国滅ぼしと八代
勢いよく修練場の扉を開けた。
先日とは違い、中に人はいない。
いや、中央に1人だけいる。
口元のみ露出させた仮面をつけ、ローブを被った少女が。
「………………」
少女は顔だけをこちらへ向けたが、何も喋らない。
ただ、ジッとこちらを見ていた。
「…………シーラか?」
「……………………」
返事はない。
これでもし別人だったら笑いものだが、俺の中では答えが出ている。
あれはシーラだ。
「…………シーラなんだよな?」
「……………………」
「お……俺さ、頑張ってここまで来たんだぜ? あの時…………転移魔法が飛んできた時、お前のことを絶対に守るって言ったのに、守ってやれなくて……」
「……………………」
「だから何とかして帰ろうとして、魔王なんかとも戦って死にかけて……」
「……………………」
「ここに来たのは偶然だけどさ、それも全部、お前とゼロを探すためにさ」
「……………………」
「…………なぁ…………なんか言ってくれよ」
なんで無言なんだよ。
なんで何も話してくれないんだよ。
怒ってくれてもいいんだぜ。
約束を守ってくれなかったってさ。
それぐらい、お前とまた一緒になれるなら何でも受け入れるよ。
「シーラ…………」
「………………私は」
っ!
なんだよ話せるじゃん!
なんだ?
怒りの言葉か?
なんでも言ってくれよ!
「…………私の名前は……ウリエル」
なん……だよ……。
なんだよそれ。
そんな答えが聞きたいんじゃない。
俺が求めているのはそんな答えじゃないんだ。
「…………仮面を外してくれないか?」
「…………それはできない」
「なぜ」
「……ハボック様との約束……だから」
奴は制約だと言っていたな。
見た目を隠すためだけのものだと思っていたけど、もしかしたら、あの仮面にも何か仕組みがあるんじゃないのか?
もしそうなら……無理矢理にでもあの仮面を剥がす。
「貴方を見ていると…………心が苦しくなる……」
少女が自分の胸を押さえながら言った。
…………もしかして彼女の中にはまだ俺の存在が残っているのか?
「こんな感情…………私には不要」
「…………そんなこと言うなよ……。それはきっと……とても大切なもののはずだ」
「貴方と話すことは、もうない」
ゴウッ!! っと両手に巨大な火の玉を作り出した彼女は、こちらに向けて放った。
結局実力行使しかないのか!!
「避雷神!!」
雷の膜が身体中に広がり、二つの火球が横に逸れて爆発を起こした。
「槍火葬」
続いて炎の槍が射出される。
が、同じように俺からは逸れていった。
床が燃えながら大きく穴をあけた。
「無駄だ! 俺には効かないのはお前もよく知っているはずだ!!」
完全防御の雷魔法、『避雷神』。
魔王の攻撃ですら防げる代物だ。
「…………」
キンッと俺の足元に魔法陣が浮かんだ。
これは遠隔に魔法を発動するときに発生するものだ。
「螺旋火」
足元から渦を巻くように火が立ち昇った。
だから効かないと…………いや、これはマズイ!!
「うおおおおおお!?」
身体が焼かれた。
避雷神は確かに発動していた。
なのに俺に攻撃が通っている。
俺にはガルムの召喚恩恵があるため、魔法耐性が高いのかそれほど大火傷には至ってないが、避雷神が看破されたのはなんでだ?
いや…………ある意味当然の結果か……?
避雷神は魔王グロスクロウの固有スキルと似ている。
そして奴も下からの攻撃は回避していた。
避雷神も違わないわけがないのに、今までこの弱点に気づかなかったなんて……!
再び足元に魔法陣が現れた。
「やめろ! 俺はお前と戦いたいわけじゃないんだ!」
「私の前から…………消えて……!!」
火柱が立ち昇った。
それを右に転がりかわす。
そこへ槍火葬が放たれた。
「……避雷神!」
炎の槍が横へ逸れた。
足元以外の攻撃は全て防げる。
「シーラ!」
「私の名前は……ウリエル……!」
「違う! お前はレッカ族のシーラ・ライトナーだ!! 思い出せよ! 俺と会った時の事を…………旅をした日々を!!」
「知らない知らない知らないっ!!! うわあああああああ!!!」
シーラの身体中から炎が噴き上がった。
かつてないほどの高火力の炎が、俺目掛けて飛ばされてくる。
避雷神を発動している状態だが、少しでも解いてしまえばさすがの俺でも無事では済まない。
周囲一帯が常に炎に包まれている状況だ。
シーラの姿は全く見えない。
「くっ……! あまり長時間は避雷神は使えない……! 燃費が悪すぎるぞクソっ」
俺の魔力が尽きるのが先か、シーラの魔力が尽きるのが先か、はたまた建物が崩壊するのが先か。
俺は雷鳥を引き抜いた。
一瞬でも隙ができたら、シーラの顔に付いている仮面を叩っ斬る。
それで闇魔法が解かれる事を信じて。
それでもダメならその時は…………ハボックを殺す。
剣道のように中段に剣を構え、いつでも踏み出せるように足に力を込めた。
神剣流一の剣技『神速』の準備だ。
「うわあああああああああ!!」
依然としてシーラの叫び声が聞こえる。
聞くに耐えない悲痛の叫び声。
苦しむ彼女に俺がしてやれること、何があるのだろうか。
「…………頭を撫でてやること、なんてな」
炎が途切れた。
瞬間に俺は最速で飛び出した。
瞬きの間にシーラの前へと移動し、雷鳥を振り下ろした。
ピッ。
仮面に一筋の線が入り、縦に仮面が割れた。
「ああ……なんだよ。やっぱり、お前じゃんか……」
見間違うわけがない。
彼女は紛れもなく、レッカ族で、魔者で、ゼロとよく喧嘩していた、俺の相棒。
「久しぶりだな……シーラ」
彼女は意識を失ったように俺の胸へと倒れ込んだ。
そんな彼女を俺は二度と離すまいと、力強く抱きしめた。
ちょっとしばらく更新が止まるかもしれません。
すいません。




