キャンプ
見張りは3交代制になった。
《空ノ神》と《魔女》、《骨喰い》と《拳闘獅子》とエルモア、俺とアイラの3つに分かれ、時間は2時間おきに見張りを交代し、俺達は3番目につくこととなった。
ひと通り俺は周囲を検索し、野営地で見張っているアイラの元へと戻ってきた。
久しぶりにアイラと2人で過ごす時間ができた。
アンダーグラウンドにいた頃は、俺が気絶していた時間以外は別行動が多かったからね。
この機会に、改めてアイラに聞いておきたいことを質問してみることにした。
他の人達はテントの中で寝ており、切り株を刻んで作った椅子に俺達は座った。
気温は暑くも寒くもない。
この大陸は常に過ごしやすい気候だ。
「アイラは……俺と一緒で大丈夫か?」
「なにそれ。どういうこと?」
アイラが怪訝な顔で見てくる。
以前にシルヴァード族の村を出てくる時に、アイラの決意が固いことは聞いている。
にも関わらず、俺が再度似たような質問をしているから嫌な気持ちになるのは当たり前だろう。
「いや……やっぱり俺なんかに付いてきて……無理矢理に戦わされるようなことばっかりで嫌にならないのかなって……」
「……ヤシロ」
アイラがこちらをじっと見てくる。
一切視線を外さずに見てくる彼女を見てると、何も悪いことはしていないけど俺が目を逸らしたくなる。
「……何ですか」
「ヤシロって結構精神的に弱いよね」
「そ、そんなことないぜ。どこをどう見たら、俺がメンタル弱いなんて発想が出て来るのやら」
そうさ。
この世界に来てから嫌なことも、死にかけたこともたくさんあったけど、その都度、俺はモチベーション高くやってきたんだ。
逆に俺ほど大雑把な人間もそうはいない。
魔族とはいえ、人型を殺しても何も思わなくなった。
誰かれ構わず、初めて会った人にもヘラヘラ笑いながら話して、嫌われないように立ち振る舞った。
転移魔法で飛ばされて、シーラやゼロと離れた時だって、すぐに切り替えてみせた。
メンタル弱い奴に、そんなことできるか?
いいや、無神経な奴にしかできないさ。
「ヤシロがそう言うなら別にいいけど……。でもさ、ヤシロって、私に相談とかってあまりしないじゃん? 一人で決めて……一人で考え込むよね」
む。
言われてみれば確かにそうだな。
今後の方向性とかでアイラに相談した覚えがない。
アイラだけに限らず、ゼロやシーラとも相談したことないな。
俺が提案して、それに二人がとりあえず賛同して。
これはあまり相談とは言えないもんな。
何でだろう?
変なところで、リーダーシップをとりたいとか思ってんのかな。
「意識したことはないけど……アイラの言う通りかもな」
「もっと私に頼ってくれてもいいんだよ?」
そう言って、アイラは俺の方に頭をのせてきた。
獣の臭いがフワリと鼻を刺激する。
でも嫌いな臭いじゃない。
猫耳が動くたびに、俺の頰にツンツンと当たる。
「疲れた時は…………私の耳とか……触っていいからさ」
そう言われて、俺はパクッと耳を咥えた。
「ひゃあ!! た、食べていいとは言ってないよ!」
「あ、ダメなの? 目の前にあったし、いいのかなって」
「もうっ、あくまで触るだけ…………! それだったら……いくらでも構わないから」
「…………ありがとう」
「仲が良いんですね」
アイラの耳を弄りまくろうかと思ったら、スッとエルモアが現れてビックリした。
今は休憩中のはずなのに、どうしたのだろうか。
「すいません、うるさかったですか?」
「いえ、私はあまり寝付きが良い方ではありませんので、少し夜風に当たろうかと」
そう言って星明かりに照らされる彼女は、まるで一枚の絵画のように様になっていた。
風が吹くたびに、短いブロンドの髪がサラサラと揺れ動く。
物憂げな表情は、まるで未亡人のようだ。
「……エルモアさんは、どうしてローズフィリップの討伐に協力してくれるんですか?」
アイラが尋ねた。
聞きにくい事をズバッとよく聞けるな。
かくいう俺もそれは気になる。
「私怨です」
端的にそう言って、エルモアは俺達の正面の切り株に座った。
「私の恋人が、魔王の食い物にされたのです。性的にも、物理的にも」
性的とはやらしいな。
だけど、その後の物理的にとかいう物騒な言葉は何だろう。
ローズフィリップは食人趣味なのか?
