リスタート
魔王ローズフィリップの城から航路までへの道のりは、やはり遠かった。
かかった期間にして数か月。
魔王ローズフィリップの領土内には女の魔者しかいなかったため、基本的には野宿の日々だった。
魔物を狩って暮らす日々が続いた。
だが航路へと近づくにつれ、人類側の領土へと入ることになる。
そこから先は楽だった。
アクエリア大陸は基本的に資源が豊富なため、お金さえあれば優雅な暮らしをすることもできる。
俺は久々に討伐ギルドに赴き、高難易度の魔物討伐を受領しては、《空ノ神》達と討伐しまくった。
高難易度といっても、俺達からすれば屁みたいなものだ。
こうして俺達は人類領土に入ってからは、特段苦労することもなく航路へと到着することができた。
うむ、長く険しい道のりだった。
「ここがサンクリッド大陸へ通じる船を出している『トガの町』ですか!」
「やっと着いたな」
町というよりも港に近い。
他大陸からの物流が盛んに行われている。
まぁこれは海沿いであれば万国共通なんだろうな。
「じゃあ僕達の仕事はこれで終わりだね」
「ああ、帰るとするか」
「ちょっ! いくらなんでもサッパリしすぎじゃないですか!? せっかく到着したんですからお祝いしましょうよ!」
着いてすぐにはいサヨナラ、なんて寂しすぎる。
なんだかんだで数か月も一緒にいると、離れ難くなるものだ。
「ここに来るまでに世界の情勢が動いているのは分かっているだろう。ガルムからの連絡が無い以上、俺達【怪童】は早く戻らなければならない」
《避雷神》の言う通り、この数か月だけで目まぐるしく世界では多くのことが起こっている。
まず、サンクリッド大陸でシャッタード都市を陥落させ、物体転移魔導砲を手に入れた魔王シルバースター。
俺がこの大陸に飛ばされることになった元凶である奴は、3代目勇者グリムによって討伐された。
どのようにしてシャッタード都市にいる魔王を攻略したのか、詳しい内容については分かってはいないが、3代目勇者の他にもう1人立役者がいたのだという。
そいつは《ストームライダー》と呼ばれる男で、3代目勇者と共に魔王討伐に尽力したとされている。
正直俺をこんな所に飛ばしたクソ野郎は、俺が討伐してやりたい気持ちもうっすらとはあった。
そしてこの大陸の最も大きな力を持つ軍事国家、ミラージュ王国でも動きがあった。
ミラージュ王国は3代目勇者を輩出した国としても有名だけれど、イズナと呼ばれる魔王が保有する国を、たった一人で滅ぼした少女が現れたという。
魔王イズナといえば、魔人しか使役しないことで有名のようだが、下手をすれば魔者達よりもよっぽど魔人の方が強いと俺は思う。
その一国を潰すということは、少女は相当な使い手のはずだ。
人類側における、魔族への反撃の風が強まってきているのかもしれない。
「それにお前も知っているはずだが、【怪童】のメンバーが二人もいなくなった。この穴は大きい。そのためにも少しでも早くガルムの所に戻らなくてはならないんだ」
《刀匠》と《暗器猫》が抜けた穴を埋めるつもりだという。
「13人になってしまいましたものね……」
「アーネスト、それは違うぞ」
「え?」
アイラの言葉に《空ノ神》が否定した。
アイラがキョトンとした顔でこちらを見てくる。
いや、俺の方を見られても俺も分からんし。
「お前と《避雷神》、二人を含めて15人だ」
お…………おお……。
な、なんだ。
一応仲間にカウントされてたのか。
そりゃ嬉しいけどさ、俺はもうガルムの下で働くなんてゴメンだよ。
命がいくつあっても足りやしないんだよな。
「補欠メンバーにでもしておいてください」
「あなたが補欠だと、他のメンバー全員補欠扱いになってしまうわよ。実力的に」
「実力はこの際関係ないですよ」
ん? そういえば、ガルムがアンダーグラウンドを出る時に、15の数字が何だと言っていた気がするけれど、何のことだったっけ?
「とにかく、だ。俺達には俺達の目的がある。あまり遠回りばかりしていられないんだよ」
「そうですか……」
素直に残念だ。
やっばり長く一緒にいた人との別れほど、悲しいことはない。
「じゃあな《避雷神》、アーネスト。お前達はもっと自分に自信を持った方がいい。どうしても自分を卑下する傾向にあるからな」
「確かにそうですね。ヤシロの雷魔法には、魔族である私も勉強になる部分が多かったです」
「また、どこかで一緒になることもあるでしょうね」
「ぼ、僕もその時を楽しみにしているよ」
「皆さん……」
一人一人の言葉が俺達の事を想ってくれているのだとヒシヒシと感じ、思わず心にジーンと響いた。
感慨深いとはこのことだ。
「俺も、皆さんと旅できたこの数か月は楽しかったです。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
アイラも俺に続いてお礼を言った。
「ほらリーも何か言いなさいな。言いたいことの一つぐらいあるんでしょ?」
「………………」
《魔女》に促されて、《拳闘獅子》が前に出てきた。
その目はキッとこちらを睨んでいるようで、思わず漏らしてしまいそうになる。
何で怒ってるんだよこの人は。
「………………もう一度」
「キスですか? グフォ!!」
強烈なボディブローが入った。
危うく口から五臓六腑をぶちまけるところだったよ。
「すいません」
「…………次会ったらもう一度アタシと勝負しろ」
「…………是非!」
《拳闘獅子》は満足したのか、くるりと戻っていってしまった。
長いこと一緒にいたから分かるようになったけど、この人の場合これが1番のコミニュケーション方法なんだ。
彼女がそれを望むなら、俺は受けて立とうじゃないか。
「それじゃあ皆さん! またいずれどこかで!」
「ああ、またな《避雷神》、アーネスト」
こうして俺達は、再びアイラと二人でサンクリッド大陸を目指すこととなった。




