模擬試合
俺とシェラヘザードと呼ばれた男は、中央にある闘技場に立ち、剣を手に取った。
「これより、シェラヘザード・シリウスとヤシロミナトの一騎打ちを始める。見届け役はドット・グリゼルが務めよう。寸止め、または続行不能と見られる一撃が入った場合、危険な場合はこちらの判断で止めさせてもらう」
「うっかり殺しちまわないように、な」
シェラヘザードはニタニタと笑いながら、剣の握り具合を確かめている。
「ヤシロ、使うのは剣だけでしょ? 他の武器は持ってようか?」
アイラが聞いてきた。
「いや、別にいいかな」
「グリムの剣撃を防げる人が、この程度でどうにかなるわけじゃないから大丈夫よ」
フェリスは既に、俺が勝つと予想しているようだ。
期待に応えねば。
「ちなみにお前の流派は何だ? まぁ神剣流だとは思うが」
「何とも言えないな。神剣流もかじってるけど、基本は別の流派になる」
基本はガルム流。
神剣流は《剣聖》に教えてもらって八の剣技までは扱える。
最近はその二つを織り交ぜた独自の剣術を編み出すことに苦心しているところだ。
「俺は当然ながら神剣流だ。やはり世界で最も合理的と呼ばれる剣術は強い」
「そっか」
「すぐに終わらせてやるよ」
シェラヘザードが剣を構えた。
当然のごとく、神剣流の初手と言ったら一の剣技だ。
それは相手も分かっているはず。
「それでは始める。準備はいいな?」
「ああ」
「どうぞ」
ドットが手を振り下ろした。
「始め!!」
「神速ぅぅあああ!!」
最短で敵の懐へ詰め寄る【神速】。
相手が神剣流を知っている場合、最初にこれを使われると知られているため、対処されることが多いことから逆に使わないケースが多いみたいだが、シェラヘザードは当然のように使ってきた。
自身の速さに対応できないと高を括ったのだろう。
俺は水平に斬りつけてきた攻撃を防ぐと同時に、シェラヘザードの軸足を思い切り刈った。
奴は前のめりになっていたところに足元をすくわれたため、その勢いのまま空中で一回転をして飛んでいった。
「うおっ!?」
ビタン! とシェラヘザードは尻餅をついた。
驚きつつも直ぐに状況を確認し、立ち上がってこちらに剣を向けた。
「こ……こいつ!」
「シェラヘザードの奴……今一回転したよな……?」
「何かに躓いたのか……?」
周りに今の状況を把握できた奴は少ない。
速さは確かにあるが、ただそれだけだ。
動き出しも遅いし、剣を振るスピードも遅い。
この程度であれば、最初の結晶獣の洞窟を出た時の俺ですら勝てる。
「神剣流一の剣技【神速】。俺の師匠が言ってたよ、『【神速】とは敵の予想を上回る速さで斬りつけることが出来てこそ修得したと言える』って。お前のそれは余裕で予測できるし対応できる。お前、もしかして一の剣技すら修得できてないんじゃないのか?」
師匠とはもちろん剣聖の方だ。
チャランポランの勇者の方じゃない。
「て……てめぇ……!! 俺のことを侮辱するつもりか……!? 俺は六の剣技まで皆伝を取得しているんだぞ!!」
シェラヘザードが怒りのあまり、顔に血管を浮き立たせながら震えていた。
自分で使いこなせるって判断するんじゃなくて、そういう判断を下す人がちゃんといるんだな。
でも神剣流(改)を編み出した人がそう言ってたんだから、判断を下す人が間違ってるんだろ。
「まぁでもちょっと言い過ぎだとは思うよね」
「うん。ヤシロが悪いと思う」
「俺が悪いのかよ!! 2人はどっちの味方なんだ!」
「余所見するんじゃねぇ!! 神羅!!」
同時に3撃斬りつける三の剣技だ。
だが、どう見ても最初の一撃目までしか見えない。
同時に3撃見えなければ、【神羅】とは言えないだろう。
あっさりと初撃を弾き返したことで、シェラヘザードがフラついた。
「まずは自分の力量を知ることから始めるんだな」
俺は剣を思い切り振り下ろした。
斬撃が真っ直ぐにシェラヘザードへとヒットし、身体ごとそのまま吹っ飛んでいった。
「ぐああああああ!!」
奴は10mほど吹っ飛ばされ、そのまま場外に倒れ込んで動かなくなった。
「あ……あれは七の剣技『斬神』……?」
「それにしてはシェラヘザードの奴、吹っ飛び過ぎだろ…………」
七の剣技というか、どちらかと言えば自分で覚えた『飛撃』という技なんだけど、と言おうとしたけどやめた。
パクリじゃねーかと言われて終わりだもの。
「勝負ありだな……。この戦い、ヤシロミナトの勝ちとする!」
「シェラヘザードを子供扱いかよ……」
「もしかすれば五天羅クラスの実力はあるかもな……」
五天羅と呼ばれてる人達がどれくらい強いのか分からないけど、猛者を集めているという新世大隊で、一目置かれているアイツがこの程度だと、そんなに大したことないように思えるな。
もっと【怪童】の奴らみたいなのをイメージしてたけど、あの人達が特殊なだけかもしれない気がしてきた。
「なんかアッサリだったね」
場外に降りてアイラの所へ戻ると、見どころが少な過ぎたのか、アイラが若干不満気な声を漏らしてきた。
「結局威勢が良いだけでダラシなかったな。フェリスさんは?」
「あっちの人の治療に行ったよ」
見ると、フェリスがシェラヘザードに対して治癒魔法をかけていた。
少しはガードしてたし、腹掻っ捌かれたぐらいだから死んではいないと思う。
死ぬほど痛いだろうけど。
「驚いたな。彼を相手に赤子扱いとは」
「あの程度でイキッてたら、中級魔人が出てきたときに秒で死にますよ」
「さすがに中級魔人には組織で対応するように指導はしている。単身で相手できるのはS級討伐者ぐらいだろう」
S級討伐者というと勇者レベルだな。
もしくは俺とか。
なんてね。
「だが、この部隊で強いのは他にもいるぞ。そうだな…………お、彼女がいたか」
ドットが観客席の所を指差した。
そこにはまるで狩人のようなフードを被り、口元のみが露出した仮面を付けた女性が立っていた。
チラリと見えるのは赤い髪の毛か。
仮面を付けているからか、感情なくこちらを見ているように見える。
「彼女は?」
「数ヶ月前にハボック龍将が連れてきたんだがな、彼女は一人で魔族の国を滅ぼす力を持っている。だから通称『国滅ぼし』と呼ばれているんだ」
一人で国を?
ということは、噂の少女とは彼女のことか。
一瞬だけ、シーラに似ていたからビビった。
背格好はほとんど一緒だな。
「彼女の名前は?」
「興味津々のようだな。彼女はウリエルと呼ばれている。ハボック龍将の親戚だと聞いたが…………。だが、彼女の使う炎魔法には目を見張るものがある。奴の親戚だというのも納得だな」
炎魔法か……。
ますます似てるな。
ま、ウチの子の方が優秀な炎使いだけどな!
彼女はそのまま反転し、修練場から出て行ってしまった。
「それでどうだ? 入ってくれる気にはなったか?」
「そうですね……」
一呼吸置いた俺は、ドットにお祈りメールを送っておくことにしたのだった。




