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英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜  作者: もぐのすけ
アクエリア大陸 裏勢力編

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生存

「はぁ…………」


 魔王は砂になって消えた。

 グロスクロウの時と同じ事象のため、討伐できたことに間違いはないだろう。


 現在俺は、《魔女》に治癒魔法をかけてもらっている。

 血を流しすぎたせいか、貧血気味に目の前がくらくらとするが、引き裂かれるような痛みが引いていくだけでもありがたい。


「大丈夫……? ヤシロ」


 アイラが隣に座って、心配そうに覗き込んでくる。


「なんとか。結論から言えば、誰も死なずに魔王を討伐出来たことは凄いことじゃね?」

「そうね……。私達だけじゃ勝てる見込みは0だったわ。《避雷神》が来てくれたおかげよ」

「眠ってる間に俺のことを守ってくれたみんなのおかげですよ。それに、討伐したのは俺じゃないです。リーさんだ」


 俺はあくまでも討伐の補助をしただけ。

 トドメを刺したのは《拳闘獅子》の彼女だ。


 《拳闘獅子》がこちらに近づいてくる。


「…………アタシは全てを自分の手柄にするほど落ちぶれてはいない。魔王討伐は……貴様の活躍が大部分に当たるだろう」

「改めてそう言われると照れますね」

「ああ。アタシは……アタシより強い男が好きだからな」


 そう言うと《拳闘獅子》は俺の右手を持ち上げ、手の甲に軽く口づけをした。

 突然の行動に俺も《魔女》もアイラもフリーズした。


 これは…………ある意味告白じゃね?


「急にどういった心境ですか?」

「さぁな……。アタシにも分からん」

「ヤ……ヤシロ…………あう……」


 なんかアイラの猫耳がしょんぼりしたけど……。

 いいんだよアイラもしてくれても。

 なんならマウストゥマウスに…………。


「さすがです、ヤシロミナトさん」


 エルモアが気絶から復帰したのか、こちらへとやってきた。


「エルモアさん。良かったです、貴方が敵でなくて」

「? 私は最初から裏切ってなどいませんよ」

「いえ、こちらの話です」


 ローズフィリップのスキルの世界では、エルモアが裏切り者として存在していた。

 彼女と過ごしたキャンプファイヤーの僅かな時間が、彼女が裏切り者ではないと判断する材料になった。


「はい。傷は塞がったわよ」

「ありがとうございます……っとと」


 立ち上がろうとしたが、思わずフラつく。

 その肩を《拳闘獅子》が抑えた。


「アタシが肩を貸してやるよ」

「ああ、どうもすいません」

「!! ヤ、ヤシロ! 私も支えてあげるよ!」

「え? ああうん。ありがとう」


 左肩を《拳闘獅子》が支え、右肩をアイラが支えてくれている。

 何だろう。

 凄い嬉しいはずなのに、殺気立ってる2人に挟まれてる気がする。


「とりあえずこの部屋を出ましょう。レインフォースさんとアリゲイトさんと合流するべきです」

「そうね」


 2人に抱えられ、全員で扉の瓦礫から外に出る。

 外に出た瞬間、唐突に剣を突きつけられた。

 まさか敵か!? と一瞬思ったが、剣を突きつけてきていたのは《空ノ神》だった。


「何だ、《避雷神》か」

「レインフォースさん、ビビりますよこれは」

「衝突音が無くなった後、出てくるのがお前らか魔王か分からない以上、仕方がないだろう」

「みんなが出てきたってことは…………勝ったってことでいいのかい?」

「これが魔王のスキルによる幻覚でなければな」


 いつまでも世界を疑わなければならないなんて、凶悪なスキルだったよ全く。

 でも、魔王は死んだ。

 これは間違いない。


「《避雷神》が討伐したのか?」

「いえ、リーさんです」

「その功績はお前が大きいと言っただろうが」

「それでも討伐したのはリーさんです。譲りませんよこれは」

「頑固な奴め……」


 俺は勇者にはならない。

 初めの頃は勇者になるだなんて幼稚な事も考えていたけど、シャンドラ王国の一件で、勇者を目指すなんてバカらしいことはやめた。

 それはつまり、エセ勇者の辰神英二(たつがみえいじ)とかいうメガネや、短髪の男と同じになるということだ。

 この世界に元からいる勇者と、他の世界から呼ばれた勇者。


 俺は前者にも後者になるつもりもない。


「とりあえず……全員無事ということだな?」

「そうなるわね。最高の結果だと言えるわ」

「よし。魔王が死んだという情報は、俺達が流さない限り分からないことだが…………魔王ローズフィリップの配下の奴らの戦意を削ぐ意味でも、これは発表すべきことだ。《魔女》、手筈通りの準備を頼む」

「ええ」


 そうか……この国に限らず、魔王ローズフィリップが支配している領土はとてつもなく広い。

 その配下達が反撃に出る前に、その勢いを潰しておく算段か。


「《避雷神》は……動けそうにないな」

「恥ずかしながら」

「名誉の負傷だろ、気にするな。アイラはそのまま《避雷神》についていてやれ」

「!! はい!」


 元気いいなぁ。


「《拳闘獅子》は魔女をサポートしろ」

「アタシに命令するのか?」

「このチームのリーダーは俺だからな」

「…………ふん」

「魔王のスキルにやられた奴隷達がこの城に残されているかもしれない。《骨喰い》とエルモアはそいつらの解放を頼む。恐らくスキルは解けているだろう」

「「了解」」


 全体の指揮を執る《空ノ神》。

 ガルムの見立て通り、頼りになる存在だ。

 それにしても、手筈通りの準備とは何だろう。

 魔王の死を大々的に発表できる策でもあるのかな?


「とりあえずはこんなものか……。《避雷神》、改めて礼を言おう。正直、お前がここまでやれる奴だとは思っていなかった」

「いやいや、俺だけの力じゃないですよ」

「ガルムの弟子だと聞いた時は、胡散臭い奴だと思ったが……」


 おいこら。

 それは俺じゃなくて、ガルムが胡散臭いだけだろ。


「だが、《拳闘獅子》が手柄を譲るほどだ。お前は見事、ここにいる誰よりも成果を出したのだろう。…………知ってるか? 《避雷神》。魔王を討伐する奴は『勇者』と呼ばれるが、世界を救うことができる奴は…………『英雄』と呼ばれるんだ」


 英雄。

 不思議とその言葉が印象に残った。

 だけど勇者と言っても英雄と言っても、それは自分で呼ぶものじゃない。

 人から呼ばれることで存在することができる概念だ。

 でも……呼ばれることに不快感を感じるわけじゃない。


「俺はそんな大層なものじゃないですよ」


 俺はそう言って笑った。

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