魔王ローズフィリップ1
翌日。
日が昇りきり、風になびかれてキラキラと葉が輝く中、俺達はエルモアの調査した隠し通路を通って魔王の城内へと目指していた。
侵入経路はキャンプ近くの井戸。
ここを通っていけば城内へと通じているという。
中は地下水が流れており、その脇の細い小道を通っていくようだ。
「滑りやすくなっています。気をつけて下さい」
真っ暗なため、エルモアが火魔法で辺りを灯しながら1列になって進んでいくが、突然魔物が現れることもあるというため、周囲に気を張りつつ目的地を目指す。
30分ほど歩いたところで、大型犬ぐらいはあるドブネズミが現れたが、《拳闘獅子》が一撃でねじ伏せた。
まるでハンマーで叩き潰したかのような跡に思わず気分を悪くしながら、進行を続けた。
「他愛もない」とかいう不満も聞こえたが、無視することにした。
そこから先も幾度か魔物は現れたが、どれも大したことはなく、全て《拳闘獅子》が一撃で葬り去った。
結果、目的の場所までは何の問題もなく辿りつくことができた。
上へと続くハシゴがいくつもあり、それぞれが城内のどこかしらへ繋がっているのだろう。
なぜこんな物が存在するのかは、少々疑問ではあるけど。
「ここを上がると、城内の一室に出ます。そこは現在倉庫として使われていますので、人はいないはずです」
エルモアが先頭で鉄製のハシゴを登り、ハッチのような扉に付いているハンドルを回し、扉を開けた。
まるでマンホールから出るようなイメージだ。
1人づつ上がる。
辺りは真っ暗で、何も見えない。
倉庫ということで、灯のようなものは点いていないのだろう。
「エルモア、火魔法で照らしてくれないか」
「その必要はありません。すぐに灯が点きます」
すぐにというのは一体……?
エルモアの言葉の真意が分かるのは、そのすぐ後だった。
周囲一体の壁に掛かっていたのであろう、灯に火が連続して点いていき、閉じられていたと思われる窓が音を立てて開いていき、外の日が部屋の中に差し込んだ。
部屋。
俺達がいたのは部屋とはとてもじゃないが言い難い。
倉庫でもない。
まるで王の間だ。
シャンドラ王国で王の謁見を行ったような大広間。
俺達はその中央にいた。
そして正面。
ファンタジー世界の貴族が使うような、豪華絢爛なダブルベッドがあった。
そこには黒いボンテージにも似た服を身に纏っている美女が、寝転がりながらこちらを微笑むようにして見ていた。
その光景からすぐさま俺達は察した。
〝嵌められた〟のだと。
周囲にも様々な種族の、それも全て女の魔族が武装しながらこちらを睨みつけていた。
「ほぼ…………タイミングはバッチリのようね……エルモア」
「はい! 私はあなた様の命令通り、命を狙う者共をここへ連れて参りました!」
エルモアのキャラが完全に崩壊している。
エルフの毅然とした態度は失われ、まるで恋をしている乙女のような顔で寝転がっている女を見ている。
「ですから私にお情けを! 寵愛を!」
「エルモア! 貴様どういうつもりだ! 最初から俺達を騙していたのか!」
《空ノ神》の怒号が飛んだ。
エルモアは一転して冷ややかな目で、俺達を睨みつける。
昨日、火を囲んで話していたエルモアとは、全くの別人のようだ。
「…………この状況、見れば分かるでしょう。私は初めからそのつもりでした」
「なんで……! 魔王を恨んでいるという話は嘘だったんですか!?」
アイラが悲痛な声を上げるが、今のエルモアには何も響いていないようだ。
「いいえ、嘘ではありませんでした。ある一定の時期までは、ですが」
「……彼女の言っていることは本当よ……。ついこの間までは……彼女も私の命を狙っていたもの……」
妖艶な雰囲気を出しながら私と呼ぶボンテージ姿の女。
つまりはあれが、魔王ローズフィリップなのだろう。
「……彼女が私の周りをチョロチョロしていたのが分かったから……捕らえて2日間……私が快楽による調教と洗脳を繰り返したの……。そうしてできたのが……そこのお人形さん」
そう言ってエルモアを指差す。
つまり、エルモアはガルムから命を受けて魔王討伐の調査をしていたが、魔王に捕まり、挙句に心を壊されたと。
恋人が殺されたのも本当だろう。
魔王を恨んでいたのも本当だろう。
抜け道も、調査の中で見つけたのは本当だろう。
だが、全ては魔王の手の平の上。
エルモアをアッサリと信用してしまった俺達に落ち度があったか。
「ガルムさんには悪いと思っています。色々とお世話になったことがありましたが…………私は魔王様に忠誠を誓ったのです」
彼女とガルムがどういう関係にあったのかは、昨日聞きそびれたので分からない。
今はそんなことを気にしてる場合じゃないんだ。
「貴様が裏切っただの、魔王に忠誠を誓っただの、そんなことはどうでもいい。魔王を探す手間が省けたというものだ」
ほら見ろ。
既に《拳闘獅子》が臨戦態勢に入っている。
彼女が放つ威圧は、肉体に魔力を流している影響で生まれるものだと聞いた。
周囲にいる魔族も、それに反応するように構えをとっている。
「ふふ……気の強そうな女の子ね……。いいわよ……その心……折ってあげる」
《拳闘獅子》が動くと同時に、戦闘が始まった。




