地下決戦4
「どうやら……形勢逆転みたいね」
女は何も答えなかった。
途端に静かになった地下室に、ゴォーという風の音が響く。
しかし、それはほんの一瞬だった。
女は、再び口元を吊り上げた。
「形勢逆転? そんなわけないじゃない。大妖の核に妖力を吸われるのを阻止できたってだけでしょ?」
「どういう、意味?」
私がそう食い気味に聞くと、女はますます意地悪な笑みを浮かべた。
「あなたの妖力が吸えなくなったからって、何か勘違いしてない?」
「……何を?」
「私たちの目的は、あなたの妖力を全部奪うことじゃないもの」
その言葉に、私は疑問を覚えた。
女は今、『妖力を全部奪うことが目的ではない』と言った。
それなら、女の目的は……?
私がそう考え込んでいると、女は大妖の核に視線を向け、呟いた。
「……まあ、少し予定は狂ったけれど」
その瞬間。
――ドクンッ
大妖の核が大きく明滅した。
「……っ」
私は思わず息を呑む。
さっきまでとは違う。
核から感じ取れる力の流れが、明らかに変わっていた。
さっきまでは、私の妖力が核へ向かって流れていた。
でも今は違う。
核の中を流れる力が、別の方向へ動いている。
私には、それが淡い光の線となって見えていた。
「……何? なんで?」
私は目を凝らす。
「柚葉?」
「待って……」
私は核から目を離せない。
今なら分かる。
妖力の流れが、前よりずっとはっきり見える。
「蓮、くん……分かる?」
「ああ。はっきりとは分からないが、なんとなく大妖の核に流れる力の向きが変わった気がする」
さすが蓮くんだ。
私のように、力の流れが光の線としてはっきり見えているわけではないみたいだが、それでも何か気づいているみたいだ。
私たちが頷き合っていると、女は、はぁ……と、ため息をついた。
「本当に厄介ねぇ」
女はそう言って、私を睨んだ。
「まさかこうなるなんて思ってなかったわ」
「……どういうこと?」
「予定では、もっと簡単に核を動かせるはずだったのよ」
核を、動かす?
それってどういうこと?
なぜ、なんのために?
私の脳内でまたしても疑問が渦を巻く。
答えてくれるかは分からない。
それでも私は女に尋ねた。
「核を動かして、何をするつもりなの?」
女は一瞬黙ったあと、ふふっと笑った。
「知りたい?」
「それはもちろん。この流れで『知りたくない』っていう人はいないと思うわ」
「それもそうね。いいわ。教えてあげる。……私たちの目的はね、この核を、ここから持ち出すことよ」
「……!」
「この学校の地下に封じられている限り、私たちは何もできないもの。でも、これさえ手に入れば……」
女の目が、大妖の核へ向けられる。
「逢坂様の計画は、ようやく次の段階へ進むの」
「じゃあ、私をここへ呼んだのは?」
浮かんだ疑問を食い気味に女にぶつける。
「決まってるじゃない」
女の視線が、私へ向く。
「あなたの妖力が必要だったのよ」
「……私の?」
「ええ。九尾であるあなたの妖力を使えば、この核を動かせると思っていたの。でも、まさか自分の妖力そのものを操作して、核との繋がりを切るなんてね。想定が甘かったわ」
女は少し悔しそうに言った。
なるほど。
私がここへ呼ばれた理由も、ようやく分かった。
でも。
私は一歩前へ出た。
女がこちらを見た。
「ふふっ。だから、あなたが邪魔だって言ってるの。あなたはもう用済みなのよ」
「そうだね。だったら――」
私は妖力を手のひらに集める。
「尚更この核は絶対に渡さない!」
「……そう」
女は静かに笑った。
「だったら、力ずくで奪うしかないわね」
「望むところよ」
私が妖力をさらに練り上げる。
隣では、蓮くんも霊力を高めていた。
「柚葉、無理はするな」
「分かってる。でも――」
私は大妖の核を見る。
「あれだけは絶対に渡せない。……いや、渡してはいけない。そんな気がする」
私が言った瞬間、女が手を振り下ろした。
「行きなさい!」
男が一気にこちらへ駆けてくる。
本当に、この女は男を自分の駒のように使っている。
ぜひとも関係性を聞いてみたいところだ。
そんなことを思いながら、私は蓮くんに声をかける。
「蓮くん!」
「任せろ!」
蓮くんが私の前へ出る。
次の瞬間、蓮くんが生み出した氷の盾が、男の攻撃を受け止めた。
その隙に、私は女へ向かって走った。
「あなたの相手は私よ!」
「ふふっ、そう来なくちゃねぇ!」
地下室に、妖力と霊力がぶつかり合う音が響いた。
この核を守るために――私は戦う。
最近、日が沈むのが早くなってきましたね〜。
少し前まではこの時間でもまだ明るかったのに、気づいたら外が暗くなっています。
秋が近づいてきたんだなぁ……と、しみじみ。
私は秋が一番好きです(*´∀`)♪




