魔法陣
しばらく待機していたが、敵がやって来る気配はなかった。
身を潜めているのか、既に魔王がやられた事に気が付いて逃げたのか。
いずれにしても、俺的には助かることだ。
ゆっくりできる。
「あとは、航路を目指してサンクリッド大陸に行くだけだな」
「どうしてそんなにサンクリッド大陸に行きたいの?」
キョトンとした顔でアイラが尋ねてくる。
「俺がそこから転移してきたのは知ってるだろ? 仲間がそこに集まっているかもしれないんだ」
「仲間…………私がいても大丈夫かな……?」
「当たり前じゃん。その仲間っていうのは2人いるんだけど、どっちも魔族だしアイラに対して偏見はないだろ」
「魔族なんだ! ヤシロって意外と魔族と交流深いよね」
「そうだなぁ」
別に人間と仲が悪いってわけでもないけど、シーラとゼロはどっちも人間に対して攻撃的じゃないから、仲良くできてるのは俺、というよりも相手側のおかげだと思う。
アイラも同じだ。
「それにしてもアイラの水魔法の援護、スゲー助かったよアレ。あの一撃がなかったら障壁を避けて攻撃はできなかったもんな」
「咄嗟に思いついた策にしては、やるもんでしょ?」
フフンとアイラが得意げに言った。
そういう点でも、今回の魔王との戦いは全員で掴みとった勝利と言える。
俺が魔王と使徒の注意を引き、その隙にアイラがムチの障壁の攻略方法を考え、《拳闘獅子》がトドメを刺し、《魔女》が最後の俺に対する攻撃を防ぐ。
エルモアに関しては、魔王のスキルを解く鍵になったから、個人的にはMVPだ。
「ご褒美〜」
「ちょっ! 単にヤシロが触りたいだけでしょ!」
耳を触ろうとしたら叩かれた。
何でや。
自由に触っていい権利あるんちゃうんけ。
「それはともかくとして、ミーアさんが何やってるか気になるな」
「あ、触らないんだ……」
「ん? なに?」
「何でもないよ!」
ヒスるアイラに疑問を持ちつつ、俺は魔王がいた部屋を覗いた。
「うわっ! なんだこりゃ!」
中では《魔女》が床一面にビッシリと魔法陣のようなものを書き連ねていた。
その大きさたるや、直径にして50mほどの大きさになる。
「あら、もう体は大丈夫なの?」
そう言った《魔女》の額はしっとりと濡れており、汗を掻くほどの重労働であることが見受けられた。
「大丈夫ですけど……何してるんですか?」
「これって…………転移魔法陣ですよね? ミーアさん」
「さすがアイラね。その通りよ」
「知ってんの?」
「前に村の本で読んだだけだけど……」
アイラ曰く、魔法を遠距離に発動するためには魔法陣が必要となるそうだ。
実際、シーラやゼロが遠距離に魔法で攻撃する場合は、先に魔法陣を展開する工程を踏んでいた。
そのあたり、ゼロはともかくとしてシーラは理解せずに使っていたから、魔法陣はオートで展開されるものだと思っていた。
でも実際には、無詠唱の魔法を遠距離に使う場合は、その魔法陣を構築する知識が必要のようだ。
人間が遠距離魔法を使う場合、詠唱部分にすでに構築されているため、あそこに作りたいなーって意識するだけで使えるとのこと。
ちなみに俺は遠距離魔法を使ったことはない。
使おうと思えば詠唱魔法で使えるとは思うが、雷魔法においては、わざわざ遠距離に設置して使う必要がないからだ。
上級雷魔法なんて、実質遠距離魔法みたいなものだし。
無詠唱で使える魔法と言えば、電光石火と避雷神だけだから関係ない。
そして現在《魔女》が作成している転移魔法陣だが、これはあらかじめ魔法陣を対に2つ設置し、魔力を流し込むことで対象を転移させることができるものとのことだ。
転移魔法陣はその複雑さ故に、基本的に手書きでしか作成できないが、やはり例外もある。
それが魔王ガゼルの使徒、ジャガーノグと《暗器猫》のネコ・ベット。
これらの使い手は転移魔法陣そのものを、遠距離魔法陣と同じように頭で構築し、手書きでなくとも空中に発動することができる。
だが、魔法陣が大きければ大きいほど術式が複雑になるため、ネコの場合は腕を通す範囲で精一杯とのこと。
さらに、魔法陣の大きさは魔法陣同士の距離に比例して大きくなる。
大きく描く分には問題ないが、小さく書いてしまえばその魔法陣は発動しない。
書き損となってしまうそうだ。
そのため、現在作成している魔法陣は直径50mに及ぶほど大きく、アンダーグラウンドに設置しているものも今回のための一つしかないため、いくつも書いたりは出来ない、というのがアイラの説明だ。
「そうね、概ねアイラの説明で合っているわ。さすがだわ」
「すげーな。やっぱり知識ならアイラがダントツだな」
「ま、まぁね! 私だってやればできるんだから!」
師匠的存在の《魔女》に褒められ、上機嫌になるアイラ。
「一つ付け加えるとするなら、転移魔法陣は魔力濃度が高い場所にしか作れないことよ。例えばこのお城は、魔王が長年住んでいたことで魔力濃度が高くなっている。アンダーグラウンドも巨大な不透石があるために魔力濃度が高い。覚えておきなさいな」
「は、はい!」
暗いところほど光を発する石、不透石か。
確かにあの鉱石自体に魔力が宿ってそうだよな。
「そういやリーさんは?」
「あそこで休んでいるわよ」
そう言って《魔女》が指差した先には、壁に寄りかかって休んでいる《拳闘獅子》がいた。
ああやって寝ている分には、凶暴な一面はなりを潜めているように見える。
「レインフォースさんが見たら何て言いますかね」
「何も言わないでしょうね。彼女が疲弊しているのは彼も理解しているはずよ。私に付いていてもすることなんて無いのは知っているはずだし、直接『休め』なんて言いづらかっただけじゃないかしら」
「なるほど……」
アイラから聞いた話だと、魔王のスキルにやられて眠っていた俺をここまで運んでくれたのは《拳闘獅子》だということだ。
戦闘狂だと思っていたから余計にビックリした。
でも、彼女の中にも優しさはちゃんとあるんだ。
それが分かっただけでも、俺は何だか嬉しくなった。
「あと少しで完成するわ」
「手伝えることは?」
「休んでいてもらうことね」
「はは、りょーかい」
そのままアイラと2人で《魔女》の魔法陣作成を眺めていた。




