戸惑い
――翌日
「次は……えっと、二時間連続で移動教室か」
黒板に書かれた時間割を見て、そう呟く。
二時間分の教科書を胸の前に抱え、その上に筆箱を乗せた。
それから、鈴ちゃんのところへ向かう。
「鈴ちゃん。行こ」
「うん」
私たちは、一緒に教室を出た。
鈴ちゃんと雑談をしながら廊下を歩く。
その時。
「あっ!」
腕の中で教科書がずれ、上に乗せていた筆箱がつるりと滑り落ちた。
慌てて手を伸ばすけれど、間に合わない。
――落ちる!
そう思った瞬間、横から伸びてきた手が、筆箱を受け止めた。
「危ない。気をつけろ、柚葉」
そう言って筆箱を受け止めたのは、蓮くんだった。
呆れたような顔で、私に筆箱を差し出してくる。
「ごめん! ありがと」
筆箱を受け取り、私はほっと胸を撫で下ろした。
私の筆箱は開きやすいから、床に落ちたら鉛筆が散らばって片付けが大変になるところだった。
「ったく。ちゃんと持てよ」
「うっ……。気をつけます」
呆れたように言う蓮くんに、私は苦笑いを浮かべる。
「蓮くん、ありがとう! 助かったよ」
「別に」
そう言って、蓮くんはふいっと顔をそらした。
……あれ?
まただ。
昨日も、こんなふうに目をそらしていた気がする。
「蓮くん?」
「な、何だよ」
「え? ううん、何でもない!」
名前を呼んだだけなのに、なぜか慌てた様子の蓮くん。
やっぱり、何か変だ。
「あ、そうだ。蓮くんも次、移動教室?」
「ああ。そっちもか?」
「うん!」
そう答えると、蓮くんは私の腕の中にある教科書へと目を向け、小さく息を吐いた。
「……本当に、目が離せないな」
「えっ?」
「いや、何でもない」
蓮くんはそう言うと、歩き始めた。
「あ、ちょっ!」
呼び止めようとしたけれど、蓮くんはそのまま廊下の向こうへ歩いていってしまった。
「……行っちゃった」
ぽつりと呟くと、隣から鈴ちゃんが顔を覗き込んできた。
「柚葉ちゃんって、神楽くんと仲いいよね」
「え? そうかな?」
「うん。自然に話してるし」
鈴ちゃんの言葉に、私は少し考え込んだ。
蓮くんとは、確かに以前より話すようになったと思う。
でも、それだけだ。
そう。それだけ。
「……まあ、そうかも?」
そう答えると、鈴ちゃんは意味ありげに笑った。
「なに」
「いや? 別に。ほら、授業始まっちゃうよ!」
鈴ちゃんはそう言って、教室へと歩き出した。
「えー、ちょっと! 気になるんだけど!」
慌ててその後を追いかける。
結局、鈴ちゃんは何も教えてくれなかった。
もう。何だったんだろう?
そう思いながらも、それ以上追及することはなく、私は次の授業へと向かった。
◇◇◇
昼休み。
鈴ちゃんと一緒に食堂で昼食を食べていると、近くの席から女の子たちの話し声が聞こえてきた。
「ねえ、神楽くんって、意外と面倒見いいよね」
「分かる! この前、術式のことで質問したら、ちゃんと説明してくれたんだよね」
「えー、そうなんだ! 普段はちょっと近寄りがたい感じなのに」
その言葉に、思わず耳を傾けた。
……蓮くんの話だ。
「でも、話してみると結構優しいよね」
「うん。最初に思ってた印象と違ったな」
女の子たちは楽しそうに話している。
私は箸を動かしながら、今朝のことを思い出した。
落ちそうになった筆箱を受け止め、呆れながらも助けてくれた蓮くん。
うん。確かに、蓮くんって面倒見がいいのかも。
普段は少しぶっきらぼうだけど、意外と周りのことをよく見ている。
そういうところ、蓮くんらしいな。
思わず小さく笑みがこぼれた。
「ん? 柚葉ちゃん、どうしたの?」
鈴ちゃんに顔を覗き込まれ、私は慌てて首を振った。
「ううん、何でもない!」
そう答えた、そのとき。
「でもさ、神楽くんって、結構かっこいいよね」
「分かる! 私、ちょっと気になっちゃうかも」
その言葉に、ぴたりと箸が止まった。
……え?
「えっと、それって……」
思わず声が出かけて、慌てて口を閉じる。
何を聞こうとしてるんだろう、私。
別に、誰が誰を気になったって、私には関係ないのに。
「柚葉ちゃん?」
鈴ちゃんが不思議そうにこちらを見る。
「あっ、ううん! 何でもないよ」
私は取り繕うように笑ってみせた。
けれど、胸の奥には、なんだかすっきりしないものが残っていた。
蓮くんが優しいのは、知っている。
口ではぶっきらぼうなことを言っていても、ちゃんと話を聞いてくれるし、困っていたら助けてくれる。
でも。
ほかの子にも、そうなんだ。
当たり前のことだ。
蓮くんが誰に優しくしたって、私が何か言えるわけじゃない。
それに、誰かが蓮くんをかっこいいと思ったって、おかしなことじゃない。
気にしても仕方がない。仕方がない、けど。
私は、小さくため息をつき、黙々と箸を動かした。
読んで下さりありがとうございます!
最近、やること多すぎて……。
「やることが終わらない!」が口癖になっている今日この頃です(*´-`)




