魔王ローズフィリップ4
「これより先は、城内にいる敵と出会う可能性があります。気を付けて下さい」
エルモアが慎重に足を運ぶ。
だが、その前をアリゲイトが追い越す。
「ぼ、僕が先行するよ」
エルモアが、何を言い出すんだこの人は、という顔で見たが、レインフォースがエルモアの肩に手を置いて制止した。
「《骨喰い》に任せておけば大丈夫だ。彼は隠密が得意なんだ」
今回の遠征に彼が選抜された理由も、隠密活動が可能であるからだ。
人の後ろを取ることができるアリゲイトは、同時に人の気配を察知する力に優れている。
簡単に気配と言い表しているが、実際には足音や周囲の細かな変動に気付く力のことである。
臆病な性格であるにも関わらず、闇討ちを仕掛けてきたアリゲイトは、人一倍その力に長けていた。
「いくつか音がする……敵が近くにいるようだね……」
アリゲイトはボソリと呟くと、腰から剣を取り出した。
アリゲイトの剣はとても細く、そして軽い。
言うなればエストックと呼ばれる武器に近いだろう。
斬りつけたりするよりも、刺突による攻撃がメインとなる。
不意打ちを得意とするアリゲイトにとって、喉元に突き刺すことができればそれで充分なのだ。
一行はアリゲイトの後ろに並び、T字路の角で敵を待つ。
目の前を獣のような女魔者が横切った。
その瞬間、魔者の首元を腕で巻くようにして引き寄せ、うなじから剣を突き刺した。
突き刺さった剣が魔者の口から飛び出し、鮮血とともにくぐもった声が漏れ、ジタバタと暴れたが、すぐに生き絶えた。
手慣れている男の動きである。
「と、とりあえずこれで、大丈夫だね。次は、どっちに行けばいいんだい?」
「鮮やかですね……。魔者が来た方向に進んで下さい」
「この死体はどうする?」
「特に隠せるところもないか……。エルモア、ここから魔王の所まではどのくらいだ?」
「5階層まで登る必要がありますので、このペースを維持できれば10分程度かと」
「さすがに見つかるな……」
レインフォースは考え込むように唸った。
どこか隠せる部屋を探すべきか、それとも放置して先を急ぐか。
例え隠すにしても、血が飛び散っている以上不審がられるのは必然だ。
「よし、このまま死体は捨て置け。先に進む」
水魔法で掃除することもできたが、考え出した結論は先を急ぐことだった。
ここから先はタイムアタック勝負となる。
アリゲイト主導の元、遠回りできるところは遠回りし、通らなければいけないところは敵を暗殺して進んだ。
そして、3階層まで登った段階で、城内に非常ベルのようなものが鳴り響いた。
放置していた死体のどれかが見つかったのだ。
「ここからは最速で5階層まで駆け上がる。出会った奴は全て排除だ」
「誰かコイツを持っていろ! アタシの出番だな!」
リーが八代を放り投げる。
それをアリゲイトがキャッチした。
「……重い」
ドタバタと人が動き回る音が聞こえてくる。
城の中にいる魔者が動き始めた音だ。
「エルモア、ここから先は遠回りはいらない。最短距離を示せ!」
エルモアとリーが先頭に立ち、その後ろにミーア、アリゲイト、アイラ、レインフォースと並ぶ。
上へと目指して走り出した。
すぐに何人かの魔者と相対する。
弓矢でエルモアが狙撃するも、土魔法で防がれ、即座に炎魔法で攻撃してくる。
リーが火球に向かって拳を振り抜くと、火球が拳圧で散った。
剣圧ならぬ拳圧。
驚いた顔をした魔者に向かって、そのまま拳をぶち込んだ。
グシャリと頭が潰れたような音がして、魔者は吹っ飛んでいった。
「ははははは!! もっとアタシを楽しませろ!」
まるで魔王だな、とレインフォースは思った。
ある程度の敵の魔法はミーアがレジストし、背後から迫ってくる敵は、レインフォースが魔法を駆使して押しとどめている。
レインフォースは魔法と剣術を扱える、魔法剣士のような立場だ。
マスタークラスの魔法は『空ノ神』しか使えないが、その他の魔法は基本的に上級まで扱える。
魔法発動には詠唱が必要となるが、敵の無詠唱に対抗できる発動スピードがあるため、ほとんどの攻撃は対処できた。
その勢いのまま4階層、5階層まで駆け上がる。
敵の数が増えてきた。
圧倒的な魔法攻撃の数々に、こちらの手が間に合わなくなるが、魔王のいる大広間の前までやってきた。
「この先に魔王がいるはずです」
「それならここから先は女だけで行け! 俺達はここで敵を足止めしておく!」
「でも八代も寝ている状況で、2人だけで大丈夫なの!?」
「俺なら何とかできる! 目的は魔王を殺すこと、それを遂行しろ!」
戦いながら、レインフォースが背後からやってくる魔者達の足止めをしている。
かなり切迫している状況だ。
「言われんでも、魔王はアタシが頂く!」
「行きましょうアイラ、彼なら多人数に対する術があるから大丈夫よ」
アイラが不安そうな顔をしながらも、ミーアに押されて先へと進む。
彼女が心配しているのはレインフォースの安否ではない。
八代の安否なのだ。
リーが大きな扉を殴り、一部がぶち壊れた。
女性陣はそこから中へと入る。
アリゲイトは八代を下ろし、レインフォースの隣へと近づいた。
魔者の数は30人ほどになる。
「た、頼むよ。僕は大人数相手は苦手なんだ。魔法も得意じゃないし」
「任せろ。ここから先には誰一人として通さん」
レインフォースは剣を逆手に持ち、剣先を下に向け、体の目の前に突き出した。
「4神が一人、対多人数向け劔魔法」
剣が淡く光り始める。
今現在、世界で彼だけが使える魔術。
『避雷神』と同じく、4神と呼ばれる者が使っていた伝説の魔術。
『避雷神』が防御全振りの魔術だとすれば、これは対多人数全振りの魔術。
「発動せよ、『空ノ神』!」




