学年別対抗戦4
「試合開始!」
審判の合図と同時に、蓮くんの手から霊符がシュッと放たれ、私の周りを取り囲むように空中に展開された。
やっぱり蓮くんは容赦がない。
本当なら、今ある妖力を全力で使って対抗したいところだが、私の頭の片隅には、『黒い小箱』のこと、昼間感じた違和感、そしてこの後のチーム戦のことが引っかかっている。
ここで妖力を全て使うわけにはいかない。
大技は封印……!
最小限の妖力で蓮くんが展開した術の隙をつきたいという腹積もりがある。それを見透かされてるのかな。
その状況を受け、私は最小限の妖力を用いて足元に風を纏わせ、空中から襲いくる術を紙一重でかわしていく。
「柚葉。 お互い力の余力は残しておきたいところだな」
私の動きを見て、蓮くんが確信したように言う。
同じ生徒会メンバーとしてあの小箱の存在を知る彼もまた、万が一に備えて霊力を温存しておきたいはず。私と考えは同じに違いない。
だからこそ、派手な大技ではなく、技の精度が勝敗に結びついてくるはずだ。
「もちろん! 省エネで蓮くんに勝ってみせるんだから! 蓮くんこそ、霊力を使いすぎないようにね?」
「言われなくても。 ――だが、柚葉には負けたくないんだよな」
そう蓮くんは言い、流れるような手つきで両手の指を交差させ、一瞬で複雑な印を結んだ。
そして、霊符の陣から広範囲の氷術を打ち込んできた。
氷で足場を奪われ、思うように動くことができない。
だが、焦ってはいけない。そうなったら蓮くんの思うツボだ。
ふぅ。一度落ち着こう。
広範囲に影響を及ぼす術は、効率的に展開するため、大体の場合において「発動の起点」というものが存在する。
つまり、その起点となる場所を壊せばこの術は崩壊する。
私はその発動の起点となる場所を見つけるべく、
蓮くんの展開した術を解析していく。
もちろん解析をしている間を待ってくれるほど
対戦相手になった蓮くんは優しくない。
四方八方からくる攻撃を防ぎながら、
足元にある氷に込められた霊力を辿っていく。
昨夜、黒い小箱を探した時と同じ要領だ。
ある意味あの作業は今日の訓練になったのかもしれない。
犯人に感謝するつもりは毛頭ないが。
そんなことを思いながら、丁寧に霊力をたどる。
そして……。
「見つけた」
蓮くんの足元に、氷に込められた全ての霊力が集まっている。
違う場所に少しだけ霊力が集まっている場所があり、騙されそうになったがなんとか発動の起点を見つけることができた。
「よし、壊そう!」
そう呟き、発動の起点に向かって小さな狐火を放つ。
パチンと弾けるような気持ちのいい音が演習場に響く。
次の瞬間、試合上を覆いかけていた氷が一瞬で砕け散った。
「発動の起点を探してピンポイントで攻めたか。さすが柚葉。合理的だな」
「ふふん。でしょ〜」
足場を取り戻すと同時、無詠唱で風を足元に滑らせ、一瞬で距離を詰め、彼の胸元数ミリ手前で風の刃をぴたりと停止させた。
風圧で蓮くんの髪が大きく揺れる。
「そこまで! 勝者、白石柚葉! よって、1年生代表は白石柚葉に決定する!」
「参った。完璧に手持ちを読まれたよ」
蓮くんは降参を示すように両手を軽く挙げ、参ったなと苦笑した。
風の刃を霧散させると、会場全体から割れんばかりの歓声と拍手が湧き起こる。
「……ハァ、ハァ……! 蓮くんが本気で崩しにかかってくるから、冷や汗出たよ……!」
「ふっ、だが無事に省エネで勝ち切ったな。おめでとう、柚葉」
私たちはパンッと音を立てて互いに手を合わせ、試合場を後にした。
◇◇◇
1年生の部が終了し、大会は2年生、3年生の学年別決勝戦へと移っていった。
