安否確認
「アイラ!」
「ヤシロ! 戻ってくるの早!」
再び修練場へと戻ってきた俺は、状況を簡潔明瞭に伝えた。
これからフェリスの家へと向かい、アリスさんとオーリスを救出すること。
アイラはシーラのこともあることから、シーラが目覚めるまでここで待機していてもらうことと、シーラが目覚めた時の状況説明をお願いした。
「分かった。でも…………」
「何だ?」
「……いいの? 私に大事なシーラさんを任せても」
「は? お前だから任せてるんだよ」
逆にアイラ以外に任せられる奴なんていない。
それほどに俺はアイラを信用してるんだ。
その言葉にアイラは満足したのか「任せて!」と力強く頷いた。
俺は修練場を飛び出し、フェリスの家へと走った。
電光石火が使えれば最速で着くのだが、市街地で道が入り組んでいるところでは電光石火は使えない。
直線的、もしくは開けた場所でしか使えないのが欠点だ。
それでも普通の人よりかは速い自信はある。
仮にも勇者と同じ身体能力だ。
トップではないけどトップクラスではあるはず。
道中に下級魔人が見えた。
俺は走りつつ獅子脅しを引き抜き、機銃掃射モードへと武器変換を行って撃ち続けた。
物凄い勢いで魔力が吸い取られていくと同時に弾は超高速で撃ち出され、下級魔人は穴だらけとなって青い液体を身体中から噴き出しながら倒れた。
片手銃タイプより早く、一点集中型散弾銃タイプよりも魔力を節約できるから便利だ。
シーラとの戦いで半分近く魔力を失ってしまったから、できるだけ迅速かつ節約しながら敵を倒していきたい。
各地で戦闘が起きており、できれば手助けしてあげたいけれど、まずはフェリスの家に向かうことが最優先であるため、この国の人達には悪いけど後回しにさせてもらおう。
俺は勇者じゃないから。
修練場を出て概ね5分ほどだろうか、フェリスの家が見えてきた。
いや、フェリスの家があった場所だ。
家が半壊している。
半分から左側が瓦礫と化してしまっているのだ。
「間に合わなかったか……!」
別に俺が責任を感じることじゃない。
守れと命令されて来たわけじゃないから。
でも、お世話になった人達を守れなかったことは俺の心を擦り切れさせる。
驚くほどあっさり人が死ぬこの世界は、俺にとって生き苦しい。
「グウオオオオ……」
瓦礫の方から唸り声が聞こえた。
青い体が見える。
下級魔人か。
「この家をこんな風にしたのはお前の仕業だな?」
家の壊れ具合から言って、コイツが空から直接家に降り落ちて来たのだろう。
流星のように降り注ぐこいつらを止める手立ては無い。
落ちて来たところを各個撃破しかない。
瓦礫に阻まれて動きが取れない下級魔人に向けて獅子脅しを構えた。
機銃掃射から片手銃へとモードを戻し、撃った。
グシャリという音と共に下級魔人の顔面にヒットし、顔が潰れた。
それでも下級魔人はまだ息がある。
「ガアアアアア!!」
ドンッ! ドンッ!
