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会議

「ふわぁ〜。よく寝たわ」


目を覚ました私は医務室のベッドの上で伸びをした。


特に痛いところも、身体のだるさもない。

これなら、もう大丈夫そうね。


そんなことを思いながら水差しから注いだ水を飲んでいると、医務室の扉がノックされる音がした。


「はい」


そう答えると、扉がそっと開き、蓮くんが入ってきた。


「おはよ。柚葉。体は大丈夫?」

「おはよう。大丈夫よ。てか本当に来たんだ」


揶揄(からか)いを含んだ声でそう聞くと、蓮くんはニヤリと笑った。


「俺は約束を違えないからな。それはそうと、黒い小箱の解析結果が出たそうだ。準備したら行くぞ」

「本当?」

「ああ。これから先生たちが職員室で会議をするのに同席できるらしい」

「じゃあ、一旦寮に戻ったらすぐ行きましょう」


私は、はやる気持ちを抑えきれず、ベッドからピョンと降りて医務室の扉に手をかけた。

そんな私の手を、蓮くんの大きな手が扉の取っ手ごと包み込む。


「待て。まだ寝起きだろ」

「もう大丈夫よ」

「昨日、妖力切れで倒れた人の台詞とは思えないな」

「……気のせいよ。ほら、行くわよ」


そう言って、私は医務室の扉を開けた。


「おい、走るなよ」

「走ってないわよ」


「今にも走り出しそうだっただろ」

「……そんなことないわ」


蓮くんとそんなやり取りをしながら、私たちは寮へ向かう廊下を並んで歩く。


昨日のことが嘘だったかのように、校内は静まり返っていた。


まだ朝早いからだろう。


廊下に差し込む朝の光を眺めながら歩いていると、昨日の出来事が頭をよぎった。

黒い小箱。

大妖の核。


そして、あの二人が言っていた「逢坂様」という名前。

一体、何者なのだろう。


そんなことを考えているうちに、私たちは女子寮の玄関にたどり着いた。


「それじゃあ俺はここで待ってるから」

「うん。ありがと」


蓮くんと別れ、私は自分の部屋に向かって歩き出す。


そっと自室の扉の鍵を開け、中に入ると、鈴ちゃんはまだ眠っていた。

学年別対抗戦中に妖魔が演習場を襲ってきた時、私は試合場にいて鈴ちゃんの近くにいなかった。

だから、ちゃんと逃げられただろうか……と少し心配していたので、無事な姿を見て安心する。


「よかった。ゆっくり休んでね。鈴ちゃん」


鈴ちゃんの茶髪を指先でサラッと撫で、蓮くんを待たせないようにと鏡の前でさっさと身支度を済ませた。



女子寮の玄関まで戻ると、蓮くんが壁にもたれながら待っていた。


「お待たせ」

「思ったより早かったな」

「身支度で蓮くんを待たせるわけにはいかないもの」

「そうか」


蓮くんは小さく笑うと、職員室へ向かって歩き始めた。


私もその隣に並ぶ。


昨日の事件について何が分かったのか。

そして、あの黒い小箱が一体何だったのか。


聞きたいことはたくさんある。

私は少し緊張しながら、職員室へ向かった。



職員室に着き、扉をノックすると九条先生が中から出てきた。


「来たか。入っていいぞ。そういや白石、体は大丈夫か?」

「はい。ありがとうございます」


そう言いながら、指し示された席に座る。

職員室はなかなか入るところではないし、何よりこんなふうに長居をしたこともない。


少し緊張してしまう。

蓮くんはそんな私を見ながら、出されたお茶を優雅に飲んでいた。

さすが蓮くんだ。



少しすると、烏丸くん、水瀬くん、水野さんが職員室に入り、他の先生たちも席についたところで会議が始まった。


「では、昨日起こった事件について、現時点で分かったことを説明する」


そう切り出した九条先生に、職員室中の目が集まる。

職員室の空気が、どこか引き締まるのを感じた。


「事件の流れは、手元の資料にある。説明はそれを見ながら聞いて欲しい」


私は机の上に置いてあった資料をめくる。

そこには、昨日の事件について詳しくまとめられていた。


「まず、あの二人が使用した霊具は、三種類あることが判明した」


その言葉に、職員室がざわつく。


霊具を三種類も……?

霊具というのは貴重で、作るのも難しい。

三種類となると……どれだけの値段がするのだろうか。こわ。


「まず一つ目。これは白石ら生徒会メンバーが探してくれたものだな」


九条先生が、資料に載っている黒い小箱の写真を指差す。


「この黒い小箱は、妖魔を集めるための霊具だった。周囲の妖気を引き寄せる術式が組み込まれていたらしい」


やっぱり。


あの箱が妖魔を集めていたんだ。

昨日、私たちが探し回った甲斐があったということね。


「そして二つ目。これは二人の制服の上着のポケットから見つかった、超小型の霊具だ」


「ポケットから?」


思わず声が漏れる。


「そうだ。これは霊力や妖力を集める働きがあることが分かった」

「……え?」


思わず聞き返してしまう。

霊力や妖力を集める働き……あの二人はなんでその働きを持つ霊具を使う必要があった?


そこまで考えたところで、昨日から引っかかっていたことを思い出す。

あれだけ強い結界を、どうしてあの二人は破ることができたのだろう?


「結界か」


自分にしか聞こえないくらいの小さな声で呟く。

集めた霊力や妖力を用いて結界を破ったとしたら?


まだ憶測の域を出ないが、調べてみる価値はあるかもしれないな。

そんなことを思っている間にも、会議は進んでいく。


「さらに調べたところ、この霊具には集めた力を別の場所へ送る術式も組み込まれていたようだ」

「別の場所って?」


水瀬くんが尋ねる。


「地下だ」


その一言に、私は息を呑んだ。


地下。


そこにあったのは――大妖の核。


「集められた力が地下へ送られていたことは確認できている。ただ、それが大妖の核を動かすために使われていたのかまでは、まだ断定できない」


九条先生は一度言葉を切る。


「だが、二人が核を持ち出そうとしていたことを考えれば、その可能性は高いだろう」


なるほど。


「じゃあ、三つ目は?」


烏丸くんが尋ねる。


「昨日、二人が戦闘で使用していた霊具だ。こちらは攻撃や術の補助を目的としたものだったらしい。今説明した二つとは、また別のものだ」


三種類。


妖魔を集めるもの。

霊力や妖力を集めるもの。

そして、戦闘に使うもの。


昨日の事件の裏で、これだけの霊具が使われていたなんて。


「それで、あの二人については何か分かったんですか?」


水野さんが尋ねる。

九条先生は少しだけ表情を曇らせた。


「それが、まだ分かっていない」


職員室に、静かな沈黙が落ちる。


「二人とも、こちらの質問にはほとんど答えていないそうだ。ただ……誰かの指示を受けて動いていたことは間違いないようだ」


脳裏に、昨日の二人の言葉が蘇る。


――逢坂様。


「……逢坂様」


私がその名前を呟くと、九条先生は静かに頷いた。


「その人物についても、現在調査中だ。以上。分かり次第また追って連絡する。解散!」


昨日の事件で分かったことは多い。

けれど、まだ分からないことも多かった。


少し消化不良でモヤモヤする気持ちを抱えたまま、私たちは職員室を出た。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

最近、朝は涼しいのに昼はまだ暑くて、服装に困っています。

もう少し秋らしくなってほしい……!

それでは、また次回!

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