疑念
状況を察するに……音の原因はこの二人か?
だけどなんでこの二人が?
「アイラ!」
「……!! ヤシロ……!」
「この炎は……邪魔……だ!!」
俺は『雷鳥』を引き抜き、振り下ろした剣圧で一部の炎をかき消した。
この炎は国滅ぼしの彼女が作り出したのか。
「大丈夫か!?」
「う……うん。何とか」
アイラに駆け寄って傷を見た。
若干の火傷はあるが、それほど大きな怪我はしていない。
「何がどうして……」
「ヤシロくん! 速いよ君は……って何だこの炎は!?」
遅れてバーティゴがやってきた。
城の前だというのに誰も介入できていなかったのは、この炎のせいだろう。
俺が搔き消した部分以外は、今もなお燃え盛っている。
「……………………」
「おいアンタ、何が目的でアイラを攻撃したんだ。返答次第によっては女の子と言えど……」
「…………槍火葬!」
槍……火葬……?
バカな……。
その技は……アイツが…………シーラがオリジナルに考えた技だぞ。
彼女の手元で炎の槍が生成される。
ゴウゴウと燃え盛る炎の槍が、俺を目掛けて射出された。
全く一緒だ。
「ヤシロ!」
「ぐっ……! 避雷神!!」
炎の槍は直前で軌道が逸れ、俺の左側を掠めていった。
なぜ……あの女の子がこの技を……?
「ま……待ってくれ……もしかしてお前は……。お前の正体は…………!!」
「何をしているんだウリエル!!」
俺が彼女に問いかけようとした時、周りの炎が瞬時に掻き消され、門の入り口から一人の男が駆け寄ってきた。
黒いローブに身を包んだ男、星宝三龍将のハボックだ。
彼が現れたことで、国滅ぼしの少女は攻撃態勢を解いた。
「ハボック龍将! お疲れ様です!」
「挨拶などは不要だ! 周りにいる見物客をハケさせろ!」
「は、はっ!」
ハボックが周りにいた門兵に指示を出し、ざわついていた見物客達を散らせに行った。
「ウリエル! お前は宿舎から出るなと指示をしていたであろう! 勝手な行動を取るな!」
そう言ってハボックは、彼女の頭を叩いた。
「お、おい! 待て!」
「んん……? おや、これはこれは。ドット龍将が連れて来ていた青年じゃないですか。私は今少々忙しいので後にしてもらえますかな?」
「俺の仲間がその子に襲われた。どういうつもりか説明してもらおう!」
「お、おいヤシロ君。あのお方はこの国でもトップ3に入るお偉い方なんだ。あまり無礼な物言いは……」
バーティゴが震えながら耳打ちしてきた。
知ったことか。
今はそれよりも優先すべきことがある。
「怪我を…………したのですかな? では、私が治しましょう」
「結構だ。彼女には近づかないで頂こう」
「む…………」
ハボックの表情が曇る。
厚意を無下にしたのだから、それは当然だ。
だけど、それよりも今、この人は信用できない。
国滅ぼしの少女。
彼女の正体に俺は、一つの疑惑が浮上している。
その真偽を確かめるまで、彼は信用できない。
「なぜアイラを攻撃したのか、まずはそれを教えてもらう」
「……彼女は少々無口なところがある故に、何か誤解が生まれてしまったのやもしれませんな」
「言葉を交わす前に、その子は攻撃してきたよ!」
アイラが火傷した部分を水で冷やしながら言った。
「私の姿を見た途端、いきなりだった!」
「失礼ですがお嬢さん、あなたは魔者では?」
そう言われて、初めて俺もアイラが帽子を被ってあないことに気付いた。
アイラが被っていた帽子は恐らく、戦いの中で飛んでいってしまい、青色の髪の毛と猫耳が露出していた。
誰の目に見ても魔者だと一目で分かる。
くそ……!
この場の情報が多すぎて気付くのが遅れた……!
「こ……これは……」
「ウリエルは魔者に対する攻撃性が異常に高いのです。あなたが魔者だと気付いたから攻撃したのでは?」
「うっ…………」
そこを突かれると……確かに弱い。
この国において、魔者に対して攻撃すること自体は正当性がある。
向こうに非はないと言える。
「ドット龍将が連れて来ていたお二人ということもあり、ウリエルも街中で魔法を使ったのは悪いことでもありますから、今回に関しては魔者である貴方がここにいることは不問と致しましょう。申し訳ありませんが、今回の件はこれで終了とさせて頂きます」
向こうが悪いはずなのに、何故かこちらが悪いように仕立て上げられている。
門兵も、バーティゴも、周りの野次馬も、アイラが魔者だと分かるや否や、すぐにこちらを敵対するような目で見てきた。
あのジジイ…………フェリス達が嫌う理由がよく分かる。
口が上手いというか、周りを味方につけるのが上手い。
状況を把握して、情報を精査する力が俺なんかよりもよっぽど長けている。
「さぁ行くぞウリエル」
「………………」
国滅ぼしの少女が無言でこちらを見てくる。
やはりこれだけは確かめずにはいられない。
彼女は…………シーラ・ライトナーなんじゃないかと。
「ハボック…………龍将」
「何ですか?」
「彼女の…………仮面を外してはもらえませんか?」
顔さえ確認できれば……。
俺がシーラの顔を見間違うわけがない。
一目さえ見れれば……!
「許可できかねますね」
「な、なぜ!?」
「彼女のこれは私との制約です。外すことは、如何なる場合であっても許しません」
制約……って……!
炎を槍に変化させる魔法を使う奴ぐらいいるとは思う!
だけど!
槍火葬という技を使う奴なんて、シーラ以外にいるはずがない!
「それでは失礼します」
「ま、待て! 一目だけでいいんだ! 彼女は……!」
「しつこい方ですね。例え彼女が貴方の知り合いであったとしても、彼女は貴方のことは知りませんよ」
「それはどういう意味ーーー」
その時のハボックの顔を俺は忘れない。
下卑たクソの肥溜めみたいな笑みを浮かべる奴の顔を。
俺は思わず『獅子脅し』に手を掛けたが、それをアイラが止めた。
「ここじゃダメだよ。アイツの思うツボ」
そう言われて周りを見た。
兵が何十人とこちらを見ていた。
軍のトップに敵意を見せたとなれば、タダでは済まない。
万に一つもこの程度の人達にどうにかされると思わないが、それではシャンドラ王国の二の舞だ。
生き辛く、目的を達成できなくなる。
「ありがとう、アイラ。冷静になれたよ」
アイラがニッコリと笑った。
火傷している部分が痛々しい。
俺が治癒魔法を使えれば良かったんだけど……。
「あの国滅ぼしの女の子…………ヤシロは知ってるの?」
「確証は無い。だけど……彼女が使っていた技は、前に話した俺と一緒に旅をしていた魔者の女の子と同じ技だ」
「えっ! じゃあもしかしてあの女の子が!?」
「分からない…………真偽を確かめる必要があるな。だが、あのジジイをどうにかしなければならない」
ここまで腹が立ったのは初めてだ。
そっちがその気なら、こっちもそれなりの対応は取らせてもらう。




