誕生日
――十一月十五日
朝、目を覚ますと、窓から差し込む柔らかな光が部屋を照らしていた。
「ねむ……」
ぽつりと呟くと、隣の寝台から声がした。
「おはよ、柚葉ちゃん! お誕生日おめでとう!」
誕生日……あ、今日は私の誕生日なのか。すっかり忘れていた。
というか、鈴ちゃんよく知ってるな。私、言ったっけ?
「ありがとう。よく誕生日知ってたね」
「うん。神楽くんから聞いたの。ってわけで、これ、私から」
鈴ちゃんが私に小さい箱を差し出す。
「ありがとう。開けていい?」
「うん!」
私はそっと箱を開ける。
そこにあったのは……。
「これ、耳飾り?」
「うん。この前、街に行った時に買ったの。異国で流行ってるんだって」
「へえ! 可愛いね!」
私は、手のひらに乗った耳飾りに目を落とした。
金色の細い金具の先には、小さな梅の花をかたどった飾りがついていた。
花びらは繊細な細工で形作られていて、その中心には、紅い石が一粒きらりと輝いている。
さらに、その下には紅いしずく型の飾りが揺れていた。
和風の梅の花と、異国風の華奢な金具。
その組み合わせは不思議とよく馴染んでいて、上品なのに、どこか可愛らしい。
「わあ……」
思わず声が漏れた。
「これ、ここで挟んで使うんだよ」
鈴ちゃんが金具の部分を指さして教えてくれる。
「そうなんだ! すごい!」
私は耳飾りをそっと持ち上げ、光にかざした。
紅い石が、窓から差し込む光を受けて、透き通るような色を見せた。
こんなに素敵な耳飾りをもらえるなんて、思ってもいなかった。
「本当にありがとう!」
「いえいえ。喜んでもらえてよかったぁ」
そう言って鈴ちゃんは嬉しそうに笑った。
「よかったら、つけてみない?」
「いいの? やって!」
私が鈴ちゃんに耳飾りを渡すと、鈴ちゃんはそれを持って私の横にまわった。
そして、それを私の耳につけてくれる。
「できたよ。ほら」
促されるまま鏡を見ると、私の耳元で、紅い石が揺れていた。
小さな梅の花も、揺れるしずく型の飾りも、我ながらよく似合っていると思う。
「わあ……! 可愛い!」
「でしょ? 柚葉ちゃんに似合うと思ったんだ!」
鈴ちゃんの笑顔につられて、私も笑った。
「うん! 本当にありがとう、大切にするね!」
私はもう一度、鏡に映る自分の耳元を眺めた。
今日一日、これをつけて過ごせるのが楽しみだ。
「ほら、そろそろ支度しないと遅れちゃうよ」
「あっ、そうだった!」
私は慌てて鏡から離れ、学校へ行く準備を始めた。
私は身支度を整えると、鈴ちゃんと一緒に部屋を出た。
廊下を歩きながら、ふと耳元に手を伸ばす。
指先に、小さな飾りが触れた。
「ふふっ」
思わず頬が緩む。
「柚葉ちゃん、嬉しそうだねぇ」
「だって、すっごく可愛いんだもん!」
そう答えると、鈴ちゃんは楽しそうに笑った。
「そんなに気に入ってくれたなら、選んだ甲斐があったよ!」
そんな話をしながら、私たちは教室へと向かった。
教室に入ると、何人かのクラスメイトがこちらを振り返った。
「おはよ。あれ、白石さん。その耳飾り、初めて見るね」
「本当だ。可愛い!」
「あ、これ? 鈴ちゃんからもらったの!」
私は耳元に手を添えながら答えた。
「へえ。あ、確か白石さん、今日誕生日だったっけ?」
「うん」
そう言うと、クラスメイトたちは口々に「おめでとう」と声をかけてくれた。
「ありがとう!」
思いがけずたくさんの人に祝ってもらえて、なんだかくすぐったい。
席に着いてからも、私は時々、耳元の飾りにそっと触れていた。
昼休み。
鈴ちゃんと昼食を終えた私は、教室へ戻ろうとしていた。
