魔王ローズフィリップ11
〜アイラ視点〜
目の前でヤシロが吹っ飛んでいった。
魔王のムチをモロに食らって。
それは私やミーアさんを助けるためで、ヤシロ1人なら魔王に勝てていたかもしれない。
私が足を引っ張ったんだ。
「ヤシロ……! 私達なんか庇っちゃダメだよ!」
壁に叩きつけられたヤシロは、上半身から大量の血を流して倒れていた。
一目で致命傷だと分かる傷。
治癒魔法をかけなければ、死に直結するほどの傷。
なんで私は治癒魔法すら使うことができないんだろう……!
「さよなら」
「があああああ!」
リーさんが魔王へと殴り掛かった。
ヤシロと同じく、動けないほどの傷を負っていたのに攻撃を繰り出している。
だけど、その攻撃も魔王に防がれてしまった。
「う……おあああああ!」
ヤシロが……立った!?
まだヤシロは諦めてなんかいないんだ。
それなら私だって…………ヤシロの役に立つんだ!
「飛撃!」
ヤシロが剣を振り落とすと、斬撃が魔王へと向かっていった。
ガキィン!
またしてもそれは、見えない壁によって防がれた。
ヤシロが苦い顔をしている。
たぶんヤシロは……あそこから動くこともしんどいんだ。
遠距離から狙いたいんだろうけど、魔王の周りにある見えない壁がそれを邪魔している。
だからそれをどうにかしないと、魔王に決定打は入らない……!
それをどうにかするのは私の役目だ!
多めの水魔法を作り出す。
射出力よりも水量に魔力を振って、狙いは魔王の上空から降り注ぐイメージで。
魔力を右手に込めて生成を始めた。
リーさんが魔王の注意を引いてくれている今こそがチャンスなんだ。
チラリとヤシロを見た。
ヤシロは剣による攻撃は無意味だと判断し、銀色の武器のみに切り替えていた。
ヤシロと目が合う。
私は、私の意図が伝わるようにしっかりと目を見て頷いた。
伝わったのかどうかは分からない。
ヤシロは少し目を見開いて、頷いた。
魔王のあの見えない壁には隙間がある。
そこまでは私にも分かる。
じゃあその隙間をどうやって見極めればいいのか。
答えは思ったよりも簡単だった。
見えるようにしてしまえばいいだけだったんだ。
私は水魔法を放った。
放物線を描いて飛んでいく水は、魔王の頭上から着弾した。
実際には、魔王に当たったわけではなく、その周囲にある見えない壁にほとんどは防がれ、そのまま壁を濡らしながら床へと流れ落ちていった。
でもそれで充分。
それこそが目的。
水に濡れた見えない壁は、水滴によって可視化されるように現れていた。
魔王の周りを包み込むかのように、壁が絡み合っていた。
「ヤシロ!」
「ああ!」
既にヤシロは意図を理解していた。
現れた壁の隙間を狙うように、銀色の武器を両手で構えていた。
さらに、あの守りの弱点は隙間が空いていることだけじゃない。
あれに包まれている以上、中にいる魔王もあそこから動くことが出来ないんだ。
だから、ヤシロのこの一撃はかわせない。
大きな音と共に発射された弾は、一寸の狂いもなく壁の隙間を縫い、魔王の下腹部を撃ち抜いた。
「ああっ!」
「やった!」
「まだだ! まだ終わりじゃない!」
続いてもう1発が撃たれる。
下腹部を撃たれたことで屈んだ魔王の頭に、追撃の1発が命中すると思ったが、それは最初に魔王が座っていた奥の座席に当たり、破壊した。
魔王が見えない壁を解除して横へと逃げたんだ。
「それさえ消えればこっちのものだ!」
「させん!!」
よろけた魔王を撃とうとしたヤシロに、使徒が自分の持っていた剣を投げ、ヤシロの右腕を貫いた。
銀色の武器が手から滑り落ちてしまった。
「っっああ!! くそっ!!」
「女王!」
「グオオアアアアアアア!!」
素手になった使徒に、上級魔人が禍々しい剣を突き刺した。
魔王を守るために、自らの武器を犠牲にした使徒は、その一撃を防ぐことは出来なかった。
「女…………王……!!」
「う……あなたの仇は……今取るわヴィシェル!」
魔王がムチを再び振るった。
ムチは上級魔人の上半身を消しとばし、その勢いのままヤシロへと向かっていく。
ヤシロは反撃をするどころか、立っていることすら難しい……!
水魔法でヤシロの前に障壁を……!
………………!
魔法が…………魔力切れ!?
ヤシロ……ヤシロが!
「くたばるのはお前だあああああ!!」
ムチがヤシロへと向かっていく瞬間、リーさんが魔王の右頬を思い切りぶん殴った。
魔王が吹っ飛ぶのと同時に、ヤシロの目の前でバリィン! と何かが割れる音がした。
「ギリギリ…………間に合ったわね……」
「ミーアさん!」
ミーアさんだ……!
ミーアさんがムチが届く前に、ヤシロの周りに防護壁魔法を使ってくれていたんだ……!
「た……助かった〜」
ヤシロは、ホッと息をついてその場に尻餅をついた。
まだ戦いは終わっていないけど、ほとんど終わったも同然だ。
魔王は地面に倒れ、それをリーさんがトドメを刺そうと向かっている。
使徒は既に死に、魔王もヤシロからの度重なる魔弾の攻撃とリーさんの一撃で瀕死。
これ以上、奥の手は無いと思いたい。
「わ…………私が一体何をしたと言うのかしら……? あなた達の怨みを買うようなことは…………何もしていないと思うのですけど……」
「魔王を討伐するのに、怨みなぞいらん。アタシは自分の力を示すために貴様を討伐しにきたのだ」
それはリーさんだけだよね……。
少なくともエルモアさんは怨み、あるみたいだし。
「討伐……まるで魔物みたいな言い方をされるのね……。まぁ…………男に殺されるよりも……貴方みたいな女の子に殺された方が……本望ですわね……」
「そうか」
その一言で、リーさんは魔王の顔面に拳を振り下ろした。
グシャリと、卵を潰したような嫌な音がした。
だけど、血は不思議と飛び散らなかった。
魔王は砂となって消えていったんだ。
魔王ローズフィリップは討伐された。




