使徒
俺達は既に城の外へと出ていた。
このまま城内にいてもろくなことはない。
早々に立ち去るのが吉だ。
「なんか……俺達がやったこと全部、あいつら魔族のためって気がして気分悪いですね」
「ガルムの考えている通りに事が進んでいるのは間違いないが、釈然としないのは同意見だ」
「そういえば、レインフォースさんの技のお陰でさっきは助かりました。あれが『空ノ神』ですよね?」
空中に大量の刃を出現させる大技。
見栄えだけなら俺よりよっぽどカッコいい。
インスタ映えするよきっと。
「あそこで敵が引いてくれたのは、正直助かった」
「何でです?」
「あんなに密集してたら、敵味方関係なく切り刻んでたからな。2段階目はコントロール出来るんだが……」
「切り刻むよりも先があるんですか?」
「まぁな」
「僕は見たけど、反則じみてたよ……」
見てみたい気もする……。
今後、どこかの場面で見してもらえるタイミングがあるのかな。
「ミーアさん」
「何かしら?」
後ろの方でアイラが《魔女》に話しかけていた。
しれっと聞き耳を立てる俺。
「《暗器猫》って人…………私がケンカした相手ですよね?」
「そうね、ボコボコにされた」
「うっ…………」
うん、ボコボコにされてた。
「その人や、刀鍛冶の人が死んだのに……皆さんはそれほどショックは受けてないんですね」
ショックか。
《潜入者》から聞いた時、確かにみんなは驚きの表情をしていた。
でもその後は、ガルムの意図を予想するのに話が逸れて、ショックを受けている様子はあまりなかった。
「思う所は……確かにあるわ。ネコともガリレオとも、半年以上一緒にいたもの」
「でもその割には……」
「私達【怪童】のメンバーは、仲間ではないわ。それぞれがそれぞれの目的を達成するために、徒党を組んでいるのに過ぎない。だから誰かが死ねば悲しさはあるけれど、それで悲壮感に打ちひしがれることはないわ」
その言葉にアイラは押し黙ってしまった。
【怪童】は利害の一致から手を組んでいて、俺とアイラのような関係性ではない。
今はこうして仲良くやっている皆が、一つ目的が違えば今すぐに敵になってもおかしくはないと、《魔女》はそう言いたいのだろう。
「でも、私にだって大切なものだってあるのよ。それはアヤメだったり、貴方もそうよ、アイラ」
「え!」
「貴方は私の大事な教え子だもの、死んだりしたら悲しいわ」
「…………師匠!」
良い師弟愛だなぁ。
どっかのクソ勇者との師弟関係とは偉い違いだ。
俺を死地に追い込んではヘラヘラしてそうな奴だからな。
その噂のあいつは、何をしようとしているのか俺には知る由もない。
魔王側に与していると思えば、その魔王を討伐した。
そして新たな魔王に恩を売った。
ええい、考えても分からん。
できれば今後はガルムに関わるのは避けたい。
手助けするのは今回限りだ。
「サンクリッド大陸へ帰るぞ……!」
航路へ目指して、俺は歩き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「《潜入者》から連絡が来ました。それにしても、まさか本当に手助け無しだとは思いませんでしたよ」
左目に《II》の刻印がある青年が、椅子に仰々しく座る男に愚痴を言っていた。
彼こそが、今回の一連の出来事の主犯格であり、人類における元勇者、ガルムであった。
「不戦の誓いがあると先に言っておいただろう。我々はお互いの関係に関わることはない」
「せっかく僕が集めた私兵が、2人も死んでしまった。こう見えてもショックは受けているんですよ」
「刀剣の鍛治師と転移魔法の使い手か。能力で見れば、確かに貴重だな」
口ではそう言っておきながらも、男はさして興味を抱いてはいなかった。
何人人間が死のうとも俺には関係ない、そう言っているようであった。
「だが、ジェイドロードだけでなく、ローズフィリップも同時に殺すとは、お前の私兵とやらは相当な精鋭のようだな?」
「確かに僕が掻き集めた人達は優秀だ。でも、それだけで2人の魔王を同時攻略しようだなんて、普通は思いませんよ」
「何か、嬉しい誤算でもあったか?」
その言葉に、ガルムはニヤリと笑った。
「貴方の計画の一部、異世界からの召喚者がアクエリア大陸にいたんですよ」
「ほう、ヴィルモールが作った武器を持った奴か」
「ええ。しかも、僕が思っていたよりもずっと成長していた。彼がいたからこそ、今回の作戦は成功したんです」
ガルムが嬉しそうに話す。
それは冗談や嘘で造られたものではなく、本心から思っていたものだった。
だが、男の反応に左程変化はない。
ほう、とつまらなさそうに一言呟いただけであった。
その態度に少しムッとするが、ガルム自身もこの男がそういう性格であることを知っているが故、何も口にはしない。
この男が興味あること、それはただ一つだけであり、そして単純明解。
魔王が考えることと言えばただ一つ。
「世界を我が物に。お前には使徒としてまだまだ働いてもらうぞ、ガルム」
「仰せのままに……魔王ベルファイア様」
ガルムはその場を後にした。
再び暗躍せんとするために。




