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英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜  作者: もぐのすけ
アクエリア大陸 裏勢力編

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潜入者

「ふう、完成したわ」


 30分後、魔法陣が完成した。

 これだけ細かな魔法陣を書けるなんて、俺にはとてもできない。

 ドミノ倒しですら30個並べたら蹴り飛ばすレベルだ。


「お疲れ様です」

「これをどうするんですか?」

「魔力を流し込んでアンダーグラウンドに戻って、【怪童】の仲間に、魔王討伐の報告をするのよ」

「お、できたのか」


 このタイミングで《空ノ神》も戻ってきた。

 全身べっとりと血塗られているが、ピンピンしていることから、恐らく全て返り血だろう。


「レインフォースさんは、何をしてたんですか?」

「この城にいる残党狩りだ。禍根の元は全て断たなければ、後々厄介なことになる」


 敵が来なかったのはそういうわけか。

 最上階に来る前に、《空ノ神》が全て片付けていたと。


「《魔女》。魔力回復薬マジックポーションはあるか?」

「ええ。今全員に渡そうと思っていたところよ」


 《魔女》が小瓶を取り出した。

 中には青色の液体が入っており、スライムのようにドロついている。

 《魔女》が人類の中で有名になったのも、魔力回復薬マジックポーションの精製に成功したからだと聞いた。


 アイラは《拳闘獅子》を起こしに行き、《骨喰い》とエルモアも戻ってきた。

 牢屋に入れられていた男達は、夢から覚めたばかりで意識が朦朧としていたようだが、時間が経てば元に戻るだろうとのことだった。


「それを飲んだら、早速この魔法陣を起動して状況を伝えに行ったほうがいいわね」

「俺が行こう」


 《空ノ神》が魔力回復薬マジックポーションを一息で飲み干し、魔法陣へと向かっていった。

 だがその直後、魔法陣が光り出し稼働し始めた。


「おいおい、どういうことだこれは」

「《空ノ神》、あなたはまだ魔力を込めていないわよね?」

「見ての通り、魔法陣に入ってもいない」


 魔法陣はそのまま光を強め、力強く発光したと思いきや、1人の青年が魔法陣の中央に立っていた。

 黒装束に黒色の布で口元を覆っている。

 忍者のような格好だ。


「魔法陣が完成したのを確認できたから来てみれば…………魔王ローズフィリップ討伐は完了したようですね」

「…………《潜入者せんにゅうしゃ》か!」


 潜入者……?

 《空ノ神》が知っているということは、【怪童】の関係者か?


「お久しぶりですね、《空ノ神》さん。他にも《拳闘獅子》さんに《骨喰い》さん、《魔女》さんもいらっしゃる。全員無事のようですね。3人ほど見かけない顔もいますが……」

「奴らは今回の討伐の協力者だ」


 《拳闘獅子》がぶっきらぼうに言い放った。


「なるほど。お初にお目に掛かります。【怪童】メンバーのダイバー・インジェシティと申します。《潜入者》とも呼ばれてますのでお見知り置きを」

「こちらこそ。八代です」

「アーネスト・イライザ・シルヴァード・シュールレです」

「久々に聞いたなフルネーム」

「ヤシロが勝手に略すからでしょ!」

「エルモア・エルロンドです」


【怪童】のメンバーは全部で15人って言ってたよなそういえば。

 主戦力はアンダーグラウンドにいた面子で、残りの6人は遠征に出てるとか。

 その遠征に出ていたうちの1人か。


「な、なんで《潜入者》が、丁度このタイミングで来たんだい?」

「私の仕事が、魔王ローズフィリップ討伐に向かっていた貴方方への情報の伝達に他ならないからです。まず、討伐は成功、ここは魔王の城の中という認識でよろしいですか?」

「ああ、魔王は討伐した。現在は奴隷の解放、及び残党の処理を行っていた」


 《潜入者》の【怪童】内における役割は、情報収集ってところかな?


