地下決戦2
「柚葉?」
隣にいた蓮くんが、怪訝そうに私を見る。
「……蓮くんは、何か感じない?」
「何かって?」
「胸の奥から、何かが引っ張られるような感じ」
そう聞くと、蓮くんは少し考えるように黙った。
「いや……俺は何も感じない」
「……そう」
私はもう一度、大妖の核を見る。
さっきから、私が妖力を使うたびに明滅している。
それに、胸の奥から何かを引き抜かれるような感覚もある。
でも、蓮くんには何も起きていない。
……ということは。
「もしかして……この核が吸い取ってるのは、私の妖力?」
「妖力?」
蓮くんが大妖の核へ視線を向ける。
その瞬間、女がくすりと笑った。
「あらぁ。ようやく気づいたのね」
「……知ってるの?」
私が睨みつけると、女は楽しそうに笑みを深めた。
「もちろん♡」
女は大妖の核を見つめる。
「あの核が求めているのは、ただの妖力じゃないもの」
「……どういう意味?」
「あなたみたいな、特別な妖力よ」
「私みたいな……?」
「ええ」
女は私の九本の尻尾にチラリと目をやる。
「だってあなた――」
そこで女は、一度言葉を切り、ニヤリと笑った。
「九尾の狐なんでしょう?」
九尾の狐なんでしょう?
確かにそうだ。
しかしそれがなんだというのだ。
というか九尾なのは見ればわかるだろう。
今は妖力を解放しているから、ふわふわの尻尾が九本見えるはずだ。
「だから、何?」
「あ、もしかしてご存知ないのかしら。なぜ妖狐の一族があやかしの中で最も力を持っているとされているのか」
妖狐の一族があやかしで最強とされる由縁か……。
聞いたことがないな。
お母様なら知っているかもしれないけど。
「知らないわ。どうして?」
「あら。あなた確か、妖狐の次期当主だったかしら? それがこんなのでいいのかしらねぇ〜。ま、あなたが当主を務めるなんてこと、なくなると思うけどね」
なくなるってどういうこと?
もしかしてそれが、こいつらの動機?
私は、苛つく心を抑え、冷静を装って口を開く。
「出し惜しみしないでさっさと話してくれる? 時間は有限なの」
「はいはい。うるさいから答えてあげるわぁ」
女は、どこか楽しそうに笑った。
「妖狐の一部にはね、他の妖狐にはない特別な力を持って生まれる者がいるの」
「特別な力……?」
「ええ。自分の妖力を、自在に練り上げて、変化させ、操る力よ」
「……それが?」
「妖狐は妖力を蓄えることで、少しずつ尾が増えていくでしょう?」
「ええ」
「だから、八尾までは、努力次第で辿り着ける。けれど――九尾だけは違う」
女は私の九本の尻尾を見つめる。
「どれだけ妖力を蓄えても、その力を持っていなければ、九尾にはなれないのよ」
「……」
「つまり、九尾になれるのは、妖狐の中でもほんの一部だけ」
女は口元を吊り上げた。
「その力こそが、妖狐の一族があやかしの中でも最強とされる理由なのよ。お分かりかしら?」
その話を聞き、私は呆然と、自分の九本の尻尾を見つめる。
知らなかった。そんな話。
確かに、妖狐の会合とかを見ていると、九尾は一握りしかいない。
でもそれは、九尾が一番強いから、数が少ないだけだと思っていた。
でも、違った。
私が当たり前のように使っていた妖力も、慣れ親しんだ九本の尻尾も、努力すれば誰にでも手に入れられるものではなかったのだ。
私が妖力を自在に練り上げ、操ることができるのも、自分の力だと思っていた。
確かに、妖力を自在に操ることは、昔から当たり前のようにできていた。
だからこそ、それを特別なことだなんて思ったことはなかった。
ただ、努力すれば身につくものだと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
それは生まれ持った才によるものだったのだ。
あまりの衝撃に言葉が出ない私に追い打ちをかけるように女が喋り出す。
「だから、妖力が多くて、それに加え特別な力を持つ白石柚葉。この核を目覚めさせるには、あなたの力が必要なの」
それを聞き、私の手が再び震えだす。
私はそれを必死に止めるよう両手を強く握り、震える声で聞く。
「……だから、私を狙った、の?」
「ええ。正確には――あなたの妖力を、この核に吸わせるためよ。だから、あなたを狙うことにしたの。初めはあなたが妖力を制限していたから、気づかなかった。でも、どうにも他の妖狐とは違う妖力を感じてね。そこからあなたの家系を追ってみたら、あらびっくり! あなたがあの妖狐の一族の当主、白石華蓮の娘だっていうじゃない。それに、『白石』って苗字は珍しくないから、そこでは気づかなかったわぁ」
その言葉に、蓮くんが素っ頓狂な声で「俺?」と言った。
いきなり自分の名前が出てきて驚いたようだった。
すると女は、蓮くんを見つめながら、くすくすと笑った。
「そうよぉ。まさか神楽家のお方が、白石柚葉と一緒にいるなんて思わなかったもの」
「……それが、何だっていうんだ?」
蓮くんが怪訝そうに眉を寄せる。
すると女は、少しだけ目を細めた。
「だって――」
その視線が、私から蓮くんへと移る。
「あなたがいなければ、もっと簡単だったのに」
「……どういう意味?」
私が問いかけると、女は答える代わりに笑った。
その笑顔を見て、背筋に嫌なものが走る。
……なんだろう。
この女、何かがおかしい。
私を見ているときとは違う。
蓮くんを見る目が、まるで――。
「ふふっ。まあいいわ」
女は楽しそうに笑う。
「あなたがここにいるなら、それはそれで都合がいいもの」
「……?」
何を言っているのか分からない。
けれど、嫌な予感だけが胸の奥に残った。
そして再び、大妖の核が、
――ドクン。
大きく明滅した。
今日、気になっていた映画を見てきました!
『白鳥とコウモリ』という映画なんですけど、知っていますか?
めちゃくちゃ面白かったです。
映画館で見ると、やっぱり迫力が違いますね〜。
また何か面白そうな映画があったら見に行きたいです!




