魔王ローズフィリップ2
《拳闘獅子》の主な戦闘スタイルは、単純な近接戦闘。
武器を使わず、魔法を使わず。
かといって、己の肉体だけで戦うわけではない。
体に魔力を流し、覆うことで肉体強化が行われ、爆発的な攻撃力が生まれるのだ。
その一撃が、魔王へとヒットする。
おかしい。
魔王がこんなにもアッサリと敵の攻撃をもらうだろうか?
なにより、ここに誘い込んだというのに罠を設置しているわけでもなく、周りに女魔者を配置しているだけ。
誘い込んだ意味がないんじゃないだろうか。
だが、現に他の女魔者やエルモアと、俺達の戦闘は勃発している。
そこまで考えていなかったと言えばそれまでなんだけど……。
「ヤシロ! 右から来てるよ!」
「了解!」
俺は『獅子脅し』を取り出し、右から襲いかかってきた魔者に発砲した。
魔者の土手っ腹に風穴が開き、吹き飛んでいった。
「ははははは!! どうした! 魔王といってもその程度か!」
《拳闘獅子》が一方的に蹂躙している。
何度も何度も、壁をも破壊するパンチを倒れている魔王に打ち込んでいる。
やっぱりおかしい。
上手く事が行き過ぎている。
よく漫画やアニメでは、上手く事が行っている時は、不穏な物事が起こる前兆みたいな描かれ方をしている。
だからそういうシーンがあると、逆に不安になってしまう。
今の俺の気持ちはそんな感じだ。
プラスとマイナスでバランスを取るように、良いことがあった後は悪いことが起こるように。
そういえば…………戦術会議の時にガルムが魔王のスキル関することを言っていた。
※ ※ ※
「魔王ローズフィリップのスキルは【妖艶なる女王】、効果は催眠」
出発前日、遠征部隊の俺達にガルムが魔王のスキルを教えてくれた。
「催眠……っていうと、操られたりとかそういう?」
「操り……とまではいかないかな。どちらかと言えば、催眠をかけた相手の自由を奪うものだよ」
「かけられたからといって、仲間割れの可能性は無いわけか」
《空ノ神》が真面目な顔をして聞いた。
しっかりメモまでとっている用心さだ。
「かけられた相手は、夢を見る。だけどその夢はとてもリアルで、自分が催眠をかけられていることに気付かないぐらいだ」
「うへぇ怖いな」
「気が付かない人は、現実の体が死ぬまで、永遠と夢の中で生活することになると言われてる」
「……対抗策はないのかしら」
「ないわけじゃない。それにこのスキルは限定条件付きだよ。そもそも女性には効かない」
女性に効かないというのは、魅了魔法と同じか。
ローズフィリップはとことん対男特化だな。
「俺らにしか効かないと言うのは分かった。なら、かかった後の対抗策というのは?」
「僕も詳しくは分からないけど…………夢の中と現実で、ある1カ所だけ間違いがあるらしい」
リアル間違い探し?
夢の中にいると認知出来ないのに、間違いがあると思わなきゃ現実には帰ってこれないって、攻略難しくない?
その間違いというのも、どの程度のものなのかにもよるよね。
着ている服が違うとか、そういうのだったら楽だけど。
「曖昧だな……。もっと詳しく分からないのか?」
「これ以上は分からないんだ。調査してる間者からの情報はこれだけだったからね」
間者というのは、ローズフィリップの領土で案内をしてくれる人のことか。
「私達には効かないのは分かったけど、こっちから男性陣を起こしたりというのは出来ないの?」
アイラが聞いた。
「難しいみたいだよ。それぞれ見ている夢も違うみたいだし、気付くかどうかは完全に本人次第だって」
「ふーん、どのタイミングでスキルを使われるんだろうな。出会った瞬間とかだったら詰みだよね」
「どうだろうと関係ない。魔王の殺すのはアタシだ」
端っこの方で《拳闘獅子》が牙を剥くようにして言った。
話、聞いてたんだ。
「アタシ一人いれば、他はいらん」
「そういうわけにはいかないよ。リーは物理攻撃には強いけど、魔法耐性が低いんだから、魔法を得意とする魔者は他の人が相手取らなきゃ」
「ふん。アタシがそこらの雑魚に遅れを取るとでも?」
《拳闘獅子》はガルムにも敵意を向けている。
誰かの下につくってタイプじゃないぞこの人。
どうやって仲間に引き入れたんだ?