続けて二発。
同じ所にヒットし、さすがの下級魔人も虫の息となった。
獅子脅しにさらに魔力を込め、魂へと変換。
魂弾を放ち、下級魔人を青いビー玉へと変化させた。
「せめて亡骸を……」
俺は今しがた変化させたビー玉を砕き、下級魔人を呼び出した。
俺が撃った傷は無くなっており、命令を待つだけの怪物が現れた。
「ここにある瓦礫を全て片付けるんだ」
「グオオ……」
フシューッと地獄の瘴気のようなものを口から吐き出しながら、下級魔人が瓦礫を次々とどかし始めた。
パワーだけはあるからサクサクと作業を進めていく。
それでも瓦礫の数はそれなりに多い。
「一体だけじゃ足りないか……」
俺はポーチの中から青いビー玉を5つほど取り出し、地面に投げつけた。
ビー玉が砕けると同時に、同じく下級魔人が5体現れた。
「瓦礫をどかすんだ」
同じ命令をし、計6体の下級魔人が半壊している屋敷の瓦礫をどかし始めた。
黙々と作業を進める魔人達は、10分とかからずにある程度の瓦礫を排除してしまった。
その間、俺は無事だった片方の屋敷の中を探した。
「…………いないな」
瓦礫を片付けても、オーリス達は見当たらなかった。
こちらの屋敷の中にも誰もいなかったし、こうなってくると異変に気付いて逃げ出した可能性も出てくる。
「いないのなら無事だと願っておこう。他に優先すべきは…………ん?」
ふと気付いたのは、瓦礫がどかされた後の床にハッチの扉のようなものがあるのを見つけた。
鉄製でできたそれは、緊急避難用の脱出口のようにも見えた。
「もしかして…………」
俺は一つの可能性を確かめるために、鉄製の扉の取っ手を掴み、上へと持ち上げた。
ゴゴ……という音と共に開いた扉の先には階段が続いており、その先からは明かりが漏れていた。
俺は階段をわざと音を立てて降りていった。
「誰かいませんか?」
そんな風に声をかけると、反響した自分の声の後に返事が返ってきた。
「た、助けて下さい! 上に魔人が!」
女の子の声だ。
それも結構幼い。
段数はそれほどなく、俺は直ぐに地下へと辿り着いた。
そこには10畳ほどのスペースがあり、松明の明かりに照らされて数名の人影が見えた。
「上の魔人なら処理しましたよ」
「ヤシロさん!」
そこにはオーリスがいた。
声の感じからしてそんな気はしていたが、殺されてなんかいなかった。
「ヤシロさん! ヤシロさんだ!」
オーリスが泣きながら飛びついて来た。
顔は泣きじゃくっているが、一見して怪我等はないようだ。
それに、ここにいるのはオーリスだけではない。
アリスさんの姿や、屋敷の執事やメイドの方々を含めて6人ほどがいた。
「皆さんご無事のようで」
「ヤシロさんこそ……ご無事のようで何よりです。外には魔人がいたはずですが……ヤシロさんが倒してくださったのですね」
アリスさんがホッとしたような表情で話しかけてきた。
室内を見渡すと、いくつかの空気口と食料が常備されていた。
数日の間なら耐え凌ぐことは出来るだろう。
「上が半壊していたのでダメかと思いました。シェルターなんかあったんですね」
「ええ……。いざという時に主人が作っておいたんです。爆発音が聞こえたので、直ぐに全員をこの中に避難させました」
「奥様の判断のお陰で我々は助かりました。この中に入ってすぐに上で衝突音が聞こえて、魔人の呻き声が響いてきたのです」
アリスさんのナイス判断ってわけか。
伊達に龍将の妻で、フェリスの母親じゃないな。
「ヤシロさん! お父さんは? お姉ちゃんは見てませんか!?」
「城の方では見たけど……こんな事態になってからは見てないから分からないな」
「そう……ですか……」
ズビッと鼻をすすり、オーリスは俺から離れた。
鼻水が俺の服に付いてシミになっている。
だからといって怒ったりはしないけどね。
「上の状況はどのようになってますか? 私達はどこにいるのが安全でしょうか」
「ここにいるのが一番安全な気がしますね。上は今も定期的に魔人が降り注いでいて危険です。下手に城を目指すよりも、戦が止むまで隠れている方がいいと思います」
「ヤシロさんがそう仰るのであれば……」
「万が一のために地上に護衛を置いておきます。これからは俺かフェリスさんかドットさんが迎えに来るまで外には出ないで下さい。いつになるかは分かりませんが、数日は耐えることはできますよね?」
「はい。それぐらいの備蓄は用意してあります」
護衛というのはもちろん下級魔人だ。
アリスさん達が見れば混乱してしまうし、説明するのも時間がいる。
だから外には出ないように釘を刺しておこう。
他の兵士が見れば混乱が生まれるかもしれないが、その時はアッサリ殺られるように命令しておこう。
「それじゃあ俺は一度離れます」
「ヤシロさん!」
「何だいオーリス」
「…………気をつけて!」
「…………ありがとう」
俺は笑顔で答えた。
階段を登り、鉄製の扉を閉めた。
下級魔人に簡単に他の魔人や魔者が来た時には攻撃を加えるよう命令し、俺はこの場を離れた。
この国で良くしてくれた人達の安否は確認できた。
後はこの戦いを終わらせるだけだ。




