協力者
道中、それほど危険な出来事はなかった。
一度、サメに似た巨大な生き物が襲ってきたが、《魔女》の圧倒的な氷魔法により串刺しとなった。
ピンポイントで水中の一部分だけを氷に変化させ、あらゆる方向から突き刺したのだ。
鮮やかというほかない。
防護壁を使用しながらの複数魔法。
ゼロも得意としていた戦法だ。
アイツは3つ同時に使用していたが、魔女は同時に2つまでしか使えないという。
意外とスゴイ技術だったんだな。
何度かの休憩を挟み、目標地点へと到着した。
ここまでで半日かかっている。
それでも半日。
もっと遠い所で、何日も何週間もかけて向かうものだと思っていたけど、思いの外近かった。
その間、ずっと魔法を使い続けていたアイラと《魔女》は今日のMVPだ。
目標地点は少し木が生い茂っているところであり、雰囲気的にはソウグラス大陸と似ている。
話によるとここに協力者がいるという話だが……。
「…………そこに隠れている奴、出て来い。でなければこちらから行くぞ」
《拳闘獅子》が近くの木を睨みつけた。
どうやら木陰に人が隠れているようだ。
木陰から両手を上げながら、1人の女性が現れた。
綺麗なブロンドヘアに人間よりも長い耳、クッキリとした目鼻に人間でいう所の美人、背中には弓矢。
俺でも知ってる。
これはエルフだ。
「お待ちしておりました。私はガルム様から命を授かっております、案内役のエルモア・エルロンドと申します」
「ガルムの名前を知っているということは、内通者ということで間違いないな。俺達が今回派遣された【怪童】のメンバーで、リーダーを務めるグリードリー・レインフォースだ」
エルモアと《空ノ神》が握手をする。
ガルムが言っていた協力者というのは魔者だったのか。
まぁ、普通に考えればそりゃそうだよな。
こんな所に人間がいる方がおかしいか。
そういえば協力者は魔族だったとも言っていた気がする。
「それでは早速ご案内します」
エルモアが反転して、森の中を歩き始めた。
俺達はそれに追随するように歩く。
長旅で休ませるなんて考えはなさそうだ。
「…………アレだったらおぶって行くけど?」
「えっ? だ、大丈夫だもん。これぐらい……付いていけるよ」
と、言ってはいるものの、肩で息を切らしているほどアイラは疲弊している。
アイラの魔力は魔者だけあって、かなり多い。
《魔女》なんかよりもずっとだ。
そもそも《魔女》の魔力総量が少ないというのもあるが。
それでも大量の水をずっと操作するというのは、精神的にかなり疲れるみたいだ。
途中途中で休憩を挟んでいても、そう易々と回復するようなものでもない。
…………仕方ないよな。
「よっこいせ」
「ひゃあ! ちょ、ちょっとヤシロ!」
俺は前を歩いていたアイラを下からすくい上げ、いわゆるお姫様抱っこをした。
歩いている人を急にはおぶれないから、こういう態勢になってしまった。
体格も小さいし、全然重くないから負担にはならない。
「だ、大丈夫だってば……!」
「いいって。ここまでアイラの魔法に抱っこにおんぶだったんだから、地上ぐらいでは俺に抱えられててよ。それとも……迷惑だった?」
「…………そういうことじゃないけどさ……。ま、まぁ、ヤシロがどうしてもっていうならいいけど……!」
耳をピコピコと動かしながらアイラが言う。
何だよこの可愛い生き物は。
お持ち帰りしたい。
「どうしてもお願いします」
「じゃあ、許可したげる」
そう言ってハニカミながら俺の胸元の服をギュッと掴む。
ぐうカワだ。
頼られるっていうのは、やっぱり良いもんだよ、うん。
いや、下心無しで。
※ ※ ※
「ここから見えるお城、あそこが魔王ローズフィリップの居城になります」
1時間ほど歩いたところで、エルモアが丘の上から1つのお城を指差した。
そこは巨大な滝に囲まれるようにして佇んでおり、その大量の水蒸気の影響からか、城を包み込むようにして虹がかかっている。