「それで、俺達に何の情報を伝達しに来たと? 魔法陣の前で待ち構えているほど早急な内容なのか?」

「単刀直入に申します。魔王ジェイドロードが討伐されました」

「何だと!?」


 《空ノ神》が驚きの声を上げた。

 でも驚いているのは彼だけじゃない。

 俺も含めてここにいる誰もが驚いている。

 魔王ジェイドロードは、人間の『裏』アンダーグラウンドと協力体制にあった魔王だ。

 それが俺達と同時期に討伐されるなんて、一体何があったんだ?


「なぜこのタイミングで奴が討伐されたんだ!? 殺ったのは誰だ!?」

「『二代目勇者』ガルムさんです」

「なっ…………!?」


 ガルムが…………魔王を討伐?

 どういうことなのか、さっぱり状況が分からない。


「これは以前から計画されていたことです。《空ノ神》さん達が魔王ローズフィリップの討伐を行うと同時に、他の【怪童】のメンバーで魔王ジェイドロードを討伐すると」

「馬鹿な! 俺はそんな話は全く聞いていない!」

「この話を知っていたのは、ガルムさんと《剣聖》さんと私だけです。それ以外の方は当日に話をされました」

「面白くないな……。魔王ジェイドロードとやるというのに、アタシには何も伝えないとは」

「そこ……?」


 どれだけ戦闘狂だよ。

 魔王と二連戦でもする気だったのか?


「それは【怪童】の人達だけで行ったことなんですか?」

「まさか。『裏』の組織全員の行動です。『裏』の人間の中にも魔王ジェイドロードの近くにいる奴らもいます。そいつらを利用し、時間を掛けずに攻め込みました。恐らく、魔王の元まで行くのには、貴方達よりもスムーズに事が運んだでしょう。多少は警戒されているとしても、まさか反逆されるとは思っていなかったでしょうからね」


『裏』と魔王ジェイドロードの協力体制。

 実際には魔王に隷属している、人類に牙を剥く組織という形だったが、それでもバランスは取れていたように見えた。

 それを扇動したのがガルム……?


 あ、だから剣聖は今回の魔王討伐が失敗したとしても、ジェイドロードからのお咎めはないと言っていたのか……?

 魔王ジェイドロードは討伐するから、失敗した時のことを考えなくていいと……。


「ということは……ガルムが指揮を取って、他の裏の人間を動かしたのか? あれほど人前には立たなかった奴がか?」

「ええ。『裏』の人間は、これで元勇者が『裏』に属していると知ったことになります。そして、彼の影響力が凄まじいことは《空ノ神》さんも理解していると思います。『裏』の人間、さらにはその情報は表世界にも漏れ、彼の元に支持者が集まってくるはずです」

「奴は一体…………何のためにジェイドロードを……?」

「それは私の預かり知らぬ事です。しかし、私は自身の目的のために、彼の指示に従っているんです。魔王ローズフィリップの討伐を任され、それに従ったということは、皆さんだって同じでしょう?」


 《潜入者》の言葉に沈黙が訪れた。

 俺はガルムに従っているわけではない。

 アイツの指示に従ったからといって、元の世界に帰れる保証があるわけでもない。

 ここにいる他のメンバーのように、人類に対して何か思う事があるわけでもない。

 唯一大事なことがあるとするならば、散り散りになった仲間と合流することだ。


「なら…………俺達と同様に、そっちも魔王を討伐したということだな?」

「ええ。しかし、一点違うところがあります」

「何だ?」

「こちら側では、全員無事という大成果のようですが……」

「ああ………………そっちでは誰か死んだのか?」

「アヤメ……! アヤメは無事!?」


 《魔女》が焦ったように確認を取る。

 こちら側は奇跡的に全員生存だったが、魔王相手にそんな上手いことが行くわけがない。

 戦死者が出るのは当然のことだ。


「『創造クリエイター』さんは無事です。戦死したのは…………『刀匠とうしょう』ガリレオさん、『暗器猫デバイスキャット』のネコ・ベットさん。2名が死亡しました」

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