地下決戦
「こいつらは最初から――私たちをここに、誘い込むつもりだった?」
そう仮説を立てると、妖魔を誘い込むための黒い小箱の意義もわかる。
最初私たちはこの地下や、資料庫の警備員や、学園内の人の目を演習場に集めるだけだと思っていた。
でもそうじゃない。
あの小箱の本当の役割は――何かあると読んだ私たちを、ここへ誘き寄せるためだったんだ!
つまり、私たちはまんまと相手の罠に嵌められてしまったということだ。
まずい。このままだとまたこいつらの手のひらの上に転がされるだけだ。
思ったよりも状況が悪い。
急に、恐怖を覚えた。
そんな私の手を、蓮くんはそっと握った。
「大丈夫? 柚葉。震えてる」
そう言われて、繋がれた自分の手に目を落とす。
確かに、小刻みに震えていた。
「ほんとだ……なんで……」
「大丈夫。落ち着いて、柚葉。俺もいるから」
そう蓮くんに諭すように言われ、私は少しだけ安心した。
だが、それでも胸の奥にある不安は消えない。
それでも、私たちは地上にいる仲間のためにここでこいつらを食い止めなければならない。
なんとしてでも。
たとえ、相手の意のままに転がされていようとも。
私は屈しない。
蓮くんが隣にいてくれるから。
今も地上で戦ってくれている仲間がいるから。
私はそう心の中で誓い、蓮くんにそっと「ありがと。もう大丈夫だから」と囁く。
そして、男女の方をキッと力を入れて睨んだ。
そんな私を女は一瞥し、邪悪な笑みを浮かべながら言う。
「あらら? もう怖くないのかしらぁ? さっきまでみっともなく震えてたのに」
女の挑発するような言葉に、苛立ちを覚えるが、なんとか理性で封じ込める。
ここで挑発に乗ってしまったら相手の思うつぼだ。
私はあえて何も答えず、妖力を手のひらに集めた。
「あ、何も言わない感じ? まあいいけどさ〜」
女はわざとらしく頬を膨らませる。
私は無視を決め込み、妖力をさらに強く、丁寧に練り上げる。
「……もう話す気はないみたいね」
女が笑う。
「だったら――」
女の目が、すっと細くなった。
「こちらから行くわぁ♡」
そう女が言うと、男が心得たと言わんばかりに霊具に霊力を込める。
なんか男が女に顎で使われている気がするのは気のせいだろうか。
女の方が立場が上なのかなぁ……とどうでもいいことを考えながら、飛んできた黒い光を交わして避ける。
すると、その光が地下室の壁にぶつかり、シューと音を立てて煙を出し、消えた。
光というよりは火みたいだ。
それに、先ほどよりも威力が出てきた気がする。
ただ、なんとなく男が込める霊力に揺らぎを感じる。
焦り? いや、怒りか?
どちらでもいい。
ただ、相手がこの展開を快く思っていないことだけは分かった。
相手の思い通りに事が運んでいるわけではないと分かり、少しだけホッとする。
というかさっきから相手ばっかり攻撃をしてくる気がするのは気のせいだろうか。
そろそろ反撃の出番が欲しいところだ。
私はそっと隣に立つ蓮くんを軽く見上げる。
やっぱり背が高いなぁ。
「蓮くん」
「ああ。そろそろやろうか。俺もこの展開飽きてきたしな」
そう言って蓮くんは制服から霊符を取り出し、構える。
そのまま術を展開するのかと思ったが、蓮くんは霊符を構えたまま顔だけこちらを向いた。
「柚葉。多分このまま行くとチーム戦なくなるじゃん?」
「そうなるだろうね」
「でもせっかくあんなに練習したのに、こいつらのせいで出番なしって泣くじゃん」
そう言って蓮くんは、ニヤッと笑う。
なるほど、そういうことか。
私も、あんなに蓮くんと練習した合体技を使えないのは悲しい。
「いきますか。合体技!」
「おう」
私は狐火を出し、浮かせる。
そこに、蓮くんが風を生み出し、巨大な火柱が竜巻のようにとぐろを巻く。
流石に室内なので少し威力は落としている。
それでも、巨大な炎の渦が地下室を駆け抜けるには十分な威力だった。
「――っ!」
女と男は、とっさに後ろへ飛び退く。
炎の渦が二人のいた場所を飲み込み、壁を照らした。
「やった!」
思わず声が漏れる。
しかし――。
「……ふふっ」
炎の向こうから、女の笑い声が聞こえた。
「なかなかやるじゃない♡」
……効かなかったか?
そう思いながらじっと炎を見つめる。
そして、炎が徐々に消えていった。
その向こうに、二人の姿が見えた。
ところどころ服が焼けているが、目立った外傷は見当たらない。
二人が立っている場所には、黒い術式が浮かんでいた。
「……何、それ」
私は思わずそう呟いてしまう。
女は楽しそうに口を歪めた。
「これ? あなたたちの攻撃を防いだだけよぉ」
これでも、効かないのか……。
やはり厄介な相手だ。
はっきり言ってめんどくさい。
私は、はぁ……とため息をつきながら炎を消す。
その瞬間。
――ドクン。
地下室に低い音が響きわたる。
それと一緒にまたしても胸の奥から何かが引っ張り出されるような感覚が私を襲った。
音のする方に目を向けると、大妖の核が大きく明滅していた。
「また……」
先ほどから、私たちが何か行動を起こすたびに、胸の奥から何かが引っ張り出されるような感覚がある。
そして、それに合わせるように大妖の核が明滅している。
もしかして――私たちが何かをするたびに、核が反応している?
でも、どうして?
私が妖力を使ったから?
それとも、蓮くんが霊力を使ったから?
考えている間にも、核がまた大きく明滅する。
――ドクン。
「っ……!」
まただ。
胸の奥から、何かが引き抜かれるような気持ちの悪い感覚。
まるで、私たちの力を吸い取っているみたいに――。
「柚葉?」
隣にいた蓮くんが、怪訝そうに私を見る。
私は大妖の核から目を離せなかった。
これ……一体、何が起きてるの?
読んでくださりありがとうございました!
ついに地下での決闘もクライマックスですね( ^ω^ )
私はこれを書きながら、地下で火を使って一酸化炭素中毒にならないのか……?
とずっと思ってました(笑)
換気はしようね。




