魔王ローズフィリップ7
「だ……ダメ……! このままじゃ……勝てないよぉ……!」
迫りくる人間の男達を前に、私は弱音を吐いた。
彼らは魔王の魅了魔法にかかり、目を虚ろにしながら私とミーアさんに襲いかかってきた。
ミーアさんが防護壁の魔法を使い、私やエルモアさんの身を防いでくれているけど、これもいつまで持つか分からない。
既に私は魔力が尽きかけている。
それはミーアさんも同じだ。
エルモアさんに至っては、既に敵の攻撃によって深手を負い、戦える状況にない。
使徒と戦っているリーさんは、攻撃を繰り出すたびにカウンターを喰らい、傷つけられている。
使徒は上級魔人と同等と呼ばれるほど強い。
リーさん一人では力及ばずなんだ。
本来は魔王以外をヤシロ達が担う予定だったけれど、そのヤシロが魔王のスキルによって眠らされてしまった。
その時点で、私達の不利な状況は否めなかったんだ。
「ミーアさん! 一度部屋の外に退避しましょう! このままだと全員……!」
「そうしたいのはやまやまだけど……このゾンビ達を何とかしないといけないわね……! それに、魔王がそう易々と見逃してくれるかしらね?」
魔王は未だイスにゆったりと座りながら、この戦況をニヤニヤとしながら見ているだけだった。
もしも彼女に使徒以上の戦闘能力があるなら、私達に勝ち目はない。
操られている男達に捕まり、慰み者としての扱いを受ける羽目になるはずだ。
それだけは…………嫌だ!
「私が最後の魔力を使って敵を吹き飛ばします! その隙に避難しましょう!」
「…………そうね。外には《空ノ神》と《骨喰い》がいるし、彼らなら既に外にいる敵も倒しているでしょうしね……。問題は《拳闘獅子》だけれど……」
リーさんは話して聞くような人じゃない。
正直言って、私は彼女が苦手だ。
さっきはヤシロをおぶって運んでくれたりもしたけれど、すぐに当たり散らす爆発物のような性格は、いじめっ子のバネッサを思い出す。
「でも、このままだと全滅ですよ!」
「…………一度引きましょう。アイラ、魔法をお願いできる?」
「はい!」
私は残った魔力を使って、大量の水を勢いよく射出する準備をした。
「あら……逃げますの? まだよろしいじゃない」
バリィン!!
一瞬にして、ミーアさんが発動していた防護壁が割られた。
男達の圧力じゃない。
魔王の手元にはトゲのついたムチが握られていた。
さっきまでは杖だったはずなのに。
あれで攻撃してきたんだ。
「きゃああああ!!」
男達が襲いかかってくる。
魔王の魅了魔法によって通常の何倍も興奮していて、目を血走らせて、人と言うよりも魔物に近い。
その狂気じみた表情に恐怖を覚えた。
「いやっ! 来ないで!」
「くっ……離しなさい!!」
「貴様ぁ! 貴様の相手はアタシだろうがぁ!!」
「いいや、お前の相手は女王ではない、この私だ」
「ぐああっ!!」
魔王に飛びかかったリーさんが、使徒に斬り伏せられたのが見えた。
「さぁ、心に闇を宿しなさい。男に対する圧倒的な負の感情を。そうすれば貴方達も、私の国で愛してあげますわよ」
男達が私の服を無造作に破きにかかる。
その恐怖に魔力操作が上手くいかず、魔法を使うことが出来ない。
複数人の男に押さえつけられ、力ではどうすることもできない。
叫び声をあげた。
目から涙が零れた。
助けてと祈った。
誰かじゃない、ヤシロに助けてと祈った。
「いやあああああ!! ヤシロー!!!」
「死ねえええええ!!!」
上に覆いかぶさっていた男達が、血を吹き出して飛んでいった。
聞き覚えのある声だった。
いつも私を助けてくれる、大切な人の声。
「うう〜…………ぐすっ……ヤシロォ……」
「よおアイラ……まだ生きてるか?」
滲んだ視界には、ホッとする彼の姿が映っていた。




