魔王ローズフィリップ5
空気が震える。
レインフォースを起点とし、前方の空中に薄透明の刃が大量に現れた。
不規則に、魔者達を囲うようにして刃が浮遊する。
魔者達の足が止まった。
「その刃には、おおよそ芯と呼べるものが入っていない。その脆弱性はこの世の中でも物体として存在し得ないほどだろう。故に『空の芯』」
「こんなもの、魔法で破壊しなさい!」
魔者の誰かの掛け声で、様々な魔法が繰り出された。
それを見て、レインフォースはほくそ笑む。
「だが刃自体は最硬質鉱石よりも硬い」
魔法が刃に衝突する。
薄透明な刃はガラスが割られたような音を立て、空中にバラバラに砕け散った。
「砕かれた刃は、貴様らの身体を切り刻む」
粉々になった刃の破片が、勢いよく魔者達へと飛び散っていった。
「キャアアアア!!!」
「ぐああああああ!!!」
細かい破片が魔者達に突き刺さり、断末魔のような悲鳴が多く上がった。
だが、そのほとんどは致命傷にはなり得ない。
治癒魔法が使えれば、痕も残さず治すことができる程度だ。
「こ……こんなもので……!」
魔者達が各々治癒しながら立ち上がる。
これでは足止めが関の山だろう。
これだけならば。
「『空ノ神』の意味は、『空の芯』という意味だけで終わると思うな。それだけで4神は名乗れない」
レインフォースが剣を身体の正面に突き出したまま、逆手から順手に持ち替える。
剣は淡い発光からさらに光を強めた。
「芯のない刃は、体に突き刺さり、そして再び元の形を取り戻そうとする。すなわち、その者の体の芯となる」
魔者達の体に突き刺さっていた刃が、さらに身体の深くへと突き刺さっていく。
再び断末魔が鳴り響いた。
「故に『体の芯』」
レインフォースが剣を振り下ろす。
キンッ! という音と共に魔者達の体の中心を、薄透明の刃が貫いた。
全ての魔者が串刺しとなったのだ。
生き残っている者は、いない。
これが4神の一人が使っていたと言われる、対多人数向け劔魔法であった。
「え……エグい。は、初めて見たけど、強烈な魔法だね」
「だけど1発で魔導級並の魔力を使う。二度目は使えないからな」
そう言ったレインフォースは、肩で息をしていた。
使うのは魔力だけでなく、体力も同様のようであった。
「後は中の連中が上手くやってくれるか……コイツが目覚めるかだな」
二人は眠っている八代を見る。
未だに起きる気配はない。
「僕らじゃ魔王に太刀打ちできない……。女性陣には頑張ってもらいたいよね……」
※ ※ ※
「貴様が魔王ローズフィリップか…………探したぞ」
ニヤリと悪そうな笑みを浮かべながら、リー・ウェイバーが睨みつける。
その先には、まるで聖女のような白色のローブを身に纏った女が、玉座のような席に座っていた。
背後はカーテンの仕切りがあり、スペースがあることが伺える。
大きな杖を右手に持ち、柔らかな笑みを浮かべる彼女に、他のメンバーは敵意を削がれた気持ちになる。
隣には騎士のような強固な鎧を身に付け、腰に剣をぶら下げている女が立っていた。
気丈な立ち振る舞いから、そこらにいる男よりもよっぽどたくましく見える。
恐らくあれは魔王の使徒だろう、とアイラは思った。
「可愛らしいお嬢様達ですこと……。私に何の用かしら?」
「ぬかせ。ここで起きている出来事と照らし合わせれば、アタシ達が何をしにここへ来たのかは既に分かっているだろう」
「さぁ……? 私、そう言ったことには疎いんですの」
「ならば分からせてやる!」
リーが地面を強く踏み抜き、ローズフィリップへと襲いかかった。
しかし、渾身の一撃はローズフィリップの目の前で、隣にいた騎士が持っていた剣の持ち手によって防がれた。
壁をも砕く拳を、片手で防いでいるのだ。
「女王の御前であるぞ。不遜な態度は極刑に値する」
「はははっ! ならば貴様からアタシの相手をするか!」
「いけないわリー! 敵のペースに乗せられては!」
「構うものか! アタシはここまで我慢したんだ! この2人はアタシがやる!」
ミーアの呼び声も聞かず、リーは使徒に対して敵意を剥き出しにしている。
その姿はさながら獅子そのものである。
ローズフィリップは以前として柔らかい笑みを崩さない。
「アイラ! 私達でリーの援護をするわよ!」
「はい!」
2人が魔法を発動させる。
女騎士はローズフィリップの前に立ち、3人と魔王の間を隔てるように剣をかまえた。
リーが戦闘態勢に入る。
「魔王ローズフィリップ様の使徒、ヴィシェル・ヴェルダンディ、騎士として主人に仇なす者に鉄槌を」
「があっ!!」
抜き身の剣がリーの拳とぶつかる。
激しく火花が散った。
リーの拳は切られてはいない。
「肉体強化に特化した戦い方か。容赦はしない」
リーと使徒の動きがブレ、至る所で火花が散る。
アイラとミーアは動けないでいた。
動きが早すぎで迂闊に攻撃できないのだ。
「ど、どうしますかミーアさん!」
「それなら私達は、直接魔王に攻撃をすればいいのよ」
魔王は椅子に座ったまま動かない。
動く気配もない。
「盛れ、熱せよ! その業火を持って焦がし給え! 円神の炎草原!」
ミーアの放った上級炎魔法が魔王を襲う。
直撃したかに見えた。
いや、実際直撃はしている。
しかし、当たったのは魔王にではない。
どこからか突然現れた男達に、だ。
魔王の盾となった男達数人は、黒焦げとなって倒れた。
「な……! 一体あの人達は……!?」
ミーアとアイラが困惑するのも束の間、魔王の背後から、目が虚となっている男が何人、何十と溢れてきた。
まるで意識のない操り人形のようである。
「これは……!!」
「ふふ……。行きなさい、私の可愛いペット達」
男達の魔の手が2人へと向かう。




