幕間 その頃
三人称視点です!
悪役側の描写がありますので、苦手な方は無理せず読み飛ばしてください。
大歓声が響き渡る演習場から遠く離れた、旧校舎の裏手――防護壁の陰に隠れた薄暗い裏庭に、常盤学園の制服を着た怪しい2人の影があった。
すると、演習場の方から淡い光の粒がいくつも漂ってきた。
演習場の方から漂ってきた光の粒は、吸い寄せられるようにその霊具へと集まり、中へと吸い込まれていく。
その光の正体は、生徒たちが学年別対抗戦で放った霊力や妖力の集まりであった。
霊具を持つ女が、面白そうに笑いながら口を開いた。
「あはは。真面目に術なんて使って。放出する妖力も霊力も、すっごく多いわぁ。でも残念でしたぁ〜。あなた達が頑張って身につけた妖力も、霊力も! ぜーーんぶもらっちゃう! 最後に私の役に立てて、よかったわねぇ〜」
女の隣で、こちらも同じ霊具を持つ男がそれを聞き、眉を顰めた。
「阿良黙れ。大きな声を出して巡回の教師に見つかったらどうする。我らが主、逢坂様の重大な御命令だぞ。しくじれば首が飛ぶ……それくらいの覚悟を持て」
「お堅いわねぇ、臘月は。そんなの私には関係ないわ。私はあの『白石柚葉』をどん底に叩き落とせればそれでいいの。神楽様は私のものよ! ……フフ、せいぜい私に利用されなさいな」
「……ハッ、勝手にしろ。お前が個人的な恨みでどう動こうが知ったことではない。俺は逢坂様の命に従い、この学園……いや、あやかしども全てに復讐を果たすだけだ」
「はいはい。でも逢坂様も凄いわねぇ。この大会で生徒達が使った霊力や妖力を利用して、この学園の地下に続く階段に張られた結界を破り、『大妖の核』を奪ってあやかしを支配するだなんて……」
そう女が言った時、校舎から演習場に続く渡り廊下の入り口で、ガチャリと戸が開く音がした。
2人は会話を止め、霊具の起動を中断して物陰に身を潜める。
そんな2人の横を、あくびをしながら通り過ぎたのは、学園の警備員だった。
「ふぁ〜。眠い。 こんなにも朝早くからする必要ないだろ……楽しそうでいいな……」
警備員は、そう言いながら演習場の方へと歩いていく。
警備員が見えなくなると、2人は物陰から出た。
その2人の視線は誰かを殺しそうなほど冷たかった。
男は「愚か者が……」と呟いたあと、もう1度霊具を起動させる。
すると、また演習場の方から霊具に光の粒が集まってきた。
男はそれを見ながら、唇を綻ばせた。
――10分後
2人の持っている霊具が一際大きく輝いた。
それを見て、2人はニヤリと笑う。
「溜まったな」
「ええ。やっとね」
女はそう言うと、制服の袂から「親」と書かれた札を取り出す。
「それじゃあ、役に立ってもらうわよ。妖魔ちゃん! 思う存分暴れて、混乱を引き起こしてきなさいな! 笑えるのは今のうちよ、白石柚葉! 『闇に蠢く者どもよ、血の匂いを追いて集い、この地に満ちよ。――解き放て、百鬼招来』!」
そう女が詠唱すると、札がまばゆく輝き、その光が空中で九束に分かれ、学園内の様々な場所へと散っていった。
九つに分かれた光はそれぞれ、昨夜、柚葉たちが探し出した、妖魔を集める性質を持つ霊具へ向かっていった。
光の束は、周囲に光の粒を撒き散らしながら地面へと急降下した。
そして、光の束が落ちた瞬間、学園全体を包んでいた空気が微かに歪んだ。
誰も気づかぬほど静かに、しかし確実に、校内に仕掛けられた九つの術式が同時に目を覚ました。
霊具から放たれた黒い光は、見えない波紋となって敷地外の鬱蒼とした森や、深く暗い地下の隙間へと波及していった。
――ギギ、ギ……。
人間には聞こえぬ低い地鳴りのような咆哮が、遠くから忍び寄ってくる。
霊具が放つ甘い妖気の匂いに引き寄せられ、暗闇の奥に潜んでいた異形の妖魔たちが、引き寄せられるようにゾロゾロと這い出し始めていた。飢えた眼光をギラつかせ、学園の防護結界の「綻び」を目指して、狂乱の群れが蠢き出した。
「くすくす……はじまったわ。ほら見てよ、あの不気味な気配。大漁、大漁〜!」
女は空を仰ぎ、指を折り曲げながら楽しそうに身をよじった。
一方、男は、冷ややかな視線を校舎の二階――観戦席の方向へと向けた。
「これで学園内はパニックになる。生徒が混乱の波に飲み込まれ、警備の教師どもが妖魔の対処に追われ、地下への警戒が手薄になった隙に……我らは地下にある『大妖の核』を奪い去る」
「ええ。せいぜい地獄を楽しんでちょうだいな」
2人は足音もなく影に溶け込み、不気味な笑みを残して地下へと続く裏扉の闇へと消えていった。
◇◇◇
――同時刻。
「ふぁ……、午前の部、本当にお疲れ様!」
観戦席の一角で、柚葉は大きく伸びをしながらお弁当の包みを広げていた。
午前中の個人戦では、柚葉は順調に勝ち進み、見事クラス代表の座を勝ち取った。
一方、鈴は三回戦で惜しくも敗退していた。
「柚葉ちゃん、すごく格好よかったよ!」
「ありがと、鈴ちゃん。でも午後のチーム戦が本番だからね。しっかり食べて体力つけておかないと」
「うん! 柚葉ちゃん、午後も頑張ってね!」
和気藹々とした空気の中、柚葉はふと箸を止め、演習場の隅にある裏庭の方向へと視線をやった。
ほんの一瞬、背すじを冷たい風が撫でたような、奇妙な違和感を覚えたからだ。
(……気のせい、かな? なんだか急に、空気が重くなったような……)
「柚葉ちゃん? どうしたの、食べないの?」
「ううん、なんでもない! いただきまーす!」
首を振って違和感を振り払い、柚葉は弾けるような笑顔で白飯を口に運んだ。
午後のチーム戦に向け、仲間たちと勝利を誓い合う輝かしい時間だった。
だが、彼女たちはまだ知る由もなかった。
自分たちが、全力を尽くそうとすればするほど、足元から忍び寄る巨大な悪意を知らず知らずのうちに育ててしまっているということを。
忍び寄る破滅の足音は、すぐ目と鼻の先まで迫っていたのだった。
最近涼しくなってきて、蚊がまた復活してきましたね。
私はO型なので、外に出るとすぐ刺されます(//∇//)
蚊よ、刺さないでくれ……。
お気づきの方もおられるかもしれませんが、第54話より後書きは雑談コーナーに変わりました(笑)
楽しんでいただけたら幸いです(≧∀≦)




