いつもと違う朝 ˜”*°• 神楽 蓮 side•°*”˜
――翌朝
身支度を整えた俺は、寮の自室から廊下に出た。
ふと窓を見ると、雲ひとつない、晴れわたる青空が広がっていた。
空、か……。
昨日、図書館を出た後に柚葉と見た夕焼けが、瞼の裏に今でも焼きついている。
あんなにも夕焼けをしっかりと見たのは初めてかもしれない。
柚葉は、夕焼けが好きだと言っていた。
俺にとって夕焼けは、好きでも嫌いでもない、ただ一日に一回ある空という存在でしかなかった。
でも昨日は、いつもと違って見えた。
なんでだろう。わからないけど。
そんなことを思いながら男子寮の玄関の扉を開き、外に出た。
冷たい風が俺の頬を撫でる。
結構寒くなってきたな。
そんなことを思った時。
「蓮くん! おはよ」
ちょうど女子寮の玄関から出てきた柚葉が俺に手を振った。
今日は隣に猫宮はいないんだな。めずらしい。
「おはよ。一人、珍しいね。猫宮さんは?」
「鈴ちゃんは、先生に頼まれたことがあるとかで、先行ったよ」
「なるほど。今教室に行くところ? 一緒に行かない?」
俺がそう誘うと柚葉は笑って応じた。
「うん。行こっ」
俺たちは並んで教室に向かった。
他愛のない話をしながら歩いていると、A組とB組の教室の前についた。
「じゃあまたね」
「おう」
そう言って柚葉は俺に笑顔で手を振り、B組の教室に入っていった。
閉まったB組の扉に一瞬だけ目をやる。
……行くか。
俺もA組の扉を開け、中に入る。
「神楽くん! おはよ〜♡」
「おはよ!神楽くん」
俺が教室に入ると、女子たちが猫なで声をかけてきた。
毎日毎日、よく飽きないな。
俺は「おう、おはよ」と、おざなりに返しながら、自分の机にカバンを置く。
本当に、反吐が出る。
顔を合わせるたびに同じような言葉をかけてくるなっての。
気持ち悪いほどの猫なで声。媚びるような視線。
本当に人間不信になりそうだ。
……いや、もうなっているのかもしれない。
誰も彼も、俺自身ではなく、その肩書きや外見ばかりを見ている。
神楽家の人間だから。
顔がいいから。
そんな理由で近づいてくる人間には、もう慣れていた。
いや、慣れたというより、初めから期待しなくなったのかもしれない。
どうせ、俺自身を知ろうとする人間なんていない。
そう思っていた。
――柚葉と出会うまでは。
いや、少し違うか。
柚葉だって、俺のことを何もかも知っているわけじゃない。それでも、あいつは俺の家柄や立場を理由に接し方を変えたりはしなかった。
俺が何を言っても、必要以上に持ち上げることはないし、反対に、俺の言葉を恐れて遠慮することもない。
時には遠慮なく意見を言ってくるし、こちらが拍子抜けするほど自然に話しかけてくる。
……本当に、変なやつだ。
そんなことを考えていると、今朝、柚葉と交わした何気ない会話がふと頭に浮かんだ。
特別な話をしたわけじゃない。
何を話したのか、細かいことまでは覚えていないくらいだ。
それなのに、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、気づけばあっという間に教室の前まで来ていた。
俺は小さく息を吐いた。
考えたところで、答えが出るわけでもない。
柚葉とは話しやすい。ただ、それだけのことだ。
そう結論づけ、鞄から教科書を取り出した。
やがて予鈴が鳴り、教室のざわめきが少しずつ収まっていく。
担任が入ってきて朝のホームルームが始まり、そのまま一時間目の授業へと移った。
教師の説明を聞きながら、黒板に書かれた内容をノートに写す。
いつもどおりの授業。
いつもどおりの教室。
いつもどおりの一日。
特に変わったことはない。
そういえば、今日は何日だっけ。
そう思って俺は黒板の右端に書かれた今日の日付に目をやる。
『十月二十九日』
もうすぐ十月も終わり、十一月になる。
十一月といえば、柚葉の誕生日がある。
確か、十一月十五日だったはずだ。
以前、舞花さんから柚葉の生い立ちについて聞いたときに、妖力暴走の話と一緒に教えてもらった。
誕生日まで、あと十七日。
何を贈ろうか。
ふと窓の外へ目を向けた。
どうしよっかな。何が喜ばれるかな?
そこまで考えたとき、ある考えが頭をよぎった。
もし、この景色をいつでも見ることができたら。
朝の青空も、夕暮れに染まる空も。
そのとき、その場所でしか見ることのできない景色を、好きなときに眺められたら。
……それは、少し面白いかもしれない。
俺は一つの案を思いつき、思わず口元をほころばせた。
「神楽。ちゃんと聞いているか?」
不意に教師に呼ばれ、俺ははっと顔を上げた。
「ああ、すみません。聞いています」
「なら、この問題に答えてみろ」
指名された箇所に目を走らせ、問いに答える。
教師は短く頷き、再び授業を進め始めた。
……危ない。
授業に集中しなければ。
俺は気持ちを切り替え、黒板へと視線を戻した。
その後の授業も、何事もなく進んでいった。
けれど、先ほど思いついた案が、頭の片隅に残っていた。
景色を写し取り、いつでも見られるようにする。
それを霊具で実現できないだろうか。
霊具には、術式を組み込むことで、さまざまな機能を持たせることができる。
もちろん、景色を写し取るとなれば、そう簡単にはいかないだろう。
そもそも、今ある霊具で似たようなことができるのか。
それとも、一から術式を組み立てる必要があるのか。
考え始めると、確かめたいことが次々と浮かんできた。
放課後、図書館に行こう。
柚葉の誕生日まで、あと十七日。
間に合うかどうかは、まだ分からない。
それでも、せっかく思いついたのだから、試してみる価値はあるだろう。
俺は、頭の中に浮かんだ景色をもう一度思い描いた。
リアルな生活が忙しく、なかなか更新できなくてすみません!
いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!
毎日更新を目標にしているのですが、どうしても難しい日もあるので、温かく見守っていただけると嬉しいです。
これからも頑張って執筆していきますので、引き続きよろしくお願いします!




