思惑
「《刀匠》と《暗器猫》が死んだだと……!」
《刀匠》と《暗器猫》…………。
《刀匠》は俺の持ってる『雷鳥』の作製者で、一度だけ接触したけど寡黙な職人気質な人だった。
世界にある至高の剣の多くは彼が作っていて、彼しか扱えない材質ばかりだったということだ。
俺の『雷鳥』のメンテナンスは誰がしてくれるんだよ。
いや、この剣にメンテナンスとか不必要らしいけど……。
《暗器猫》は先程話していた、転移魔法を使用できる数少ない人間の1人だ。
アイラとも喧嘩していたし、それほど良い印象はなかったけど……。
「もちろんその2人だけではありません。『裏』の人間、おおよそ500人強も犠牲になっています。まぁ……魔王1人と使徒1人の命と比べれば安いものですが……」
500人の命が安いって?
どこぞの独裁者みたいなセリフだな。
そんなセリフ一度でいいから言ってみたいよ。
「ま、待ってよ《潜入者》……。『裏』の人達が魔王に協力していたのは、少なからず、人類に対して革命を起こすためじゃなかったのかい? それがどうして魔王を攻撃することに……」
「それは確かに疑問ね。例え魔王を討伐したとしても、配下にいた魔族達が黙っているわけがないわ。そうして魔王が死に、『裏』も魔族から狙われ、得をするのは大陸内部の人間達だけじゃないかしら?」
その意見は確かにそうだな。
ガルムに何かしらの考えがあって、魔王討伐の指示を出した時に【怪童】のメンバーが従うのは分かる。
だけど、アンダーグラウンドや世界にいる『裏』の人間が、2代目勇者という肩書きだけに釣られて魔王討伐に動き出すか?
「一点だけ…………私が聞いたのは、『支配者の違い』だとガルムさんは話していました」
「支配者の違いだと?」
「ええ。そして、魔王ジェイドロードの配下が私達を襲撃するという話ですが、その点についても既に解決済です。というよりも…………これを聞けばなんとなく、ガルムさんが魔王ジェイドロードを討伐しようとした理由は分かると思います」
支配者の違い……?
この場合の支配者は魔王ジェイドロードで、支配されているのは『裏』の人間達のこと……。
魔王ジェイドロードが討伐されてもなお、『裏』は支配されている立場だとするなら、これは……。
「魔王ベルファイア。その軍勢が既に魔王ジェイドロード領内を制圧し始めています」
「そういうことか…………!」
《空ノ神》が苦々しい顔をしながら、納得がいったように唸った。
魔王ベルファイアというのは確か、全魔王の中で最も勢力が強い魔王だったと本に書いてあった奴だ。
「ガルムの狙いは……魔王ジェイドロード、及び魔王ローズフィリップの領土を献上することか……!」
「……つまり……どういうこと?」
アイラが困ったように俺に聞いてきた。
俺も詳しく理解できたわけじゃないけど……。
「たぶんガルムにとって、いや、『裏』の人間にとっても魔王ジェイドロードの下に付いているより、魔王ベルファイアの下に付いている方が、人類に対する革命を起こしやすいってことなんじゃない?」
「恐らくはそういうことね。ガルムがいつ魔王ベルファイアと関わりがあったのかは知らないけれど」
俺の考察に《魔女》が賛同した。
ガルムが裏でコソコソ暗躍しているのはいつものことだが、それでも魔王と繋がりがあることをメンバーにすら話していないというのは、信用問題に関わるものだ。
「気に食わないな」
《拳闘獅子》が吐き捨てるように言った。
「ガルムに対してか? 確かに俺達に何も伝えなかったのは気に入らないが……」
「そこじゃない。魔王ベルファイアとやらが、アタシ達の美味しい所だけを掻っ攫っていこうとしているところだ」
確かに。
こっちは少ない人数で魔王と戦わされて、ガルム達の方も大量の死傷者が人間側に出ている。
自分達は手を汚さずに領土だけを頂くなんて勝手すぎるよな。
それに、最初から魔王ジェイドロードを討伐する予定なら、無理してこのタイミングでローズフィリップを討伐する意味はないんじゃなかったのか?
「あ、そこは仕方ないと思います」
意外にも異を唱えたのはアイラだった。
「どういうことだ」
「魔王様達は基本的に、お互いの領土には干渉し合わない約束事のようなものをしてると聞いてます。お互い協力もしませんが、争いもしない。そのため、領土拡大には人間の領土のみから奪うとされているみたいです」
不可侵条約的なアレか?
100年以上も魔王同士で争いが無いのはそういう意味合いなのかな。
「確かにそれは事実ですね。水面下での魔族同士のイザコザはあると思いますが、魔王様が直接動いて私兵を派遣したりするケースは例がありません」
エルモアがアイラに続いて話した。
魔族の2人が言うのだから、これは間違いないのだろう。
「つまり、今回は魔王が死んで統治者が居なくなったから、魔王ベルファイアが直々に兵隊を派遣して制圧してるってことか?」
「どうやら、魔族の2人が話したことで間違いないでしょう。ガルムさんが魔王ベルファイアに取り付けた約束は、強いて言うならば広域領土の献上と引き換えに、『裏』の活動に協力しろ、と言ったところでしょう」
広域領土。
2人の魔王が支配していた領土を、ほとんど無傷で獲得できた魔王ベルファイアは笑いが止まらんだろうな。
魔王を討伐したところで人間に領土が戻らないっていうのは、苦しいことだよ。
「勝手なことをしてくれる……!」
「結果論にはなりますが、魔王ジェイドロードの下では、これ以上の支援は見込めませんでしたよ」
「《潜入者》の言うことも一理あるが……」
その時、再び転移魔法陣が光りだした。
魔法陣の上にいた《潜入者》は、即座に陣外に移動し、他の皆は魔法陣の動向を監視する。
《潜入者》が魔力を送っていないということは、向こう側から誰かがやって来ると言うことだ。
魔法陣は強烈に発光した。
そして、魔法陣の上に多くの人が転移しているのが、光が弱くなるのに連れて見えた。
その数50人ほど。
「さて…………ここは魔王ローズフィリップの領土内ということで間違いないのか?」
「はい。地形ポイントでは魔王ローズフィリップの城があるところと同じ部分を示しています」
転移してきたのは人ではなかった。
魔族だ。
青い鎧を着た大量の魔族が転移魔法陣を通ってやってきたのだ。
「ふむ……人間もやるではないか。総員散開!」
隊長らしき魔者の掛け声で、一斉に魔者が広がる。
その動きは、今まで戦ってきた魔族とは違う。
どちらかと言えば戦闘に慣れた、魔王グロスクロウの配下に近い動きだ。
俺達は瞬時にして取り囲まれ、刃を向けられる。
だが、こちらも迎撃の態勢は取れている。
「質問がある。拒否権は無いと思え」
「随分手荒じゃないか」
「人間に対して気遣う心など、持ち合わせてはいないからな」
張り詰めた空気が、部屋の中を包んだ。
『避雷神』はほぼゼロタイムで発動できる。
これで近くにいるアイラだけは守れる。
他の奴らは実力があるし、自分で何とか出来るだろう。