私と蓮くんは観覧席へ一緒に戻る途中で立ち止まり、そこでその試合を見守ることにした。
「次は2年生の決勝だね。……わぁ、やっぱりスケールが違う……!」
試合開始の合図と同時に、演習場全体が激しい霊力の波動で大きく揺れる。
2年生代表の先輩たちが繰り出す術は、私たちの代とは比べものにならないほど膨大で、練度も圧倒的だった。
広範囲を焼き尽くす灼熱の炎と、それを軽々と防ぎきる重厚な土壁のぶつかり合い。一瞬の判断ミスが即敗北に繋がる緊張感が、遠く離れた観客席までひしひしと伝わってくる。
「ああ。妖力の絶対量もさることながら、術式の展開スピードが段違いだ。……柚葉、怪我はないか? 妖力は戻ってきて いるか?」
蓮くんが隣からスッと差し出してきたのは、冷たい水の入った竹筒だった。
「ありがとう、蓮くん。うん、さっきの試合も省エネでいけたから、妖力はもう7割くらい戻ってるよ」
「ならよかった。……だが、あの小箱の件がある。上級生の試合に圧倒されるのも無理はないが、意識の半分は警戒に向けておいてくれ」
「うん、分かってる」
私たちは視線を交わし、短く頷き合う。
続いて始まった3年生の決勝戦は、もはや圧巻の一言だった。
無駄な動きが一切なく、相手の隙を突くためだけに研ぎ澄まされた体術と霊術の融合。
演習場の防護結界がミシミシと悲鳴を上げるほどの衝撃波が何度も走り、観客席からは溜息混じりの大歓声が上がり続けていた。
先輩たちの戦いを見つめながら、私は体内の妖力をじっくりと循環させ、来るべき時に備えて集中力を極限まで高めていく。
そして――ついにその時がやってきた。
『これより! 各学年の優勝者による――全学年対抗・学園一決定トーナメントを開催いたします! 選手は試合場へお上がりください!』
実況の威勢の良い声が響き渡り、観客席のボルテージは最高潮に達する。
「よし、行ってくるね」
「おう。頑張ってな」
私は隣の蓮くんに軽く手を振り、階段を降りて演習場の中央へと足を踏み出す。
向かい側から歩いてくるのは、
圧倒的な存在感を放つ2年生と3年生の代表選手だ。
学園の頂点を決める戦い……! 正直、先輩たちを相手にどこまでやれるか分からない。だけど、負ける気はない……!
身が引き締まるような緊張感と、胸の奥から湧き上がる高揚感。
私が息を深く吸い込み、足元に妖力を巡らせようとした――まさに、その瞬間だった。
――ズズズズズ……ッ!!
突如、地の底から響くような不気味な重低音が演習場全体を激しく揺らした。
「な、なに……!? 地震……!?」
「いや、違う! 上を見ろ!」
観覧席から悲鳴が上がる。
見上げれば、演習場を覆っていた強固な防護結界に、パリンッと乾いた音を立てて巨大な亀裂が入っていた。
そしてその亀裂の隙間から、ドロリとした濃密で不快な――漆黒の妖気が溢れ出してくる。
この悪寒……! まさか、あの『黒い小箱』が……!?
「試合中止! 全員、落ち着いて避難してください!」
審判の焦りを含んだ叫びが響き渡るが、会場は一瞬でパニックへと陥る。
空の亀裂がさらに大きく広がり、黒いモヤの中から、異形の影たちが次々と地上へと舞い降りてきた。
「柚葉!」
観覧席から一足飛びで駆けつけた蓮くんが、私の背中にぴたりと寄り添う。
「蓮くん……! やっぱり来たね」
「ああ。大会のどさくさに紛れて仕掛けてくるとはな……!」
私たちは互いに背中を預け合い、温存していた妖力を一気に解放しながら、鋭い眼光で迫り来る怪物たちを睨みつけた。
今日、自分の部屋に入った途端、何を取りに来たか忘れました(笑)
こういうこと、ありません?
……私だけじゃないですよね?(//∇//)




