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英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜  作者: もぐのすけ
アクエリア大陸 ミラージュ王国編

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烈火のウリエル

 気付いた時、私は見知らぬ一室に倒れていた。


「………………どこ?」


 覚えているのは、光に体を包まれたところまで。

 ミナトが私の手を掴んで…………。


「ミナト…………?」


 返ってくる言葉はない。


 周りには誰もいなかった。


 カーテンで仕切られ、薄暗い部屋の中で私は一人だった。


「また…………! まただ…………ミナト…………ゼロ! お父さん! お母さん!!」


 前にも感じた不安感が私を襲う。

 暗く、視界を飲み込むように闇が迫ってくる。


 体が震えた。


 忌々しい記憶が蘇ってくる。

 奴隷として殴り、蹴られた日々のことを。


「うわああああああ!!」


 自然と口から叫び声をあげていた。


 その時、ガチャリとドアが開いた。


「私の書斎に誰かいるのか?」


 そこにいたのは少し歳をとった男の人。

 お父さんよりも歳上に見える。


 黒色のローブを身にまとっていた。


「うう…………」

「……!! 誰だ!? どうやってここに入った! かわき、ひび割れろ! 意思をもって囲い、の者を捕らえ給え! 大地の神手(アースハンド)!!」


 男の人が唱えた呪文から、土で作られた大きな手が二つ現れ、私を掴もうと襲いかかってきた。

 その手を振り払おうと、身に炎を纏わせて迎撃する。


「むっ!? 無詠唱だと!?」


 土の手は焼かれて瓦解していく。


 部屋に炎が引火しないようにしつつ、なおも身体に炎を纏っておく。

 どんな攻撃が来ても対処できるように。


「通常魔法で捕らえることは難しいか…………ならば」


 男の手が新たに魔法を生み出そうと動き出す。

 それは、今まで私が見たことがない黒い光。

 禍々しく、見るものを不安にさせるような怪しい光。


「【闇魔法】強制人心掌握術ブラックアウト


 その瞬間、私に意思というものはなくなった。





 暖かい水の中でゆらゆらと浮かんでいるような、勝手に糸で操られているようなそんな意識。


 私が何者であるのか、どこから来たのか、男の質問全てに抵抗無く答えてしまい、何度も謎の魔法を重ねがけされ、私は徐々に記憶を失っていった。


 男はハボックと名乗り、私の事を『ウリエル』と呼んだ。


 ハボックは遠距離魔法の生成スピードを早める技術を私に教えると同時に、自分が私の飼い主であると意識付けた。


 そして私はハボックの命令通りに魔法を使って魔族を殺し、魔族が住んでいた国も滅ぼした。


 魔族だけじゃない。

 必要とあれば人も殺した。

 そう命令された。


 私が何かを思い出そうとするたびに魔法はかけられ、付けられた仮面は私の意識を支配し、意思の無い生活を送る。


 半年も経った頃には私に昔の記憶は無く、ハボックの言う通りに攻撃を繰り返すだけの機械となっていた。


 そのことに疑問すら抱かなくなっていた。



 だけどある日、一人の男の人を修練場で見かけた時、私の心にチクリと痛みが走った。


 …………なぜ?


 何かを思い出しそうになった。


 …………何を?


 分からない。

 考えたくない。


 何も考える必要はない。


 私はハボックの言う通りに攻撃するのみ。


 でも…………あの人の隣にいる女の子。

 あの子を見ていると……憎しみが込み上げてくる。


 隣にいるのはあなたじゃない。


 ……………………。


 ………………あなたじゃない?


 何で私は、自分があの人の隣にいることを想像した?


 何であの人が隣の女の子に笑いかけるたびに、胸が痛くなるの?


 どうしてこんなにも、切ない気持ちになるの?


 ……………………。


 分からない。


 分からない。





 次の日、私は自然と宿舎から出ていた。


 ここから出るなとハボックに言われていたのに、初めて私は命令に背いた。

 門壁の上へと移動して、高所から街並みを眺めた。


 自然と誰かを探していた。


 誰を?


 決まってる。


 あの男の人だ。


 でも見つけたのは女の子の方。

 彼女を見た途端、昨日のイライラが込み上げてきた。


(あの子を消せば……何かが変わるかもしれない)


 私は炎の槍を創成した。


 使い慣れた炎魔法。


 彼女に向けて射出した。


 勢いよく飛んでいった炎の槍は、彼女の水魔法によって阻まれたけど、私の方が力が優っていると判断できた。


「煉獄」


 彼女の周囲一帯を炎で包み込んだ。

 これで邪魔は入らない。


 私は門壁から飛び降り、炎魔法を上手く活用することで着地した。


 女の子は戸惑っていた。


「…………何で私を狙うの?」


 明確な理由は無かった。

 ただ、彼女を消せば何かが変わると思っただけ。

 だから私は質問には答えず「渦炎放射」と言って攻撃した。


 またしても水魔法で阻まれる。


 でも次の一撃で…………。


「アイラ!」


 煉獄で囲っていた炎が一部掻き消され、あの男の人が入ってきた。


 やっぱり、あの人を見ると心の奥がチクチクとする。


「大丈夫か!?」

「う……うん。何とか」


 ………………。


 ………………なにそれ?


