魔王ローズフィリップ10
左右の床が抉れる。
魔王のムチが所狭しと襲ってくるが、『避雷神』によって阻む。
「私の攻撃が当たらない……変な魔法を解けぇ!」
解くわけないじゃん。
ローズフィリップの攻撃は主にムチによる物理攻撃。
確かに攻撃は見えないけど、魔王グロスクロウに比べれば単調で、スキルの怖さもない。
そもそも戦闘向きではないんだろう。
一点集中型散弾銃は一度解除して、片手銃で攻めるか。
機銃掃射の威力は防がれた。
あの見えない軌道がどれほどの強度があるか分からない以上、不要意に奥の手を見せていく必要もない。
近付いて仕留める、正面突破だ!
通路上に遮るものがないのは、機銃掃射の接触状況で分かっている!
「神剣流一の剣技『神速』!」
『獅子脅し』を左手に持ち替え、『雷鳥』を抜きつつローズフィリップとの距離を詰めた。
この一撃だとどうだ!?
ガキィン!!
割れない。
刃が通らない。
「ならこれはどうだ!」
ドン! ドン!
ゼロ距離による片手銃の射撃。
これも通らない。
「ムダだったようね」
ローズフィリップのムチが飛んでくる。
しかし、避雷神を使用している以上、俺にも攻撃は通らない。
お互いの距離は近いが、お互いに攻撃の芽が無い状態だ。
そして、お互いに防御は完璧じゃない。
俺は魔力が尽きれば避雷神が使えず負け。
ローズフィリップのムチによる防御も全方位ではない。
ムチが通った軌道全てが行動不可能なら、ローズフィリップへ辿り着くことも困難なはずだ。
それほどにムチを振り回していた。
だが、実際には自身の周りにしか発現していない。
何か制限があるのか、魔法の特性上のものなのか。
どちらにせよ、魔王周辺にあるムチの軌道上のものも完璧ではない。
どこかに穴があるはずだ。
それを先に見つけられれば……!
「私の攻撃が当たらないなんて……困りましたわね……」
やれやれと言った感じで、攻撃をやめるローズフィリップ。
今度は落ち着いた雰囲気に…………どっちが本当の魔王なんだ?
俺は一度距離を取る。
避雷神は使ったままだ。
「もうこんなこと、やめませんこと? 不毛じゃありませんか。私は人間達に迷惑をかけているつもりはありませんよ。どこかの魔王のように」
ローズフィリップが諭すように話しかけてきた。
これは奴の本音なのかそれとも…………。
いや、さっきまでの情緒不安定なところを見ても、意見がすぐにコロコロと変わるのは目に見えている。
耳を貸す必要はない。
「私は、ただ女の子達と幸せに暮らせればそれでいいんですの。さっき貴方が殺した男達も、自分達から私の領土に侵入してきたから捕らえただけ。正当防衛ですのよ?」
「詭弁だな。それならなぜ、お前はさっきアイラ達を襲わせていた? お前が領土を手に入れる前にいた人間達はどうした?」
「さて、何のことでしょう?」
柔らかく微笑む魔王。
適当にごまかしやがって……。
その裏に闇があるように思えて仕方ない。
「でも実際に、私は彼女達を直接攻撃してはいませんよ? しようと思えばこのムチで、いつでも殺せましたもの」
「でも心を殺そうとした。人間は心を殺されれば、それは死んだも同然なんだよ」
「人間は脆いのですね。じゃあ貴方はこうすれば心が死にますか?」
不意にローズフィリップの目線がアイラ達の方へと向いた。
右手がブレる。
狙っていないと言っておきながらそれか!?
「電光石火!!」
一瞬にしてアイラ達の目の前に移動する。
それと同時に左肩から右の下腹部まで、激しい衝撃と音が俺を襲った。
身体がバラバラになったかのような激痛に襲われつつ、俺は勢いよく吹っ飛んだ。
壁に激突する。
「ぐああっ!!」
「ヤシロ!!」
痛みに顔をしかめつつ体を見る。
べったりと大量の血が付着していた。
付着じゃない、斜めにゴッソリと肉が抉られていた。
咄嗟に電光石火から避雷神へと切り替えたが、やはりギリギリ間に合わなかった。
いや、むしろ間に合ったと言うべきか。
死にはしなかったが、かなりの致命傷だ。
「あら? よく間に合いましたわね。それに今の一撃で死んでないなんて、人間の男も馬鹿にできませんわね」
痛みで気を失いそうだった。
魔力が上手くコントロールできない。
避雷神が発動できない。
「私は貴方の心を殺すつもりでしたのに、先に体が壊れてしまいそうですわね」
「ヤシロ……! 私達なんか庇っちゃダメだよ!」
「貴方しか魔王を倒すことは出来ないのよ! 《避雷神》!」
アイラと《魔女》が泣きそうな声で叫ぶ
そんなこと言ったって仕方ないだろ……。
身体が勝手に反応したんだから……。
「そもそも私が女の子を殺すわけがないと、先程申したばかりですのに」
信用できるか馬鹿野郎。
「それではこれにて閉幕、ですわね」
ローズフィリップがムチをヒュンヒュンと音を立てて振り回す。
力を込めて立ち上がれ……!
魔力を込めて立ち上がれ……!
このままじゃ…………!
「さよなら」
「があああああ!!」
叫び声と共に、《拳闘獅子》がローズフィリップに殴り掛かった。
振り抜いた拳は軌道を破壊し、魔王の顔へと届く。
と、思われたが、寸前のところでムチが《拳闘獅子》の拳に絡まり、拳が届かない。
まるで魔王の頬を撫でたような形だ。
「その傷で動けましたのね。油断していましたわよ」
「申し訳ありません女王! そいつは私がーーーくっ!」
上級魔人はまだ使徒を食い止めてくれていた。
「この子は私が遊んであげるからいいわよ」
魔王はそのまま《拳闘獅子》を床に叩きつける。
床が音を立てて破壊された。
「まだだああああ!!」
それでもなお《拳闘獅子》は立ち上がる。
その姿を見て俺も奮起した。
「う……おあああああ!」
気合い入れて立ち上がれ!!
死ぬほどの痛みと死ぬの、どっちがマシか考えろ!!
ここが分岐点だ!!
抉れた上半身を奮い立たせろ!
これが最後のチャンスだ!




