がる爆炎と爆煙。
それに乗じて紛れ込み、神剣流十の剣技『心神流々』を繰り出す。
敵の気が逸れ、呼吸があった瞬間にのみ、流れるようにして心の臓を貫く。
上級魔人の強固な皮膚に、ドットの剣が貫通していた。
剣の周りから赤い血が噴き出したかと思うと、上級魔人はそのまま砂になって消え去った。
「上級魔人ッッッ!! 討ち取ったぁッッ!!!」
歓声をあげる者は少なかった。
喜んだ者が少ないという意味ではなく、生存者が少ないという意味で。
しかし、決して歓声が小さいというわけではなく、誰しもが誰よりも声を張り上げ、死んだ者達への弔いとして叫んだのだった。
今日という日は、星宝三龍将ドット・グリゼルが上級魔人を討伐した、伝説の日となった。