「エルモアさんはこの国の人だったんですか?」
「いえ、私達エルフは元々、ソウグラス大陸を主な住処としていました。しかし、今から約45年前に人間側の勇者、エレクがソウグラス大陸に現れました。そのため、我々ソウグラス大陸にいた魔族は激しい弾劾に合い、他の大陸に移らざるを得なくなったのです」
寂しそうな顔をしながら、エルモアが話した。
エルモアが話したその感じだと、俺ら人間を恨んでてもおかしくないように聞こえるけど……。
「ああ、もちろん貴方達を恨んでいる、なんてことはありませんよ。戦争ではお互いが必死ですし、こちらも人間に対して同じようなことをしていますから、一方的にどうとは言えません」
俺が怪訝そうな顔をしたのを見て察したのか、エルモアが慌てて補足した。
別に睨んでたわけじゃないんだけどな……。
「でも、ソウグラス大陸には何人か魔王様はいますよね? その人達の庇護下には入ろうとしなかったんですか?」
「私達が直接従っていた方は魔王ヴィルモール様でした。しかし、あのお方が勇者によって討伐されてしまった後は、魔王ガゼル様か魔王ディオーサ様のどちらかだけです」
魔王ガゼルはクソみたいな奴だよな。
人類に対してケンカ売りまくってるっていう。
魔王ディオーサは誰だっけ……。
3代目勇者のグリムに教えてもらった気がするけど……。
「魔王ガゼル様の元に行けば、無理矢理にでも戦わされることが分かっていましたから、種族的には反対する意見が大半でした。魔王ディオーサ様は、その時には既に消息不明となっていました。そうすると、選択肢はあまり残されていません」
あ、魔王ディオーサって3人いる女魔王の一人だ。
生死が分からなくなってるって噂の。
そうすると実質、ソウグラス大陸には魔王ガゼルしかいないってこと?
そう考えると、大陸1つ取り戻すのが簡単に思えるな。
実際はそんなことないんだろうけど。
「その結果、大陸を横断することにした、と……」
「そうです」
「へ〜…………私達の村は100年前から変わったことはないって言ってたな……」
この世界に魔王が現れたのが約140年前? だっけ。
それと同時に魔者も現れたって話だから、たったの100年足らずで人類は大陸の半分を失ってることになるのか。
勇者がいなかったら人類滅亡しかねないペースだよなこれ。
「魔王様それぞれにも個性がありますからね。人間と手を組む方や、魔人しか配下に置かない方など。我々魔族は意外と肩身が狭かったりするのです」
「……まぁ人間も同じようなものだよ」
元の世界でも、国が違えば文化も言葉も違う。
それこそ交流の中でいざこざがあったり戦争があったりで、共通の敵がいたとしても一枚岩になれるかどうかは疑問だろう。
……そういえば、今更だけどこの世界は大陸や国によって言語は違ったりするのだろうか。
ソウグラス大陸からサンクリッド大陸に移動した時は、全く問題なかった。
それどころか魔族とも普通に話せている。
俺はガルムの恩恵を受けているから、どんな言葉も勝手に脳内補完してくれているのかとも思ったけど、そんなわけでもない。
アクエリア大陸に飛ばされてきてからも一緒だ。
「話は変わるんだけど、大陸や種族ごとに言葉とかって変わらないの?」
「今ごろ? そりゃ、種族や場所によっては独特の言語があるとは思うけど、基本的には世界には1つの共通語というのがあるよ。それが、今私達が話している言葉」
アイラが当たり前じゃない、と言った顔で説明した。
「人間には長い歴史があるのかもしれないけど、私達魔族にとっては歴史が浅いの。だから、魔王様が話す言葉をそのまま真似て覚えたらしいよ」
「で、その魔王が話していたのが人類の共通語に当たるってわけか……」
「うん」
それじゃあ魔王が共通語を話せた理由はなんなんだろう?
魔王も俺達と同じ異世界人だって話だし…………。
召喚者の恩恵……?
もしかして、魔王達も誰かに召喚されて、俺と同じように召喚者の恩恵を受けてる可能性もある……のか?
……なくは無い話だよな。
ヴィルモールだったら、そのあたり詳しく知ってそうだし、もしもまた武器を手に入れられたら、その時にでも聞いてみようかな。
「歴史が浅いからこそ、私達魔族はこれから歴史を作っていくところなんだよ」
「しかし、そのほとんどは争いの歴史に彩られています」
「そう……だね。私は争うことなんて嫌いだけど、人間からしてみれば私達は侵略者だもん。争いはなくならないよ」
俺はこの世界の人間じゃない。
だから、どっちの立場にも立つことができるし、どっちの立場に立つこともできない。
俺にとってここは、「ファンタジー」であって「リアル」ではないんだ。
「それにしてもアイラは詳しいな。たくさん勉強したんだな」
「当たり前でしょ。魔法が苦手な分、知識で補わなきゃいけないんだから」
アイラがふふんと得意げに言った。
可愛い奴め。
「よう、そろそろ交代の時間だろう。変わるぞ」
テントから《空ノ神》が出てきた。
気付けば2時間経っていたのだ。
《空ノ神》に続くように《魔女》も出てきた。
「あら、エルモアも含めてお話し?」
「ええ、少し寝付けなかったもので、付き合って頂きました」
「何の話をしてたんだ? 俺にも聞かせてくれよ」
《空ノ神》が近くの古木を切り刻み、即興でイスを3つ余分に作った。
鮮やかなお手前。
「大した話ではないですよ」
「というか《避雷神》、サキュバスと会った時の状況を教えてくれよ」
《空ノ神》がニヤニヤとしながら、話したくもない話を振ってきた。
これだけ女性がいる前で、それを聞くかね普通……。
「実際のところどうだったんだ? 魅了の幻惑魔法ってやつは」
やれやれ仕方ないな。
ここは男としてのプライドを保つためにも、バシッと一言言った方がいいな。
あの程度の幻惑魔法なんて、大したことはなかったと。
「最高でした」
アイラの肘鉄がみぞおちに入った。
呻いた。




