魔王ローズフィリップ8
「とりあえず《避雷神》が起きるまで、俺達はここから動けないな。他の魔者を中に入れないこともそうだが、魔王を前にして俺達は無力だ」
「そうだね……。で、でもこのまま《避雷神》が目覚めなくて、女性陣が討伐に失敗したらどうする?」
「その時は腹をくくるしかないだろう。俺も魔力は尽きた。後は祈るしかない」
ボンヤリとした頭の中で、微かに会話が聞こえた。
聞き覚えのある声は、《空ノ神》と《骨喰い》だ。
薄っすらと目を開けると、突き刺すような刺激の強い光が目に入り込んでくる。
視界がボヤける。
「とにかく、だ。中の状況も分からない以上、俺達の仕事は《避雷神》の保護と、魔者の侵入を許さないことだ」
「そ、そうだね。戦闘音は聞こえるし、まだ負けているわけじゃないみたいだからね」
「その通り……っと、敵のお出ましか……」
剣を抜く音が聞こえる。
徐々に目が光に慣れてきて、辺りの景色が映り出す。
やはり夢だった。
エルモアが裏切る世界は、魔王のスキルによって創り出されたまやかしの世界だったんだ。
俺はゆっくりと身体を起こす。
正面には《空ノ神》と《骨喰い》が、数人の魔者と対峙しているのが見えた。
「俺は左の2人をやる。《骨喰い》は右の2人を頼む」
「わ、分かったよ」
俺はゆっくり立ち上がり、腰から『獅子脅し』を引き抜いた。
銀色に光る銃口を魔者に向ける。
「行くぞ!」
「侵入者共め! 女王様の元へはぷげっ!!」
発射した弾が魔者の顔面を撃ち抜いた。
《空ノ神》と《骨喰い》が驚くようにしてこちらを向き、ニヤリと笑った。
「大遅刻だぞ、お寝坊さん」
「すいません、その分働きますから」
「ま、待ってたよ《避雷神》!」
残りの魔者に銃口を向け、引き金を引いた。
「防護壁!」
《魔女》が水中を潜る時に使用していた魔法を、魔者も使用した。
だが、ガラスを撃ち抜くように弾は貫通し、魔者に風穴を開けた。
『一点集中型散弾銃』モードでなくとも、大したシールドでなければぶち破れる。
改めてこの武器の有能さを知った。
「あの火力は危険よ! 攻撃される前に攻撃しなければ!」
2人の魔者が同時に火魔法を使ってくる。
《空ノ神》と《骨喰い》は横に交わした。
俺なら大丈夫なことを知っているからこそ、何のためらいもなくかわしたんだ。
「『避雷神』」
炎が避けるようにして逃げていく。
続けて2発撃った。
魔者に命中し、生き絶える。
状況に応じた戦い方をすることができるようになり、何だか余裕ができたみたいだ。
無詠唱で魔法を使える魔者は本来脅威のはずだが、自分でも驚くほどあっさりと倒せた。
「やるじゃないか《避雷神》。寝起きにしてはいい働きだ」
「ありがとうございます。それで、状況はどうなってますか?」
「既に女性陣は魔王と会敵している。ここまでは作戦通り……と言いたいところだが、使徒の姿を見ていない。もしかすれば中にいるのかもしれない」
「それは……まずいですね」
使徒は上級魔人と同等かそれ以上。
《拳闘獅子》、《魔女》、アイラ、エルモアの4人でどうにかなるとも思えない。
何よりアイラが心配だ。
「で、でも魔王がいる以上、中に入ることも出来ないんだよ」
「スキルですか……。魔王のスキルはガルムの情報通りでした。夢の世界の間違いを正せれば、目覚めることができます」
「なるほどな。ちなみにスキルの発動条件は恐らく、魅了魔法にかけられた者に限定されると踏んで間違いないだろう。発動距離については不明だが」
魅了魔法とスキルの死コンボ。
戦闘中にやられれば、耐えられないのは間違いない。
「でも俺は今、夢から醒めているはずです。続けて2回はないでしょう」
「だとすれば、同じ奴にスキルは二度効かない可能性がある……?」
「試してみる価値はあります。むしろ危険を犯さなければ、魔王は倒せません」
もしかしたら何度もスキルを使うことができて、醒めたと思ったこの瞬間も夢の中かもしれない。
もしそうなればお手上げだ。
だけど、だからといってそれは行動しない理由にはならない。
このまま魔王に怯えて、気付いたらアイラが死んでいる、なんてパターンはゴメンだ。
現実だと確認するのは、魔王を倒した後にでも《空ノ神》に劔魔法を使ってもらえば済む話だ。
今は一刻も早く応援に行くのが先決だ。
「俺が中に入ります。レインフォースさんとアリゲイトさんはここで待っていて下さい。魅了魔法にかかっていないお二人は、初見殺しの魔王コンボを喰らうかもしれませんから」
「そ、それもそうだね」
「……任せていいのか?」
「適度な睡眠が取れて、超元気ですから」
ガッツポーズをとって見せる。
実際のところ、この2人が俺を守ってくれていなければ、見捨てられていれば、俺は死んでいる。
2人のためにも、死地へ行くのは俺だけで充分だ。
「なら頼んだぞ《避雷神》。お前がこの戦いのキーマンだ」
「勇者でなくとも、魔王を討伐してみせますよ」
2人の期待を背に、俺は大きな扉の前に移動し、壊された部分をくぐって中へと入った。
危機的状況だった。
丁度、《拳闘獅子》が斬り伏せられ、アイラや《魔女》やエルモアの周りに男達が群がっていた。
その光景を見た瞬間に、頭に血がのぼる。
反射的に『獅子脅し』を機銃掃射モードへと切り替え、連射した。
「死ねえええええ!!」
一瞬にして男達が血を吹き出しながら飛んでいく。
まさかこんな状況になっていると、予想もしていなかった。
アイラの元へと急いで向かうと、息はしていた。
泣いてはいたが、生きている。
その事実に、俺はホッとした。
「うう〜…………ぐすっ……ヤシロォ……」
その姿に、何故かシーラが重なる。
今はあの子のことを心配している場合じゃない。
振り払うように頭を振った。
「ようアイラ……まだ生きてるか?」
アイラに聞くようにして、自分に言い聞かせた。
勝負はここからだ。