 何でその子を庇うの?


 何で私をそんな目で見るの?


 イヤ。


 そんな目で私を見ないで。


 私は…………私は…………。


「おいアンタ、何が目的でアイラを攻撃したんだ。返答次第によっては女の子と言えど……」


 私は…………!


「…………槍火葬そうかそう!」


 私は淀んだ心をグッと押さえ込み、彼に向かって魔法を放った。

 彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐさま魔法を逸らして対応してみせた。


「ま……待ってくれ……もしかしてお前は……。お前の正体は…………!!」


 彼は私に何かを言いかけていたが、ハボックがやってきてしまい、私は厳しく怒られてしまった。


 去り際、彼のことを見た。


 何かを訴えるような、そんな目。


 心が痛む。


 やっぱり私は彼に特別な感情を持っている。


 でも、それが何かは分からない。




 宿舎に戻った私は、再びハボックに魔法をかけられた。


 でも、今回はいつもと違う。

 いつもなら、考えていたことは全てどうでもよくなり、ハボックの命令を守るだけの機械になっていた。


 それなのに今回は彼のことが頭から離れない。

 彼のことが忘れられない。


 彼の言葉、表情。


 その一つ一つが鮮明に思い起こされる。


 私は一日中、彼のことを考えていた。



 唯一、仮面が邪魔だった。

 彼のことを考えると、心が苦しむことを不要なものだと仮面が判断して、頭の中から排除しようとしてくる。


 頭が痛い。


 何も考えるなと、本能が呟いてくる。

 飼い主の命令に従っていれば楽だと呟いてくる。


 これは本当に私の本能……?


 分からない……!




 そして次の日、修練場でたたずむ私の前に彼が現れた。


 まるで全速力で走ってきたかのように息を切らし、だけどその顔は安堵したように微笑んでいて。


 やっぱり……彼は私の心を締め付ける。


「…………シーラなんだよな?」


 答えられない。

 私はシーラじゃなく、ウリエルだから。


「お……俺さ、頑張ってここまで来たんだぜ? あの時…………転移魔法が飛んできた時、お前のことを絶対に守るって言ったのに、守ってやれなくて……」


 答えられない。

 私にはその記憶がないから。


「だから何とかして帰ろうとして、魔王なんかとも戦って死にかけて……」


 答えられない。

 私には関係ないことだから。


「ここに来たのは偶然だけどさ、それも全部、お前とゼロを探すためにさ」


 答えられない。

 ゼロという人も知らないから。


「…………なぁ…………なんか言ってくれよ…………シーラ」


 シーラなんて知らない…………。


「私は…………私の名前は…………ウリエル」


 彼が苦虫を噛み潰したような顔をした。


「…………仮面を外してくれないか?」

「…………それはできない」

「なぜ」

「……ハボック様との約束……だから」


 約束じゃなくて、そう命令されてるから。

 命令は逆らえない。


「貴方を見ていると…………心が苦しくなる……」


 こんな気持ち、知りたくなかった。

 こんなに苦しいものだと知らなかった。


「こんな感情…………私には不要」

「…………そんなこと言うなよ……。それはきっと……とても大切なもののはずだ」

「貴方と話すことは、もうない」


 私は彼に向かって魔法を放った。

 前と同じように逸らされる。


 私の攻撃を回避し続ける彼は、攻撃をしてこなかった。


「やめろ! 俺はお前と戦いたいわけじゃないんだ!」

「私の前から…………消えて……!!」


 彼と長く話すほどに頭はズキズキと痛み、心はねじれるように苦しくなる。

 これ以上、私を苦しめないで……!


「シーラ!」

「私の名前は……ウリエル……!」

「違う! お前はレッカ族のシーラ・ライトナーだ!! 思い出せよ! 俺と会った時の事を…………旅をした日々を!!」

「知らない知らない知らないっ!!! うわあああああああ!!!」


 封じ込められていた感情が…………記憶が…………溢れ出して止まらない……!


 魔力が……暴走する……!!


「うわあああああああああ!!」


 ふと、ポケットの中に入っていた何かに手が触れた。

 何かは分からない。

 だけどずっと前からポケットの中に入れていた、いくつかの石のようなもの。


 刹那、彼に助けられている時の映像が頭をよぎる。

 名前を呼ばれ、頭を撫でられて嬉しそうにしている、私の映像。


 溢れ出ていた魔法が止まる。



 ピッ。



 視界が開ける。

 頭がクリアになる。

 記憶のダムが決壊した。


 目の前に彼の笑顔が見える。


「ああ……なんだよ。やっぱり、お前じゃんか……」


 …………何で私は忘れていたんだろう。


 最も信頼していた彼のことを。


 大好きな彼のことを。


「久しぶりだな……シーラ」


 そうだ…………私はシーラ・ライトナー。

 そして彼は…………ヤシロミナト。

 もう二度と………………忘れるもん……か……。

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