お城も一言で言えば豪華絢爛。
多様な色を使って、華やかさを一面にアピールしているようなお城だ。
「ダイレクトで魔王の元に来れるとは思っていなかったな」
「予想よりも、ずっと近かったわね」
「今日はどうされますか? これより近付かれますと、敵の警戒網に引っかかってしまいますが」
既に日は落ち始めている。
これから先は闇夜の行動となるだろう。
「一先ずここで野営地を作るか。《避雷神》、《骨喰い》、お前達は周囲を確認してきてくれないか」
「分かりました」
「敵に会いませんように……敵に会いませんように……敵に会いませんように……」
《骨喰い》が震えながら神に祈っていたが、俺は見なかったことにした。
《空ノ神》達はキャンプの準備をするようだ。
俺も女の子と一緒にキャッキャしながら準備をしたかったが、当然そんな事を言い出せる雰囲気でもなく、俺は丘から少し下って周囲の検索に向かった。
木が生い茂っている分、暗いとイマイチ道が分からなくなるな。
迷わないように、帰る方向は確認しておかないとだ。
それにしても、たった1日で魔王の本拠地に来れるとは思わなかった。
ゲヴィッター属国からここまでの距離は元々無かったってことだ。
そうすると……ここからサンクリッド大陸行きの港までは遠いんじゃないか?
ガルムの奴は逃げてもいいって言ってたけど、案内無しでここから港までは行けなくないか?
そう考えると、結局のところ選択肢は1つということに…………。
「もし…………」
突然の声に、俺は『獅子脅し』に手を掛けた。
まさか敵に見つかったのか?
だとしたら完全に下手こいた。
奇襲という利便性を失ってしまう。
確実にここで敵を始末しなければ。
「もし…………殿方……」
木の陰から出てきた人物を見て、俺は息を呑んで固まってしまった。
それは、ハッと息を呑むほどの美女だった。
俺の好みの女性ドンピシャ。
ここまで理想の女性が存在するのかと疑うほど、彼女は美しく、目を離すことができない。
童顔でありながらも、その体つきは出る所は出て、引き締まるべき所は引き締まっている。
要はボンッキュッボンッなのだ。
「このようなところで……どうされたのですか……?」
言葉の1つ1つが下半身に響いてくる。
身体が熱い。
彼女が一歩近づくたびに、甘い媚薬でも飲まされているかのように、頭がボーっとし、俺の動悸が激しくなる。
どうなってるんだ……?
「お困りのようでしたら……私めがお力に……」
「いや……別に困っては……」
困っていることといえば、下半身の疼きぐらいだ。
だが、それを彼女に言うわけにはいかないと、微かな理性が俺の言葉をとどまらせる。
一言口に出してしまえば、抑えが効かなくなりそうだ。
「あなたの身体は……お困りのようですが……?」
そう言って彼女の手が俺の頰に触れる。
触られた部分が焼けるように熱くなる。
だが痛みではない、快楽で熱くなるのだ。
ゾクゾクと、全身に鳥肌が立つのを感じる。
彼女の手が下へと伸びていく。
甘い吐息が俺の顔にかかり…………もう……!
ブシュッ!!
鮮血が散った。
俺の血?
いや、彼女の喉笛に後ろから剣が突き刺さっている。
声が出ないようにしっかりと口元を押さえられて。
女性は目を見開き、押さえられた手の中でくぐもった声を出しながら、ビクンビクンと身体を跳ねさせながら崩れ落ちた。
崩れ落ちた後ろに立っていたのは《骨喰い》だった。
彼は申し訳無さそうにしながら、女性から剣を引き抜いた。
「だ、大丈夫かい?《避雷神》」
「アリゲイトさん…………い、今のは……?」
俺は荒ぶる呼吸を何とか整えながら聞いた。
未だに身体の興奮が止まらない。
「こいつは魔族で言うところのサキュバスだよ。出会った相手の一番好みのタイプに姿を模写して、相手を魅了する魔者、だよ」
これが…………サキュバス!?
