指揮する剣聖
ついにこの日がやって来た。
ここへ辿り着くまでにどれほど遠回りしたことだろうか。
私一人では成し遂げられなかったことだろう。
元勇者ガルム。
奴の存在そのものに胡散臭さを感じていながらも、付いて来た甲斐がある。
私の家族を殺し、知人を殺し、故郷を焼き捨て、その罪を親友に着せたハボック。
貴様を殺し、この国を滅ぼすことで私の復讐は終いとする。
「剣聖、貴公の手筈通り、裏切りの兵士達が国までへの経路を確保している。後は攻め込み、魔人を上空から放つのみよ」
話しかけてきたのは体長3mは優に越すオーガと呼ばれる種族の魔者。
真っ赤な目をしていて、緑色の分厚い皮膚で下顎が発達しており、そこから二本の牙が伸びている。
巨大な斧を片手で持っていられるほどの力を持っている。
こいつは魔王ベルファイア配下、第八師武のフォルゲートと呼ばれる男で、火車隊という魔王直属の部隊を今回指揮している。
魔王ベルファイアの配下の中でも、使徒を除いてNO.8に位置する実力者だ。
正直なところ、私ですら勝てるかどうか分からないだろう。
だが、今は私の手足だ。
存分に使い倒してくれる。
「間も無くこちらも準備が整う。そのまま突撃命令を待て」
裏切りの兵士とは、ガルムが『裏』にいることを公表してから『裏』へと堕ちた兵達のことだ。
奴らは国に不満を抱いている者や、ガルムの熱狂的な信者であったりなど、多様な理由で『裏』へと参入している。
これを機とせず何というか。
私は奴らを扇動し、これほどまでミラージュ王国直近まで近づいても見つからないほど、発見状況を隠匿させている。
裏切りの兵士が一般の兵だけでなく、軍の中枢における人物達も『裏』へと堕ちているため、既にこの国の内部はガタガタだ。
「アマツユの国が攻撃されているという偽の情報は、貴公が放ったのか?」
「一時的な撹乱に過ぎないがな。数日もすれば誤情報だとバレるが、その前に国を叩けば問題ない」
魔族との領土境界線直近にある、ミラージュ王国の属国であるアマツユの国に魔族が侵略してきたという情報を、『裏』に属する兵伝いに流した。
注意を少しでも外に向けさせるための気休めだ。
「剣聖殿! 準備が整いました!」
伝令が報告に来た。
「よし、始めろ」
「うむ。攻撃を開始しろ! 襲撃の順序は予定通りだ!」
赤い鎧を着た火車隊の兵が、ミラージュ王国の正門へ向けて火球を放った。
火車隊の兵は50人に満たないが、その一人一人の実力は折り紙付きだ。
今放たれた火球も、人間で言えば魔術級のクラスだ。
「着弾まで3! 2! 1! 着弾を確認! 正門にいた人間はいずれも業火に呑まれている模様!」
「続いて西門! 東門にも放て!」
しばらくしたのち、国の左右でも爆炎が上がった。
あらかじめ左右にも配置していた火車隊の魔者が、同じように攻撃を加えたのだ。
「正門は開いたままの状態だ。中にも『裏』の人間はいる。閉められはしないと思うが、今のうちに攻め込めぃ」
「剣聖、魔人は少し後で構わぬのだな?」
「城壁の上には上空からの攻撃に対抗するために、魔術師が配置されている。三方向からの攻撃で散り始めた段階で魔人は送り込む。少し待ちだ」
「承知した」
三方向から攻め込んでいるといっても、その主力は50名ばかりの火車隊だ。
数では敵わない。
だが、ミラージュ王国内にはガルムのシンパが多く存在していた。
そいつらを上手く利用することで撹乱することができる。
「貴公はもう動くのか?」
「この戦いは私の復讐だ。私が納得できなければ復讐ではない」
「そうか。では我は魔人を放った後に向かうとしよう」
私は腰に下げている剣に手を掛けた。
これを作製したガリレオは死んだ。
奴とはそれなりに付き合いも長かったのだが、あまりにも呆気なく死んだので、悲しさは込み上げてこなかった。
だが、奴は己が作り上げた武器が活躍することに喜びを感じていた。
ならば私は、この剣で敵を斬り捨てることで奴への弔いとしよう。
「……全てを喰らい、滅ぼせ敵を」
私は国に向けて走り出した。




