暗躍
階段を降りきった先には、薄暗い石造りの通路が続いていた。
地下とは思えないほど広い。
けれど、そこには妙な静けさがあった。
足音すら吸い込まれてしまいそうな、不気味な静けさ。
私たちは周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩を進める。
すると――。
「……誰かいる」
あやかしの、人よりも強い聴力が人の声を拾った。
その声は、今歩いている通路の先にある、重そうな鉄製の扉の中から聞こえてきた。
その扉は少し開いており、中から微弱だが、灯りが漏れている。
「蓮くん」
「ああ、そっと聞き耳を立てよう」
私たちはできる限り声の大きさを落とし、物音を立てないようそっと扉に近寄る。
扉に近づくにつれ、話し声がより鮮明に聞こえるようになった。
私は、開いた扉の片方の影に身を潜め、耳を押し当てる。
蓮くんはその反対側の扉の影に、私と同じように身を潜め、扉に耳を当てた。
「これが……大妖の核か」
そう言う男の声が聞こえる。
だいようのかく?
何のことだろうか。
頭の中に疑問符を何個も浮かべながら、少しでも情報を得ようと私はより一層集中して話し声を聞く。
続いて女の声が聞こえてくる。
「ええ。これさえ手に入れば、逢坂様の計画は――」
『逢坂様の計画』――。
その『逢坂様』とやらがどこの誰かは知らないが、この妖魔襲来や黒い小箱は十中八九そいつの計画だろう。
私はその後も聞き耳を立てるが、防音効果のある結界でも張られているのか、何を喋っているのかを聞き取ることはできなかった。
私は、いつ踏み込む? と、空いた扉の反対側にいる蓮くんに視線を投げかける。
蓮くんは私の視線に気づくと、こちらを一瞥した。
そして、人差し指を唇に当てる。
――まだだ。
そういう意味だろう。
私は小さく頷いた。
もう一度、扉の向こうへ意識を集中させる。
すると、先ほどよりもはっきりと男の声が聞こえてきた。
「……もうすぐだ。結界さえ完全に消えれば――」
「ふふっ。これでようやく、あの方も……そして憎たらしいあいつも……!」
やはり何かを企んでいる。
私は握った拳に力を込めた。
相手が何人いるのかも分からない。
どれほどの力を持っているのかも分からない。
それでも、ここで引き返すという選択肢は取りたくない。
演習場では、今も仲間たちが妖魔と戦っている。
その混乱を利用して、この地下へ侵入した者たちがいる。
なら、私たちがここで止める。
それしかない。
私はゆっくりと息を吸った。
怖くない、と言えば嘘になる。
それでも――。
そっと隣に視線を移す。
そこには、静かに扉を見つめる蓮くんがいる。
不思議と、それで少しだけ心が落ち着いた。
一人じゃない。
それだけで、十分だ。
だから今は――待つ。
相手の動きを見極めながら、少しでも多くの情報を集めるんだ。
そう思った私は、再び扉の向こうへ意識を集中させた。
そのとき、ふと別の疑問が頭をよぎった。
それは、さっきからずっと気になっていること。
地下室への入り口――つまり、資料庫の中にあったあの扉の前に張ってあったあの結界。
あれは、すごく強固で、ものすごい量の妖力を込めて作ってあった。
それを壊すには、込められた妖力以上の力が必要になる。
少なくとも、あやかしのトップである私のお母様くらいの力はないといけない。
というか、お母様の妖力をもっても破れるか怪しいぐらいだ。
しかし、部屋の中にいる2人の霊力は、その力には遠く及ばない。
果たしてどうやってあの結界を破ったのか。
私はその疑問を頭の中で何度も繰り返す。
もしかすると、あの二人にはまだ何か隠している力があるのかもしれない。
そう考えると、ますます迂闊には動けない。
私は隣にいる蓮くんへ、ちらりと視線を向けた。
蓮くんもまた、扉の向こうを警戒しながら、じっと耳を澄ませている。
どうやら、まだ動くつもりはないらしい。
私も再び扉へ視線を戻した。
――そして、しばらくして。
蓮くんが、もう一度こちらを見た。
今度は、ほんの少しだけ頷く。
――行くぞ。
私も静かに頷き返した。
私たちは同時に、少し開いている扉の縁に手をかける。
そして――。
バンッ!!
勢いよく扉を開け放った。
「なっ!?」
「誰だ!」
扉の向こうにいた男女が、驚いたようにこちらを振り返る。
「……!」
私はすぐさま身構えた。
部屋の中には、私と蓮くん以外に二人。
どちらもよく知っている顔ではない。
……否。
正確には、顔を知っている。
学園で何度か見かけたことはある。
でも、話したことはない。
そんな程度の認識だ。
「お前たち……何をしている?」
蓮くんが鋭い声で問いかける。
二人は答えず、ただこちらを睨みつけていた。
私は二人の足元へ視線を落とす。
そこには、見覚えのある黒い霊具が置かれていた。
「……それ」
胸の奥がざわつく。
昨夜、私たちが探し出した黒い小箱。
まさか――。
「あなたたちが、あれを……?」
私がそう問いかけると、女が口元を吊り上げた。
「あら。思ったより早かったわねぇ」
「……っ!」
その一言で、私の中にあった疑念が一気に形を持った。
間違いない。
この二人は今回の事件に関係している。
でも――。
誰かに命令されている?
さっき聞こえた「逢坂様」という名前。
そして、目の前にある黒い霊具。
まだ分からないことだらけだ。
だからこそ、ここで逃がすわけにはいかない。
「……全部、話してもらうから」
私は妖力を手のひらへ集め、男女に向かってかざした。
今日からシルバーウィークですね!
皆様は何か予定ありますか?
私は特に予定がないので、のんびり過ごそうかな〜と思ってます(笑)
せっかくのお休みなので、皆様もゆっくり休んでくださいね!
では、また次回ー!
adiós!




