第八師武
「次に向かうとしたら…………」
「何ということだ。貴公の夢はここで潰えるのか、剣聖よ」
「え?」
その場から離れようとした俺は、突然の声に振り返った。
そこにいたのは巨大な緑色の体格をした鬼のような生き物。
下顎から伸びた二本の牙が特徴的。
俺が見てきた魔者の中でも異端。
「少ない時間ではあったが、何としてでも目的を達成しようとする気概、我は嫌いではなかったぞ」
そう言って剣聖の亡骸を見下ろす魔者。
こいつは普通の魔者じゃないな。
もしや使徒か!?
だとしたら上級魔人より厄介だ!
(やられる前にやるべし!)
俺はポーチの中から青いビー球を数個掴み、地面に叩きつけた。
中から下級魔人が現れる。
「ほう……魔人を使役するその力、貴公が噂の人間か。確か……ヤシロミナトと言ったか」
!!
俺の名前を!?
「噂されるほど……有名になっちゃいねーよ」
「いやいや、『番犬』がよく口にしていた。グロスクロウ、ローズフィリップを討伐した腕前の事は我らの耳にも入ってきている」
『番犬』って誰のことだよ。
俺はそんな奴知らねーし。
「ここに貴公がいた事が、この男にとっての不運となったようだな。これほどの戦力を割いても、未だ目立った戦果が無いのは…………貴公のせいか?」
とてつもない圧力が飛んできた。
上級魔人のような意思のない威圧とはまた違う、明確な敵意を向けてきている圧力だ。
それと同時に雨足が弱くなってきた。
魔法の効果が切れ始めたのかもしれない。
「この国の人達の心が強かっただけだろう」
「心の強さでどうにかなるのであれば、己が力を磨く必要は無い」
「なら、あんた達よりも力があっただけさ」
「詭弁だな。しかしそれは、この場においても同じことが言えるだろう。力がある方が勝つ」
魔者が背中に背負っていた斧を持ち出した。
魔者の体と同じくらい、3m近くある巨大な斧だ。
「我は魔王ベルファイア様の配下、第八師武のフォルゲート。『番犬』には悪いが、ヤシロミナトはここで葬らせてもらう」
第八……師武?
アイラが言っていた魔王ベルファイアの10人の配下の一人か!
使徒じゃないのは助かったが…………魔王の中でのNO.8!
「くっ! 行け!」
俺の指示で下級魔人が咆哮を上げながら襲いかかった。
召喚した魔人は全部で6体で全て下級。
唯一、魔力を使わなくても使える俺の力。
下級魔人の後を俺は、雷鳥を引き抜いて続いた。
「魔人と戦うとは斬新である。しかしてその肉体」
ズゥオオオン!!
「まっこと柔い」
一振り。
一振りで下級魔人2体が真っ二つにされた。
まるで紙粘土だ。
「ふんっ!」
続いてもう一体が真っ二つにされた。
「ぐっ! 正面切ってはまずいか!?」
「引くや良し。しかして、ここに来るまでに我が背後に何の策も講じていないと?」
「何っ!?」
即座に後ろを振り返った。
しかし、辺りには誰もいない。
「嘘だ」
「はっ!?」
すぐ目の前で斧が振りかぶられている。
雷鳥で受け止められるか!?
でももし剣ごと叩き折られれば……死……!
「うおおおおおお!!」
剣を横からなぎ、振り落ちてくる斧の腹に添え、攻撃を受け流した。
少しでもズレていれば死んでいた。
数多くの経験が、俺の体を突き動かした。
「ぬっ」
「ゴオアアアアアア!!」
下級魔人の一撃が、フォルゲートの肩口に入った。
フォルゲートは大きく吹っ飛んだが、倒れる事は無かった。
下級魔人よりも大きな身体が、周りを小さく見せる。
圧倒的な体格差。
「今のを受け流すのか……。我も驚きの一芸だ」
「芸じゃねぇよ……! くそっ。下級魔人の一撃も無意味ってか?」
「我の体を下級魔人などという低俗な生き物と一緒にするな。オーガと呼ばれる高貴な種族ぞ」
「知らんわ」
瞬間、背後から風を切る音を感じ、俺は咄嗟に横へ一回転するように飛び跳ねた。
ドッ!
「がっ!」
右足に激痛が走った。
足を確認すると、矢が深々と貫通していた。
血が流れ出て、ズキズキとした痛みが足から脳へと繋がる。
「あれ。何でバレたかな。頭を狙ったのに、これだから人間の武器は嫌いなんだ」
およそ30mほど離れたところに、赤い鎧を着た男がいた。
いや、魔者だ。
剣聖と一緒にいた奴らと同じ格好をしてやがる。
「おっとすまない。先程、嘘と言ったのも嘘だ。策は講じておいた」
こいつ……!
脳筋みたいなデカイ図体しておいて、頭脳プレーなんかしてんじゃねーよ!
「やっぱり魔法で仕留めるべきでしたよフォルゲート様」
「いや、油断は出来まい。ヤシロミナトは攻撃を弾くという情報もある。攻撃動作の大きい魔法では気付かれる恐れがあった。一手一手確実に詰んでいく」
「実力もあるのに恐ろしい限りですこと。それじゃ…………デスフレイム!!」
黒い炎が唸るようにして魔者から放たれた。
「くそっ!」
俺は痛む足をこらえながら、ひたすらに逃げた。
「あれれ? 弾きませんよこいつ。もしかして使えないんじゃないですか?」
「油断するなと言っている。そのまま追い込め。我は魔人を始末する」
「へーい。デスサンダー!」
黒い雷が一瞬の間に襲ってきた。
俺は何とか雷鳥でそれを受け止める。
「げっ! なんだありゃ!」
雷鳥は雷を纏うことができる特殊な剣。
雷の魔法であれば防ぐことができる。
「足一本の借りは返してやるよ…………! 飛撃!!」
雷を纏った雷鳥から放たれた斬撃が、魔者へと飛んでいった。
魔者はそれを素早くかわす。
(上級魔人を…………召喚すべきか?)