「……前に約束したでしょう。リーに戦う場所を与える代わりに、僕の指示は聞くって」
「…………アタシが魔王をやる。それ以外は好きに決めろ」
そう言い残し、《拳闘獅子》は部屋から出て行ってしまった。
一応ガルムの指示は聞く、とういうことだろうか。
「《拳闘獅子》って……こ、怖いよね」
賛同を求めるように《骨喰い》が話しかけてきた。
あまり怖いっていう感じはしないけど、とりあえず頷いておいた。
ここにいる【怪童】のメンバーの戦う理由はそれぞれだが、純粋に力を求めているのは彼女だけの気がする。
他のメンバーは、何かしらの目的を達成するために力をつけているが、《拳闘獅子》は目的のために力をつけているのではなく、力をつけることが目的になっている。
そんな事を続けていれば、必ず早死にすると思う。
ガルムが手綱を取る事で、彼女の無茶を止めているんだろうか。
「とにかく、だよ。催眠をかからないようにするために、とりあえずは直接的な接触は避けるようにしてよ」
「もし接触せずとも、何かしらでスキルを使われたら?」
「その時は…………気合いでどうにか!」
「アバウトだな!」
※ ※ ※
もし、この違和感が、魔王のスキルによる催眠だとしたら俺は今、夢を見ていることになる。
夢だということは、どこかに間違いがあるはずだけど…………どれだ?
どれが間違いだ?
魔王がこんなにも弱いことか?
だが、現に今も魔王は死んではいない。
それどころか《拳闘獅子》が吹き飛ばされた。
魔王は健在だ。
なら夢ですらない?
スキルはそもそも使われていない?
くそっ!
全然分からない!
「はぁぁああ!」
「邪魔だ!」
飛びかかってきた魔者を撃った。
頭が一撃で吹き飛んだ。
他のメンバーを確認するも、苦戦している様子はない。
流石に人類最高クラスの戦力達だ。
魔者に遅れはとらない。
だが、アイラが少し苦戦していた。
1対2の状況で押されている。
元々、戦闘経験も戦う力もないから無理もないはずだ。
「う……くっ……!」
「紡ぎ、発光せよ! 神の雷を持って細胞を死滅させ給え! 狂神の雷!」
上級の雷魔法を詠唱。
俺が無詠唱で使えるのは『避雷神』だけだから仕方がない。
アイラと戦っている魔者達の上に雷撃が帯電し、雷が降り注ぐ。
魔者達は頭上に土魔法を使い、雷撃を地面へと逃した。
流石に詠唱した後だと、魔者のほうが対策を取るのは早い。
「水泡!!」
だが、その一瞬の隙にアイラが2人の魔者を水の膜で包み込んだ。
アイラのこの魔法は遠隔で発動できるのに、魔法陣を必要としないから強い。
ほぼノータイムで敵を包み込むことが可能だ。
水泡を維持するために集中している間、俺がアイラの周りを警戒する。
《空ノ神》は《魔女》と連携して戦っている。
《骨喰い》は…………いた。
気配を消して背後から敵を刺している。
すごいな。
最初の違和感以降、ここまで間違いらしきものは見当たらない。
エルモアの裏切りについては信じたくないものだけど…………スキルを使われているというのは、俺の心配し過ぎだったのかもしれない。
もしかしたら、発動にも条件があったりな。
とにかく、今をどうにかするのが先決だろう。




