国滅ぼしとアイラ
私はヤシロに二手に別れて情報収集するように進言した。
これまでずっと、ヤシロに任せてきて迷惑ばかりを掛けている。
それはシルヴァード族としてのプライドに反する。
ヤシロとは対等な存在でありたい。
守られるだけじゃなく、横に立って並べるように。
「私だっていつまでもヤシロにおんぶに抱っこじゃないんだよ? シルヴァード族として、一人で情報収集ぐらいできるよ」
そう言って胸を叩いたら、残念な顔をして胸のところを凝視してきた。
思わず殴りそうになった。
ヤシロと別れた後、私はフェリスさんの家に向かった。
ヤシロは頼みづらいと言っていたけど、本来は私がお願いすることだ。
だから今回は情報収集ということにしておいて、私が一人でお願いできるようにヤシロと別れたんだ。
「こんにちわー」
ガチャ。
中から出てきたのはオーリスちゃんだった。
「あれ? アイラさんこんにちわ!」
「こんにちわ」
「アイラさん一人? ヤシロさんは?」
「ちょっと今日は別々に行動してるんだ。フェリスさんっている?」
「あー……お姉ちゃんは今日もお城に行ってるよ。王様に会いにいってるんだって」
昨日は報告があるからお城に残ってたけど、今日は謁見とかかな?
フェリスさんも忙しそう。
「帰ってくるまであがって待つ?」
「いえ、大丈夫。そしたらお城の方に行ってみるね」
「でもお城に入るのは難しいと思うよ?」
「んー……外で待ってるから平気!」
いざとなれば知らない人に聞き込みすればいいし。
私だってそれぐらいできるんだからね!
オーリスにバイバイを言い、お城の方へと向かった。
この辺りは露店が多く、人も賑わっている。
ただ、帽子で少しは隠しているとはいえ、私の青い髪は珍しいらしく、ジロジロと色んな人に見られる。
今までも見られることはあったけど、もう慣れたと思っていたから大丈夫だった。
でもそれは、近くにヤシロがいたからだ。
一人でいるのがこんなにも不安だと思わなかった。
私は帽子を深く被り直した。
「嬢ちゃん、一人か?」
声をかけられた。
ちょっといい感じに酔っている男の人だ。
顔が赤い。
「良かったら、これやるよ。おじさん、お腹一杯なんだ」
そう言って渡してきたのは、黄色い二又に別れた果実だった。
一見して美味しそうに見えるけど、私は知ってる。
この果物には神経毒があり、そのまま食べると麻痺症状を起こさせることを。
この人が何を考えて私に渡そうとしてきているのか、手に取るように分かる。
子供だと思ってバカにしている。
「ねぇ、これ毒あるよね?」
「え、えっ!? い……いや……そんなことは……」
「人を騙すならもっと上手くやらないとダメだよ。じゃないと…………」
私は男の人の顔に水を生成した。
被り物のように顔が水に包まれ、苦しそうに水を払いのけようとしてるけど、水は顔から離れようとしない。
というか、させない。
倒れ込み、喉を掻き毟り始めたところで、魔法を解いた。
男の人がぜーぜーと息をする。
「死んじゃうよ?」
「ず……ずびばぜん……!」
少しばかり人が集まってきたので、私はすぐにその場から離れた。
師匠のおかげで魔力操作が上手くなったのか、細かな水操作ができるようになった。
たぶん今なら、手の平サイズの水でも人を溺死させることができると思う。
まぁやらないけどね。
さっきのだって脅しの一種だし。
絡まれた時にヤシロが良くやってたのを真似てみただけだもん。
人を殺めでもしたら、それこそ私はバネッサと同じになっちゃう。
力は正しく使わなきゃダメなんだ。
お城の近くにやってきた。
昨日はここから中に入ったんだ。
でも、もちろん今は入ることが出来ないのは分かってる。
だから門兵の人に話を通して、フェリスさんが戻ってきたら私が待ってることを伝えておいてもらおうかなって思う。
その間私は、この辺りで時間を潰していようかな。
それにしても高い城壁だなぁ。
ちょっとやそっとじゃ越せない高さだよねぇ。
…………って、壁の上に誰かいる……?
アレって確か…………修練場でずっとヤシロの事を見てた人だ。
国滅ぼしの女の子。
何であんなところにいるんだろう…………。
「………………」
「!!!」
突然、その女の子が炎魔法を私に向かって使ってきた。
槍のような形をした炎が勢いよく飛んでくる。
「くっ! 水滝!!」
大量の水魔法を地面から生成し、炎魔法を防ぐように壁を作った。
ジュワアアア!! という水が大量に蒸発する音がして、炎の槍が水の壁を突き抜けてきた。
「な、なんて高密度の魔法なの!?」
あっさりと突破されるなんて……!
それよりも、何で彼女は私に攻撃を……!?
「何だ!? 何事だ!!」
門兵達が慌てた様子でこちらに近付いてきた。
とりあえずあの人達がいればこの場は……!
「煉獄」
私の足元周辺に大きな魔法陣が現れ、ゴウッ! という音と共に私の周りが円状に炎に包まれた。
「うおっ! なんだ!? 炎が突然……!」
門兵の人達が炎に阻まれ、こちらに近寄れなくなってしまった。
壁上にいた女の子は、炎の円に入るように壁から飛び降りた。
この高さから!? と思ったけど、女の子は着地寸前に炎魔法を勢い良く噴射し、勢いを上手く殺した。
魔法の扱い方がかなり上手い。
なにより無詠唱で魔法を使っている時点で、人間の中でもマスタークラスのはずだ。
炎に包まれた中で、フードを被った女の子と私が対峙する。
「…………何で私を狙うの?」
「………………………………」
無言。
口元だけが出ている仮面を着けているせいで、表情が分からない。
私が魔族と分かったから……狙ってきてる?
その可能性もあるけど……それなら門兵の人達も近寄らせない意味が分からない。
一体何が目的で私をーーーーーー
「渦炎砲射」
彼女が小さく圧縮した、高密度の炎の塊を放ってきた。
「海壁!!」
それに対抗するために、水で作り出した巨大な壁を出現させた。
水滝よりももっと分厚い壁を。
炎の塊が水に触れた瞬間、激しい衝突音が響き、一瞬にして水が蒸発した。
辺り一面に水蒸気が舞い上がる。
「ああっ!!」
私の近くまで炎が迫ってきた。
完全に力で押し負けてる…………!
私じゃこの人の攻撃は止められない……。
これが国滅ぼしの力……っ!!




