神楽家4
昨日投稿するのをすっかり忘れてました……!
なので今日は2話投稿します!
まずは本日1話目。
それでは、どうぞ!
「とりあえず、今日はここまでだな。俺はこの後少し用事があるから、もう行く」
清隆さんはそう言い、帳面を閉じた。
書庫の襖に手をかけたところで、私たちの方を振り向く。
「そうだ。まだ時間はあるんだろう? せっかく来たのだ。少し屋敷を見て回っても構わん」
そう言い、今度こそ清隆さんは書庫を出て行った。
私たちの間に変な沈黙が落ちる。
「見て回る?」
「そうね」
私たちは書庫を出て、屋敷の中を歩き回った。
神楽家は、私の屋敷である白石家よりも少し小さいぐらいの大きさだ。
そんなことを思いながら、私は歩いている廊下を見回す。
至る所に霊具が置いてあり、書庫が多い。
いったいどのぐらいの本があるのだろうか。ぜひ蔵書数を教えていただきたい。
すごく「術者の家」という感じがする。
神楽家も白石家と同じく名家だが、屋敷の雰囲気は全く違う。
白石家は庭が大きく、とても自然豊かな感じだからな。
まあ、神楽家は白石家よりも都心部に近いところにあるからね。
私たちがぶらぶらと廊下を歩き、結構奥の方まで来たかな? という時。
「蓮様。お帰りだったんですね」
向こうから歩いてきた七十代くらいの使用人が、綺麗な礼をして言った。
「……ああ。紗良」
蓮くんが短く返す。
「お連れの方は……?」
使用人が私を見る。
「白石柚葉さんだ。学校の友人……柚葉。この人は俺の乳母、紗良だ」
「まあ、そうでしたか。失礼いたしました」
そう言って、使用人――紗良さんは私にも丁寧に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ」
私は慌てて頭を下げる。
へえ。この人が蓮くんの乳母なんだ。
……なんだか、変な感じ。
学校では普通に「蓮くん」って呼んでいるけれど、ここでは「蓮様」と呼ばれている。
改めて、ここは蓮くんの家なんだなと感じさせられた。
私がそんなことを思っていると、紗良さんは「あっ!」と言ってにっこりと笑った。
「蓮様。道場は行かれましたか?」
「いや、まだ行ってないな」
「それでしたら、行かれてはいかがでしょう?」
紗良さんがそう言うと、蓮くんは私の方を見て聞いた。
「柚葉。神楽家の道場、行くか?」
「道場?」
私は少し考える。
神楽家の道場か……。
これだけ家の中に霊具があるのだ。
もしかしたら道場にも見たことがない霊具があるかもしれない。
そう思うと、行ってみたいという気持ちが強くなる。
「行ってみたい!」
「そうか。なら行こう」
蓮くんがそう言うと、紗良さんは頷いた。
「では、ごゆっくりどうぞ」
そう言って、廊下の反対側へ歩いて行った。
「行くか」
「うん!」
私は、蓮くんについて行き、道場に向かって歩き始めた。
◇◇◇
神楽家の道場は、本邸を一旦出て、中庭を抜けた先にあった。
「わぁ……! でっかい!」
襖を開けると、道場の大きさに思わずそう呟いてしまう。
広い板張りの床。高い天井。
窓側の壁にはずらりと弓矢や刀など、武器が並べてある。
四隅に術式を刻んだ柱があり、前方には的や霊具が置いてある。
規模がすごい。
私は興奮を隠しきれず、キョロキョロと道場を見回した。
「すごい……!」
そんな私を見て、蓮くんがクスリと笑った。
「楽しそうだね。面白い? 柚葉」
「うん!」
「なら、ちょっと体動かす?」
その言葉に、思わず蓮くんを見つめてしまう。
「いいの?」
「うん。もちろん」
「ありがとう!」
私が笑ってそう言うと、蓮くんはますます口元を綻ばせた。
「やってみたいのはあるか?」
「ん〜。えっとね」
私はもう一度道場を見回す。
どれも面白そうだけど……。
「私、弓やってみたい」
「弓?」
蓮くんは不思議そうな顔をして言った。
弓は別に特別な武器というわけではないからね。
でも、私はあんまり武器を使って攻撃したことはない。
基本的に私は身一つで戦う。
「珍しいね。えっと、柚葉の身長と手の大きさだったら……。この弓がいいかな? 軽く妖力込めながらやってみて」
そう言って蓮くんに渡されたのは、青色と桃色が混ざったような色をした弓と、美しい黄色の矢だった。
配色がとても綺麗で、私の手に馴染む形をした弓だ。
触っただけでいい弓だということが分かる。
私はお礼を言い、前方にあった的に向かって矢をつがえる。
ここから的までの距離はおよそ十一間(二十メートル)ほど。
矢を射た経験は何回かしかないけど、まあ大丈夫だろう。
私はそんなことを思いながら、的を狙い、少しずつ矢に妖力を流す。
妖力を流していくにつれ、黄色い矢が白く光っていく。
そして。
……今!
