魔王ローズフィリップ3
「この状況……どう見る?」
《空ノ神》グリードリー・レインフォースは、突如として意識を失ってしまった、《避雷神》八代湊を見て呟いた。
八代はハシゴを登り、倉庫の一室へと入ると同時に眠るようにして倒れた。
アイラが声をかけるも、起きる気配は全くない。
「可能性として考えるのなら…………魔王のスキルによる催眠にかかった、と考えるのが普通ね」
《魔女》ランネル・ミーアの言葉に、一同は頷く。
だが周囲に人影はなく、魔王と接触した状況もない。
いつ、どのタイミングでスキルが発動されたのかが分からないのだ。
「魔王の範囲に入ったから、というのならば、俺や《骨喰い》が催眠にかかっていないのはおかしい。いや……もしくは既に俺もかかっているのか……?」
レインフォースが疑心暗鬼になるのも無理からぬことである。
魔王の催眠スキルは、自身が催眠にかかっていると認識するのは難しいのだから。
「いえ、それはありえません。魔王ローズフィリップのスキルはそこまで万能ではありませんから、何かしらの限定条件をヤシロさんが満たしていた、ということになります」
エルモアが、レインフォースの言葉を否定するように首を振りながら言った。
「少なくとも、一定の範囲内の男性にスキルを使えるという話は聞いたことがありません」
「じゃあ……なんでヤシロだけ催眠にかかったの?」
アイラが眠る八代を抱えながら聞いた。
その顔には不安が広がっている。
「何か、ここに来てから、ヤシロさんだけが違った事があったりは…………」
「何かあったかな……」
「あっただろう」
皆が考える中、口を開いたのは《拳闘獅子》のリー・ウェイバーだった。
彼女は、そんなことも分からないのか、と言った口ぶりで話す。
「《避雷神》の奴だけ、敵に襲われたんだろう?」
「あ…………そ、そういえば、そうだね」
リーの言葉に、《骨喰い》アリゲイト・クルーズが思い出したように呟いた。
八代だけが魔者のサキュバスと出会い、魅了魔法をかけられている。
アリゲイトも接触はしているが、魅了の魔法自体はかけられていない。
違いがあるとしたらその部分だろう。
「《避雷神》だけが魅了魔法をかけられ、その結果、魔王のスキルに当てられた…………。なるほど、一番辻褄が合うな」
「そうなると魔王のスキルの発動条件は、一度、魅了魔法にかかった者限定ということね」
「今のところではその可能性が高い」
「そして、直接でなくとも魅了魔法に一度かかっているものならば、いつでも、あるいは一定の範囲内に入ったものを催眠にかけることができる…………」
魔王ローズフィリップは、その美貌から出会った男全てに魅了魔法をかける事ができる。
その点においてはサキュバスの完全上位互換に位置している。
そうして魅了した相手を、そのままスキルによって催眠状態にする。
恐らくは、その連携が脅威なのだろうとレインフォースは思った。
「魔王と直接会うなというのは、そういうことか」
「ヤ、ヤシロはどうするの? 助けてあげられないの?」
アイラが目に涙を溜めながら、すがるようにレインフォースへと言った。
このままでは八代が置いていかれると思ったのだ。
「一度催眠にかかった奴を、こちら側から覚まさせることはできないとガルムから聞いているだろう? 目覚めるかどうかは《避雷神》次第だな」
「ふん。動けない者など、完全に足手まといだな」
「そ、そうだね。動きが制限されるからね……」
「そんな!」
リーが冷たく言い放つ。
その言葉にアイラは絶望した。
そんなあっさりと見捨てられるとは思っていなかった。
少なくともアイラは、ここにいるみんなとは仲間意識が芽生えていた。
だから見捨てることはないと、勝手にそう思っていた。
まるで、鈍器で後頭部を強く殴られたような衝撃を感じる。
「だが…………」
リーが眠っているヤシロに近付き、軽々とその身体を引っ張りあげた。
「え…………?」
アイラは目に涙を浮かべながら、ポカンとその光景を見ていた。
「コイツはあのガルムや剣聖に認められる男だ。こんな催眠如きにくたばるような奴ではないだろう。それに、コイツが目覚めなければ、大幅な戦力減は間違いないだろうからな」
リーはそのまま寝ているガルムを背負った。
まるでアタシが運んでいってやると言わんばかりの態度である。
その行動にビックリしたのはアイラだけではない。
リーのことを知る、他のメンバーも同じであった。
「おいおい……《拳闘獅子》が人のために行動とかするのかよ……」
「僕も、は、初めて見たよ……」
「何だ貴様ら、アタシのことをバカにしているのか?」
リーがいつもの調子でキッと睨みつけた。
獰猛な雰囲気はお馴染みだが、八代を背負っている分、怖さは半減だ。
「あら、リーったら…………キスされて《避雷神》の事が気にいっちゃった?」
「なっ……! そ、そんなわけがないだろうが!! ふざけた事を抜かすと貴様から壊してやるぞ《魔女》が!!」
獅子の如く否定しているが、その顔は真っ赤である。
そういうイジられ方をされたことがない彼女にとって、まるで思春期の女の子のよう反応を取ってしまうのは仕方ないことだった。
「エルフ! さっさと先に案内しろ!」
「分かりました」
リーはズカズカと先に歩いていってしまった。
リーの新鮮な反応に、他のメンバーはニヤニヤと笑いながら後をついていく。
だが、その反応を面白くないと感じる猫耳少女がいた。
リーのその反応に若干のイラつきがありながらも、八代をおぶっていってくれるという感謝も同時にあり、もやもやとした気持ちで彼女らの後を追いかけた。




