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決着

女が手をかざす。

次の瞬間、私の足元にいくつもの黒い影が走った。


「っ!」


私はとっさに横へ飛ぶ。

直後、さっきまで私がいた場所を、黒い刃のようなものが突き抜けた。


「危な」

「お褒めいただき光栄よぉ」


いや、褒めてはいないのだが。


私は女を睨みながら、手のひらに妖力を集める。

そのまま狐火を生み出し、女へ向かって放った。


「そんな単純な攻撃、当たると思ってるの?」


女は身体をひねり、狐火をかわす。

炎はそのまま壁へぶつかり、地下室を淡く照らした。


「……なるほど」


さっきまで核に集中していたから気づかなかった。


この女――思っていたより、動きが速い。


「よそ見してる暇があるのか?」

「……っ!」


背後から聞こえた声に、私はとっさに振り向いた。


男が蓮くんへ向かって腕を振り下ろしている。


けれど。


「動きが遅い。お前はナマケモノか? まあ、ナマケモノの方が断然可愛いがな」


蓮くんは男の攻撃を軽々とかわし、懐へ入り込む。

そのまま鳩尾(みぞおち)へ足を振り上げた。


「ぐっ……!」


男が苦しそうにうめく。

蓮くんは私と目が合うと、ふわっと笑って親指を立てた。


「柚葉。そっちは任せた」

「ええ! 任せて」


私は再び女へ向き直る。

手のひらに、先ほどよりも多くの妖力を集める。


「今度はこれよ!」


狐火を一斉に放つ。


女はそれを次々とかわしていく。


私は女の横を通り過ぎた狐火の軌道を変えた。


「なっ!」


背後から迫った狐火に、女が慌てて身を逸らす。


「逃がさない!」


私はさらに狐火を操る。

正面、右、そして背後。

逃げ道を塞ぐように狐火を動かしていく。


「こんなもの……!」


女が霊具に霊力を注ぐ。

黒い影が伸び、狐火を次々と打ち消していった。


「ふふっ。少しは楽しませてくれるじゃない」


女は余裕そうに笑う。


「でも、そんな程度じゃ私には勝てないわよぉ」

「そう」


やっぱり、この女は強い。

そう思った瞬間、視界の端に大妖の核が映った。


「……っ」


私は思わず、核へ目を向けた。


核の中を、淡い光が流れている。

それはまるで、血管の中を流れる血液のようだった。


「……何?」


私は目を凝らした。

そのとき、女が霊具に霊力を注いだ。


すると、核の中を流れていた淡い光の向きが変わった。


「……やっぱり」


女が霊具を使うたび、核の中を流れる力が動いている。


「あなた……核の中の力を動かしてるのね」

「……!」


女の笑みが消えた。


「だったら何だっていうの?」

「分かったわ」


私は胸の奥へ意識を向ける。

さっき、自分の妖力が核へ引っ張られていたときに感じた、あの流れ。

今なら分かる。


「あなたは直接核を動かしているんじゃない。核の中の力を動かして、核を動かそうとしているんでしょう?」

「……っ」


女の表情が強張る。

図星だ。


それなら――この状況を変えられる。


「だったら、その流れを変えればいい!」


私は手のひらに妖力を集める。


「そんなこと、させると思う!?」


女が霊具を掲げる。


――ドクンッ!


大妖の核が激しく明滅した。


強い力が私の妖力へぶつかってくる。


「ぐっ……!」


私は歯を食いしばる。

それでも、妖力を離さない。


大丈夫。見える。


淡い光の線が、核の中を流れている。

私はその流れへ、自分の妖力を伸ばした。


「……そこ!」


光の流れに触れた瞬間、強烈な抵抗が返ってくる。


「ぐっ……!」


それでも私は、膝をつきそうになるのを堪えながら妖力を練り上げる。


「私の妖力は……私の意思で動かせる!」


私は光の流れを押し返した。


――ドクンッ!


またしても核が大きく明滅する。

そして、核の中を流れていた力が、少しずつ別の方向へ逸れていく。


「なっ……!?」


女が目を見開く。


「そんな……!」


私はそのまま、流れを押し続ける。


「この核は、絶対にあなたたちには渡さない!」

「やめなさいっ!」


女がさらに霊力を注ぎ込む。

けれど、核の中を流れる力は、もう女の思いどおりには動かない。


「……そんな」


女の顔から、初めて余裕が消えた。

私はさらに妖力を込める。


「もう、終わりよ!」


核の中を流れる力が大きく逸れる。

それに合わせるように、女が霊具から伸ばしていた 黒い影も、ふっと消えた。


「きゃっ……!」


女がよろめいた。

その隙を逃さず、私は一気に距離を詰める。


「はああっ!」


妖力を込めた手を勢いよく振り抜く。


「――っ!」


女の身体が吹き飛び、床へ転がった。

……気を失ったのだろう。


「はぁ……はぁ……」


私は荒い息を吐きながら、核を見る。

淡い光は、もう動いていない。


「……終わった」


そう呟いた瞬間。


「柚葉!」


蓮くんの声が響いた。

振り向くと、男を押さえ込んだ蓮くんがこちらを見ていた。


あちらも勝敗がついたようだ。


「大丈夫か?」

「ええ……大丈――」


言葉が止まる。

胸の奥が、ズキリと痛んだ。


「……っ」


足に力が入らない。

ここまで、妖力を使いすぎたからだろう。


でも、戦いは終わった。


「……よかった」


安心した瞬間、視界がぐらりと揺れる。


「柚葉? おい、柚葉!」


焦ったように叫ぶ蓮くんの声が、遠く聞こえた。


そして私は、そのまま意識を手放した。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

最近、夜になると急に眠くなるのに、寝る時間になるとなぜか眠くなくなる現象に困っています。

なんでだろう……。

それでは、また次回!

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