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英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜  作者: もぐのすけ
アクエリア大陸 ミラージュ王国編

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そして剣聖は動き出す

〜数日前〜



「魔王ジェイドロード、魔王ローズフィリップを殺し、アクエリア大陸にいる魔王は残り一人となった。お前のシナリオ通りだな」


 《剣聖》ツォルクは、2代目勇者ガルムに連れられとある城へと足を運んでいた。

 今から誰と会うのか。

 彼は何となく察していた。


「僕のシナリオじゃない。これは僕のあるじのシナリオだ」

「私は、私の復讐を果たせればそれでいいと思い、お前に付いてきた。だが、実際に聞かされた話は私の想像していたものを遥かに凌駕している。お前はそれでいいと思っているのか?」


 ガルムは何も答えなかった。

 ただ、口元をいびつにゆがめ、笑った。


「…………まぁ、私はこの時のためにお前に力を貸していた。何も聞くまい」

「前にも言ったでしょ? これは僕の意思じゃない」

「ならば…………お前の主だという魔王の意思か?」

「そうだね、そうなるよ。全ては魔王様の意思だ。だから《剣聖》、あなたの復讐に手を貸すのも僕ではなく魔王様になる」


 荘厳な扉の前に二人は立った。

 ここはかつて、魔王ジェイドロードが鎮座していた部屋になる。

 そして今は、別の魔王が鎮座している。


 扉が重々しく開いた。


 中へ入ると、金色の鎧を身につけ、一寸の狂いもないほど綺麗に二列で魔者が立ち並んでいた。

 その先、椅子に腰掛け、肘掛に肘を置き頬杖を付いている男がいる。


 その姿は雄々しく、目付きは獰猛で、眉間にシワが寄っている表情は何者も近づけまいとしているようであった。


 圧倒的な重圧が《剣聖》を襲った。

 息苦しくなるような、動きが制限されるようなそんなプレッシャー。

 これは固有スキルでも何でもない、ただの威厳だった。


「其方が《剣聖》か……。なるほど、人間にしてはよく鍛えられている」


 低い声が《剣聖》の危機察知能力に警鐘を鳴らす。


(こいつはダメだ)


 本能が呟いた。

 戦闘能力の話ではない。

 恐らく、戦えば魔王ジェイドロードの方が強いだろう。

 だがこれは別次元の話であると《剣聖》は悟った。


 これが本物の魔王であると。


「魔王ベルファイア様、彼はその実力から我々の計画に大きく貢献し、魔王ジェイドロード討伐にも一役買いました。つきましては、当初より彼が望んでいた復讐の手助けをしてやれないかと思い、今回馳せ参じた次第です」


 ガルムが連々(つらつら)と理由を話した。

 普段のガルムからは想像出来ないほど堅く真面目な物言いに、《剣聖》は少しおかしく思った。


「なるほどな……。して、其方が望む復讐とは……?」

「ミラージュ王国の滅亡」


 ベルファイアの問いに、サラリと《剣聖》が言い放った。


「ほう…………ク……クククッ!! 人類側における世界三大国家の一つ、ミラージュ王国の滅亡ときたか! 其方、人間では《剣聖》と呼ばれるほどに慕われていると聞いたが、それでも人類に仇なすと?」

「私が世間にどう呼ばれようと知ったことではない。ただそこにあるのは、ミラージュ王国に住む人間に生きている価値は無いと思っている私がいること。ただそれだけだ」


 《剣聖》が冷たく言い放つ。

 その言葉に感情はこもっていない。

 あくまで冷静に言葉を発する。


「そこまでの恨みとは、なんだ?」

「私はミラージュ王国管轄のとある村の出身者だ。そこは貧しく、本国へ出稼ぎに出なければ家族は養えないほどに。私は村を救うべく小さき頃から友と剣の腕を磨き、国に士官し、多くの魔物、魔族を切り捨てた。だが…………私がある日、本国から戻ってきた頃には村には疫病が蔓延し、全ての住民が死んでいた。私の家族も含めてな」


 それが十数年前の話。

 その頃既に彼は《剣聖》と呼ばれ、星宝三龍将としてミラージュ王国で名を馳せていた。

 《剣聖》は家族を本国に呼ぶことはせず、村で過ごさせていたことが死という結果を招いた。


「疫病であれば国は関係ないだろう」

「私の村だけで流行る疫病などあるわけがない。私は原因を調べ、その結果疫病は人為的なものによるものと判明した。そして浮上した主犯格が…………私と共に剣の腕を磨いた友だった」


 屍累々の村を見た時、そして自身の親友が犯人だと知った時の《剣聖》の心情たるや、計り知れないほどの絶望感だっただろう。


 《剣聖》は話を続けた。


「友は即座に死刑、斬首された。私の目の前でな。だが、友がそんなことをするわけがないと思った私は独自に調査をした結果、ミラージュ王国の闇を見た。あの国の一部の人間は平気で闇魔法を使い、人権を尊重することなく人を道具として扱い、民を実験材料として使用していたことが分かったのだ」

「ほう…………。まるでヴィルモールのようなことをしていたとな? 人間も我々のことを悪くは言えないなぁ? ガルムよ」


 話を振られたガルムは、さぁ? というようなジェスチャーをとり、ベルファイアの言葉には答えなかった。


「つまらん奴め。つまりは《剣聖》よ、其方の村は国の実験台にされたと?」

「間違いなく」


恐らくは魔族を殺すための細菌兵器を開発していたのだろうと、《剣聖》は言った。


「そして私の友も闇魔法によって操られていたことも知る。それを知った私は国を捨てた。軍のトップでありながらもその事実に気付かなかったこと、家族の死に目に私は気付けなかったこと。そして人を人とま思わない国の人間共。そんな奴らに生きている価値はないと思わないか? だから一度滅ぼす。全てをゼロにする。報いを受けさせる」

「して、お前は我に何を求める?」

「戦力を貸して頂きたい。既に布石は打ってあるが、それだけでは足りぬ。国を滅ぼすには相応の戦力がいる。そのための力を」

「…………良かろう。上級魔人を3体、中級魔人を30体、下級魔人を200体、さらに火車ひぐるま隊を第8師武のフォルゲートに指揮させ、其方に貸し出そう」

「有り難く頂戴する」


 《剣聖》が腰を折り曲げてお礼を言った。


 通常の一国であれば瞬く間に滅ぼせるほどの過剰な戦力。

 その分、領土内が手薄になるが、ベルファイアにとってもミラージュ王国が堕ちれば、アクエリア大陸は実質支配したようなものであるため、実のところ《剣聖》を利用しているに過ぎない。

 そして《剣聖》もそれは分かっている。

 彼は目的さえ達成できれば、今後がどうなろうとも構わないと思っている。


 例えこの戦いを基点に、人類が破滅に追い込まれようとも。


 実際のところ勇者が不在で、魔王イズナとも揉めている今のミラージュ王国に、これを跳ね返すだけの力はない。

 ベルファイアの思惑は成功するだろう。






 しかし、ここにいる魔王にも元勇者にも《剣聖》にも知らない誤算があった。


 一つは、3代目勇者の仲間で魔導級魔法を使うことができるフェリス・グリゼルが国に戻って来ていること。


 二つ目に、一国を滅ぼすことができる魔法を使う少女が軍に属していたこと。


 そして三つ目に、魔王をも討伐しうる男がサンクリッド大陸には行かず、ミラージュ王国に滞在しているということに。

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