気づかない思い ˜”*°• 神楽 蓮 side•°*”˜
――数日後 昼休み
「ごちそうさまでした」
空の食器を前に、俺は手を合わせる。
今日の昼食もおいしかった。
そんなことを思いながら、食堂の壁にかかっている時計を見上げる。
針は、十二時五十五分を指していた。
午後の授業が始まるのは十三時十五分。
つまり、あと二十分近くある。
時間があるし、柚葉の誕生日に贈る予定の霊具の設計を進めるとするか。
俺は、お盆を持ち、食堂の返却棚に向かった。
返却棚にお盆を置いた、その時。
「蓮くん! 蓮くんも食べ終わったの?」
聞き慣れた声が隣から聞こえ、顔を上げる。
そこにいたのは、手にお盆を持った柚葉だった。
「ああ。柚葉も食べ終わったところか?」
「うん。今日はお腹空いてたからタルトを取っちゃった。りんごのタルト、すごくおいしかったよ!」
そう言って、柚葉はふわっと笑った。
……かわいいな。
って、は?
思わず思考が止まってしまう。
今、俺は何を考えた?
いや、柚葉がかわいいのは……まあ、分かる。
いや、待て。
何で俺はこんなこと考えてるんだよ。
自分の考えに戸惑いながら、俺はそっと息を整えた。
「そっか。じゃあ明日食べてみよっかな」
「うん! おすすめだよ。あ、私、鈴ちゃん待たせてるから先行くね! またね!」
そう言って柚葉は食堂の扉の方へ行った。
俺はその背中を見送る。
……行くか。
軽く息を吐き、俺も食堂の扉に向かって歩き始めた。
◇◇◇
教室に戻った俺は、席につき、帳面を広げる。
机の上に広げた帳面には、柚葉に渡す霊具の設計図が描かれていた。
土台となるのは、一般的な懐中時計だ。
その文字盤に術式を組み込み、持ち主がいる場所の空を映し出す。大まかな設計はできているが、空を映し出す術式には、まだ調整が必要だった。
映し出す範囲や、空の様子をどこまで鮮明に再現できるか。細かな部分まで考えながら、慎重に術式を組み上げなければならない。
「……もう少し、工夫が必要か」
帳面に新たな書き込みをしながら、俺は小さく呟いた。
柚葉に贈るものなのだから、できる限り良いものにしたい。
そう思いながら、俺は設計図に目を落とした。
まだ完成には遠いが、少しずつ形になってきている。
……よし。今は設計に集中しよう。
そう決めたところで、午後の授業の始まりを告げる鐘が鳴った。
「チッ」
思わず軽く舌打ちをしてしまう。
鐘に怒っても、仕方がない。
結局、設計はほとんど進まなかった。もう少しでいい案が浮かびそうだったのに。
そんなことを思っても、時間は進んでいくばかりだ。
俺はもう一度ため息をつき、帳面を机の引き出しにしまった。
午後の授業は、術式の構築についてだった。
教師が黒板に描いた術式を見て、俺はその構造を追っていく。
霊力を流す経路に無駄はないか。術式を構成する文字の配置に、改善できる部分はないか。
考えるべきことは、いつもと変わらない。
けれど、ひとつの術式を読み解いている最中にも、ふと柚葉の笑顔が頭をよぎる。
……またか。
俺は一度、視線を黒板から帳面へ移した。
書き写した術式を見直し、意識を目の前の課題へ引き戻す。
今は授業中だ。余計なことを考えている場合じゃない。
そう自分に言い聞かせ、教師の説明を聞きながら、術式の構造を帳面に書き写していく。
けれど、手を動かしていても、ふとした瞬間に柚葉の笑顔が頭をよぎる。
今日、柚葉と話したのは、昼食のことくらいだ。
これまでも、あいつとは何度も話してきた。特別なことがあったわけでもない。
それなのに、どうして今日に限って、あんな何気ない笑顔が頭から離れないんだろう。
考えても、答えは出なかった。
その時。
「神楽。この術式について説明しろ」
教師の声に、俺は顔を上げた。
「はい」
黒板に目を向け、俺は説明を始める。
突然名前を呼ばれ、少しびっくりしてしまう。
別に、話を聞いていなかったわけでもないが。
でも、柚葉のことが頭に浮かぶのは止められなかった。
……おかしい。
こんなこと、今までなかったはずだ。
結局、授業が終わるまで、俺はその理由を見つけられなかった。
放課後、帰り支度を終えた俺は、鞄を手に教室を出た。
廊下を歩きながら、ふと昼休みのことを思い出す。
食堂で笑っていた柚葉。
授業中、何度も頭をよぎったあの笑顔。
……まただ。
どうして、こんなにも何度も思い出してしまうんだろう。
柚葉とは、これまでも何度も話してきた。
一緒に過ごした時間だって、少なくない。
それなのに、最近はどうにもおかしい。
気がつけば、柚葉の表情を目で追っている。
別れた後も、こうして何気ない会話を思い出してしまう。
今までだって、あいつとは普通に話してきたはずなのに。
「……なぜ?」
自分でも答えられない問いが、頭の中で繰り返される。
なぜ、俺はこんなに柚葉のことが気になる?
……そういえば、いつからだっただろう。
俺が、あいつのことをこんなにも考えるようになったのは。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
眠い……。
でも、布団に入ると眠くなくなるんですよね。
なんでだろう……。
それでは、また次回!
おやすみなさい(。-ω-)zzz