私は矢を放った。
矢が風を切るヒュッという音がした。
その直後に矢が的の中心に当たるトスッという気持ちの良い音が道場に響き渡る。
「おお……」
思わず自分でも声が漏れる。
「へえ。すごい! 上手いじゃん」
蓮くんが少し驚いたように言った。
「でしょ?」
私は得意げに胸を張る。
「じゃあ、次はあれ」
蓮くんが前方に置かれた霊具を指差した。
「あれ?」
「妖魔を再現する霊具。動くから、さっきより難しいぞ」
「本当? 面白そうだね」
蓮くんが霊具に霊力を流す。
すると、道場の中央に淡い光が集まり始めた。
やがて光は一つの形を取り、妖魔を模した姿へと変わっていく。
「へえ……」
私は弓を握り直した。
「やってみる?」
「もちろん!」
さっきと同じ要領で矢を射る。
が。
「っ! それた」
放った矢は僅かに当たらず、右に逸れる。
やっぱり動くのを狙うのは難しい。
「もう一回!」
私はもう一度弓を構える。
これまでは矢を包むように妖力を流していた。
でも、それだと放つ時の微調整がしづらい。
それに、あまり威力が強くない。
威力を強める……ということは、妖力の密度を高めればいい。
今度は矢の先端に妖力を凝縮させ、放つ。
そして。
「当たった……!」
私は思わず両手を握りしめる。
そんな私を、蓮くんは驚いたような目で見つめていた。
「……今の、狙ってやったのか?」
蓮くんの声に、私は顔を上げた。
「うん。矢全体に妖力を込めるより、先端に集めた方が威力が出るかなって」
「なるほど……」
蓮くんはそう呟きながら、今の矢を興味深そうに見つめている。
私は少しだけ得意な気分になった。
妖力を自在に操ることは、私にとってはそれほど難しいことではない。
もちろん、戦闘中のように大量の妖力を扱うのとは違う。
しかし、こうして少しずつ量を調整しながら、別のものへ流し込むくらいなら、普段からやっていることだ。
「やっぱり、柚葉は妖力の扱いが上手いな」
「そう?」
「ああ。普通は、そんなにすぐ調整できないと思う」
そう言われると、なんだか嬉しくなる。
私はもう一度、前方の妖魔を模した標的へ目を向けた。
先ほど当てることができたとはいえ、まだ一度だけだ。
もう一度やってみたい。
それに、今度は、もっと綺麗に当てたい。
「もう一回やっていい?」
「もちろん」
蓮くんが頷くのを見て、私は弓を握り直した。
先ほどと同じように矢をつがえ、ゆっくりと弓を引く。
狙うのは、妖魔型の標的の胸元。
標的は一定の動きで左右に移動している。
その動きを目で追いながら、矢の先端へ妖力を集めていく。
淡い白い光が、少しずつ強くなる。
そして、標的が右側に移動した瞬間。
私は弦から指を離した。
ヒュッ。
放たれた矢は真っ直ぐに飛び、妖魔型の標的の胸元へ吸い込まれるように突き刺さった。
「……よし!」
思わず拳を握る。
今度は狙ったところに、きれいに当たった。
一度成功しただけではなく、もう一度同じようにできた。
それがなんだか嬉しくて、私は小さく笑った。
蓮くんもそんな私を見て、少しだけ口元を緩める。
「満足した?」
「うん。かなり!」
私は弓を下ろし、改めて道場を見回した。
広い空間に並べられた武器や霊具。
学園では見たことのないものばかりだ。
ここには、まだまだ知らないものがたくさんある。
もっと見てみたい。触れてみたい。
そんなことを考えていると――。
「蓮様。お食事の用意ができました」
道場の入り口から声がした。
振り向くと、先ほどの紗良さんが立っている。
「もうそんな時間か」
蓮くんが壁に掛けられた時計を見る。
私もつられて時計を見ると、思っていたより時間が経っていた。
「もう終わりなの?」
思わずそう呟くと、蓮くんが小さく笑った。
「また今度やればいいだろ」
「……それもそうね」
私は少し名残惜しく思いながら、使っていた弓を元の場所へ戻した。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
私たちは道場を後にし、紗良さんの後について本邸へ向かった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
最近、朝が少し涼しくなってきましたね。
そろそろ薄手の上着が欲しいなぁ。
それでは、また次回!