道理で身体の自由が効かないと思ったら……魅了の魔法を使われてたってことか……!
何て恐ろしい……!
「あのままアリゲイトさんが来なかったら……どうなってたんですか?」
「魔力を全て吸い取られた後に、殺されてただろうね」
死……!
伝説の武器を手に入れて、新しく剣術も学んで、チートレベルの魔法を使えるようになったのに、こんな形で死ぬところだったのか……。
本当にダメダメだな俺は……!
「……そういえば、アリゲイトさんは大丈夫だったんですか?」
「サ、サキュバスが一度に魅了できるのは、1人だけだからね。僕には、別に彼女の見た目がタイプというわけではないし」
魅了するには、相手の好みのタイプに模写した上でないと不可能ってことか……。
サキュバス相手には2人以上.もしくは女性がいれば対策取れるということか。
逆に男1人だと危ないな…………。
「とりあえず、ありがとうございました。助かりました」
「間に合って良かったよ。と、とりあえず、みんなのところに戻る前に、それはどうにかした方がいいかもね」
「あ…………」
俺の下半身も野営地を作ってテントを張っていた。
※ ※ ※
ぐるりと周りを《骨喰い》と一緒に見て回った。
もしも再びサキュバスがいた場合の対策だ。
「だけど、よくあのタイミングで俺の近くにいましたね」
「ぼ、僕は結構夜目が効くんだ。君の近くに誰かがいたのは見えたからね、すぐに追いかけたんだよ」
見えたと言っても、俺と《骨喰い》の距離的には100m以上あったと思うんだが。
凹凸もあるし木々も生えてるし…………化け物だ。
「それに、この目のおかげで散々夜道で襲えたからね…………良いことづくめだよ……」
そう言ってフヘヘ……と気色の悪い笑い方をする《骨喰い》。
通り魔できることは決して良いことではないと、言っておく。
俺は通り魔容認派ではないからね。
野営地に戻ると既に準備ができていた。
だが、会敵してしまったことを《空ノ神》に伝えると、とても渋い顔をされた。
「あまりここも安全ではないということか……。もう少し離れた位置にしておけばよかったか……?」
「申し訳ありません。私の調査不足になります」
「いや、エルモアのせいじゃない。ギリギリまで近付こうとした俺の判断がまずかった」
《空ノ神》が自分の判断ミスを責めていたが、それになんの意見も出さずに従った俺らにも責任はある。
ふと、前に3代目勇者一行の魔術師、フェリス・グリゼルが『人動探知』と呼ばれる魔法を使っていたことを思い出した。
彼女オリジナルの魔法だと言っていたけど、似たような魔法を《魔女》が使えたりしないだろうか?
「ミーアさん、周囲の人を探知したりできる魔法は使えないんですか?」
「使えたら使うけど…………そんな魔法は聞いたこともないわね」
「俺の知り合いの人が前に使っていたんですよ。『人動探知』といって、魔族人間問わず探し出すことができるんです」
「そんな魔法があるのね……。もしアヤメがいたら閃いたかもしれないけど、私はあまり独自の魔法を生み出すのは得意ではないのよ」
《魔女》が少し残念そうに言った。
なるほど《創造》か。
彼女はオリジナル魔法を生み出すのを得意としているみたいだし、こういう魔法があるんだよ、という風に言ってみたら案外すぐに編み出しそうだ。
発想力が大切ということだな。
「入れ替わりで見張りをつけよう。なるべく明かりは付けずに」
結果的にここに留まることになった。
というよりも、無理矢理でもここに留まらないと《拳闘獅子》が戦いに行こうとしてしまうことが一番の理由だった。