その時、前方に見慣れた黒髪が見えた。
「あ、蓮くん!」
声をかけると、蓮くんは足を止めてこちらを振り返った。
「柚葉か」
「うん! 今から教室?」
「ああ」
そう答えた蓮くんは、私の隣にいる鈴ちゃんにも軽く会釈した。
私たちはその場で、午後の授業のことなど、他愛ない話を少し交わした。
話していると、蓮くんの視線がふと私の耳元に向いた。
「それ、どうしたんだ?」
「あ、これ? 今朝、鈴ちゃんが誕生日プレゼントにくれたの!」
そう言って耳飾りに触れると、小さな紅い飾りが指先で揺れた。
「可愛いでしょ?」
私が少し得意げに尋ねると、蓮くんは耳飾りを一度見てから、静かに頷いた。
「ああ。似合ってる」
「えっ」
思いがけない言葉に、少しだけ返事が遅れた。
蓮くんが私の身につけているものを褒めてくれるなんて、珍しい気がする。
「……ありがとう!」
嬉しくなって笑うと、蓮くんはそれ以上何も言わず、いつものように落ち着いた表情に戻った。
そろそろ午後の授業が始まる時間だ。私たちはそれぞれの教室へ戻ろうとした。
そのとき、蓮くんが何かを思い出したように口を開いた。
「そうだ、柚葉」
「ん? どうしたの?」
「放課後、少し時間あるか?」
突然の問いかけに、私はぱちりと瞬きをした。
放課後?
今日は特に予定もないし、帰ってからやらなければならないこともなかったはずだ。
「うん、あるけど……」
「なら、図書館の四階に来てくれないか」
「図書館の四階?」
思わず聞き返した。
これまでにも、蓮くんとは用事があって何度かあの場所で待ち合わせをしたことがある。
だから、場所そのものに驚いたわけではない、けど……。
今日は何の用だろう。
わざわざ放課後に呼び出すなんて、何か相談でもあるのだろうか。
私が考え込んでいると、蓮くんは少しだけ首を傾げた。
「駄目か?」
「あっ、ううん! 大丈夫。分かった、放課後に行くね」
「頼む」
そう言って、蓮くんは小さく頷いた。
それから私たちは別れ、それぞれの教室へと戻った。
自分の席に着き、教科書を机の上に広げても、先ほどのやり取りが頭の片隅に残っていた。
図書館の四階に、放課後。
一体、何の用だろう。
まあ、今考えても仕方ないよね。本人に会えば分かるだろうし。
私は小さく首を振り、先生が来る前に授業の準備を済ませた。
午後の授業も、いつもと変わらず進んでいった。先生の話を聞き、ノートを取り、課題に取り組む。
けれど、時計を見るたび、放課後の約束を思い出してしまう。
結局、蓮くんの用件が分からないまま、最後の授業が終わった。
私は帰り支度を済ませ、約束どおり図書館へ向かった。
図書館の四階に着くと、窓際に蓮くんの姿が見えた。
「蓮くん!」
声をかけると、蓮くんはこちらを振り向いた。
「来たか」
「うん。待たせちゃった?」
「いや」
いつもなら、用件があればすぐに話し始める蓮くん。けれど、今日はなかなか口を開かなかった。
「……どうしたの?」
私が尋ねると、蓮くんは少しだけ視線を落とした。
それから、私に向き直る。
「……柚葉」
「うん?」
「誕生日、おめでとう」
昨日は投稿できず、すみませんでした!
実は少し体調を崩してしまい、明日も投稿できるか分からない状況です……。
体調が大丈夫そうなら、できる限り頑張りたいと思っています!
楽しみに待ってくださっている皆さまには申し訳ありませんが、無理のない範囲で執筆していきますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。
季節の変わり目ですので、皆さまもどうかご自愛ください!




