宿舎
「私も一応は国の軍に属していることになるのよ。職名は勇隣右将軍。グリムの護衛ってことね」
新世大隊の宿舎へ向かう途中、フェリスが呼ばれていた職名について尋ねた。
「じゃあグリムさんもこの国の勇者として?」
「うん。他国に赴いた時に、討伐隊として動くのが基本だけど、時々ミラージュ王国の大使として行動することがあるのよ。ちなみにナイルゼンも私と同じグリムの護衛で、職名は勇隣左将軍」
勇者と言えど、国からすれば政治利用の一駒でもあるのか。
それはそれで大変だな。
ん?
でも勇者一行には他に2人いたよな?
「あのデカイ大男の人と、エロいお姉さんもこの国に所属してるんですか?」
「違うよ。アースとシャイナは旅の途中で出会った仲間だから、討伐隊の『グリモワール』として一緒に行動してるの。だから直接この国とは関係性ないわね。シャイナは生まれがアクエリア大陸みたいだけど」
ほうほう。
勇者一行がどういうパーティでできてるのか、何となく理解できた。
あまり知られてないことなんじゃないの?
「着いたぞ。ここが新世大隊の宿舎だ。今も何人かいるんじゃないか?」
そこにはとてつもなくデカイ屋敷が建っていた。
屋敷というか、もはやホテルだ。
100人以上は軽く生活することができるだろう。
「でかぁい……!」
「凄い優遇されてるんですね……」
「こうでもしなければ、優秀な人材は入ってこないからな。もちろん修練場なども完備されている。建てられたばかりだから中も綺麗だぞ」
そのままドットについて屋敷へと入る。
入り口には軍の兵士らしき人物が守衛として立っており、ドットとフェリスの姿を見た途端に厳しく敬礼をした。
「ドット龍将! フェリス将軍! お疲れさまです!」
「中に入ってもいいかね?」
「勿論でございます!」
兵は俺とアイラをチラリと見たが、そのまま敬礼をし続けた。
確かに中は綺麗だった。
この国は主に白色を基調として使われているようだ。
この屋敷も綺麗な白色の内壁が目立つ。
「すげぇ……」
「どうだ? 入ってくれる気になったか?」
「えっ? あ、いや、大丈夫です……」
何が大丈夫かは分からないけど、反射的に答えてしまった。
ちょっといいなと思ってしまったから悔しい。
「修練場に行ってみるか。誰かいるかもしれない」
ドットの提案で修練場へと向かうことになった。
道中に何人か人を見たが、どの人も使用人といった感じで、新世大隊に所属している傭兵ではなかった。
「確かにここにいたら、野宿なんかをする必要ないよね」
「そのかわり、必要とあらば戦地に送られるぞ。果たしてそんな生活にゆとりがあると思いますか?」
「う〜ん……。確かにそう言われればヤダね」
ドットとフェリスに聞こえないように、アイラとコソコソと話した。
お互い、気持ちはまだ揺れ動かされてはいないぜ。
良いところばかり見せられてるから偏るけど、こういう集団生活には必ずイザコザが起きる。
特に、志願して傭兵になるような人達だ。
一癖も二癖もあるに違いない。
「ここだ」
観音開きの扉を開け中に入ると、大きく広がったスペースがあり、様々な武器や修練道具が置いてあった。
中央には闘技場のようなものもあり、試合を行うことも可能だろう。
それらを使い、独自に訓練を積んでいる人達がいた。
でも人数はそんなに多くない。
17、8人ぐらいか?
でも女性もいるな。
こちらに気付いた1人が、入り口にいた守衛のように挨拶をしてきた。
流石に敬礼はしていない。
兵士じゃないからか。
「ドット龍将! こちらへお見えになるのは珍しいですね。どうされたのですか?」
その声に反応し、周りの人達も修練をやめ、こちらを見てくる。
声を掛けた男がこちらへ寄ってきた。
20後半ぐらいか?
若くもないが、歳もとっていない。
「いやなに、有能な少年と少女を見つけたのでな、見学させに来たのだ」
「それはいいですね。訓練相手が増えます……ってまさか勇者一行のフェリス・グリゼル!?」
当然のことながら俺達よりもそっちに目がいったか。
というか、フェリスもこの国に久しぶりに帰ってきたせいか、会う人会う人みんなに同じ反応されてるな。
さすが勇者の仲間。
「はい」
「まさか彼女がこの部隊に!?」
「いやいや、彼女は別だ。部隊に入るのはこっちの2人だ」
いや、入りませんけど。
「…………なるほど。女の子は魔法使い、君は剣士だね? 中々良い剣を持っているな」
お目が高いですね。
刀匠に打ってもらった至高の逸品でございますよ。
「入るとまだ決めたわけではありませんよ。今日はただの見学です」
「そうか……いやでも、強い人なら歓迎だ。ここにいれば、さらに自分の技が磨けるぞ。設備も整っているし、私生活もサポートしてくれる。言うことなしだ」
ここのことを凄いべた褒めしてくるな。
ドットに金でも握らされてるんじゃないの?
「おいおいおい……。本当に強いのか? そいつ。良い武器を持ってるからといって、使い手が強いとは限らねぇぞ?」
俺が取っ付きやすそうな男の人と話していると、目付きの鋭い男が剣を肩に乗せ、嫌味を言い放ちながら近づいてきた。
歩き方から、己の実力に自信満々なのが見て取れる。
「シェラヘザード……。仮にもドット龍将が連れてきた人物だぞ。その心配はあるまい」
「いや、実を言うとな、私は彼の実力は直接見てはいない。A級指定の魔物を討伐できるとは聞いているが」
「そら見ろ。A級ごとき、ここにいる奴らなら誰でも狩れる。下級魔人を相手にできるぐらいじゃないと話にならねぇ」
そう言いながら、ズイッと顔を俺に近づけてきた。
「弱え奴はこの部隊にはいらねぇ。ここは仲良しクラブじゃねぇんだ」
なぜこんなにも喧嘩を売られているかは分からない。
だが俺は、そいつから一切目線は逸らさい。
真っ直ぐにそいつの目を見据えた。
いくら凄まれようと、魔王と対峙した時の圧力に比べれば赤ちゃんのようなものだ。
「剣を取れよ。俺が実力を見てやるからよぉ。お前らもこいつの実力が知りてぇよなぁ?」
シェラヘザードと呼ばれた男の呼びかけに、一呼吸遅れて反応するかのように、オオオオー!! と歓声が上がった。
どうやら、ここにいる奴らは血の気が多いらしい。
「シェラヘザードの奴め……。新しい奴が来るたびに自分の力を誇示しようとするのは悪い癖だ……!」
「こんなつもりではなかったんだがな……。すまんなヤシロ君。彼との勝負、受けてもらえるか? 実を言うと、私も君の実力は一度知っておきたかったんだ」
「構いません」
これだから集団生活は嫌なんだ。
こういう奴がいたりするから、当たり外れが大きすぎる。
ハボックに続いてのこいつだし、ちょっとイラつく。
売られた喧嘩は買ってやるよ。




