容赦無く
【剣聖視点】
「雨……だと?」
突然、豪雨が降り始めた。
発生していた火災が消火されていく。
さらに、落ちた雨粒が花を形成している。
「魔導級水魔法か……! 不自然な降り方をしたと思ったが、水蓮花が作られているということは間違いない。噂には聞いていたが初めて見るな。魔導級魔法を使えるのはハボックぐらいのものだが…………情報によれば三代目勇者の仲間であるフェリス・グリゼルもこの国に戻ってきていると入っていた……。あるいはそっちか?」
どちらにせよ、使った奴は戦闘不能だろう。
どちらも魔法以外に目立った特技はない。
それほどまでに魔導級魔法は魔力を消費する。
火攻めが封じられたとしても、こちらには次の一手がまだある。
正面に正門が見えてきた。
火の手は消えているが、門は破壊され、自由に出入りできてしまう状況だ。
兵と下級魔人が戦っている。
「囲め! 焦りすぎて突出するなよ! 浮いた駒は食われるぞ!」
指揮しているのは恐らく大隊長クラスだろう。
胸に刻まれている階級がそうだ。
7名を上手くまとめて下級魔人2体を相手にしている。
私は走りながら腰の剣に手を掛けた。
薄く鋭く、細胞すらも透き通すかと思わせるほどの刀身から付けられた名『透』。
「四の剣技……『兵城神』」
「大隊長! 外から人が……!」
と、私を指差していた兵士の首を間合いに入った瞬間に切り落とした。
居合いの形で敵に近づく剣技だ。
「な……!」
「『神速』」
そのままもう一人の兵の胸に剣を突き刺す。
薄すぎる刀身に、刺されても血は出ていないが心臓は貫いている。
引き抜くと人形のように崩れ落ちた。
「バカな……! あなたは……!」
「グオアアアアアアアア!!!」
陣形をあっという間に崩された兵士達は、瞬く間に下級魔人に殴り潰された。
私は指揮していた大隊長を狙った。
「くっ! 『神打』!」
「三の剣技『神羅』」
一撃は防がれた。
だが、残りの二撃で大隊長の両腕が切り落とされた。
「うおあああああああ!!!」
止めどなく血が吹き出す。
返り血が私にかかった。
他の兵士達は既に下級魔人によって全滅させられていた。
大隊長が苦しそうに膝をつきながら、私を見上げた。
「な…………なぜ……あなたが……!」
「……この国の本質を知らない貴様らも、同罪だ」
「あなたを英雄だと信じていたのに! 剣聖!!」
「私は英雄でも剣聖でもない。もはやただの…………復讐者だ……」
大隊長はそのまま、苦しそうに呻きながら事切れた。
私が『裏』の世界に堕ちていることは、既に多くの人が知っている。
にも関わらず、私が『裏』に堕ちた理由も考えず、きっと味方だろうなどと甘い妄言は吐く奴らは全て、復讐の対象だ。
汚れたこの国に染まった、悪しき者共は全て始末しなければなるまい。
だからこそ、この国に染まっていない人物もいる。
それは一兵卒から、この国の根幹とも言える主要人物まで幅広い。
三方向からの攻撃、魔王軍の撹乱、上空からの魔人。
これらで掻き乱した後に、威力を発揮するものは何か。
それこそが今回の作戦の肝。
それは、仲間だと思っていた者達の裏切り。
それが例え全体の1割に満たない数だとしても、味方だと思っていた人間に攻撃されれば疑心暗鬼となる。
数で勝る敵を散らすには、これ以上の効果が望めるものはないだろう。
「そろそろ動いてもらおうか。私がハボックを殺すのを邪魔されないためにも、道を空けてもらおう」
私は先へ進み始め、所々で戦っていた兵士達を見つけては斬り殺した。
あまりにも呆気ない。
これではただの作業だ。
世界最大の軍事国家と呼ばれるミラージュ王国も、元軍のトップであった私であれば簡単に崩壊させることができる。
ありとあらゆる弱点を知っている。
容易いことだ。
「う…………うう……」
呻き声が聞こえた。
見れば、まだ年端のいかない小さな女の子が、近くの倒壊した家の下敷きとなっていた。
完全に潰されてはいないようだ。
まだ息がある。
「う…………た……助け……て」
すがるような目で私を見てきた。
血に塗れた私に、僅かに動かせる小さな右手を必死に伸ばして。
昔の映像がフラッシュバックする。
故郷の村に置いてきた娘の元気に走り回る姿が、誰かに助けを求めるかのように手を伸ばしながら死んでいたのを。
「お……願……い」
私は引き寄せられるように近付いた。
周りに魔法で作られた水蓮花が咲き誇っていた。
私は彼女の前にしゃがみ込み、呟いた。
「あの世で娘と仲良くしてやってくれ」
グシュッ!!
眉間に剣を突き立てた。
刺さった部分から血が流れ、目を伝って流れ落ちる。
ふむ…………まるで赤い涙だ。
「あんた…………何をやってんだ……!?」
別の瓦礫の上に誰かが立っていた。
雨が邪魔してよく見えん。
だが見た事が…………。
「何をしてんだって聞いてるんだよ!!」
……こいつは驚いた。
なぜこんなところにこいつがいるのか。
レインフォースの話ではサンクリッド大陸に向かったと聞いていたが……。
「剣聖!!」
「なぜお前がここに……?」
ガルムの弟子、そして私が最後に剣術を教えた弟子がそこにはいた。




