学園捜索作戦
実験小屋から出た私たちは、先ほど覚えた霊力を頼りに校舎内を進んでいった。
狐火で照らしているとはいえ、それでも全然暗い廊下はとても不気味だが、怖がっている場合ではないと自分の気持ちを奮い立たせる。
その時。
「っ……!」
小箱にかけられていた霊力に似たものを感じ、思わず立ち止まってしまう。
「白石。見つけたのか?」
そう私に問う蓮くんの手には大きい鉄ぐわが握られている。
蓮くんの後ろにいる烏丸くん、水瀬くんの手にも同じものが握られており、水野さんには、もしものことを考え、認識を阻害する結界を張ってもらっている。
「うん。多分ね。こっち」
私は、霊力を感じた方に向かって歩く。
ついた先は、裏庭だった。
「まだ裏庭に埋まってたのかよ……」
背後から水瀬くんが呟く声が聞こえる。
その声に心の中で同意しながら、より一層、感応する霊力に神経を集中する。
瞼の裏には、光の線が浮かび上がり、
その線を切らないように慎重に辿っていく。
「……ここだ」
そう呟いて、自分の立っているところを指差す。
「神楽くん、烏丸くん、水瀬くん。ここ、掘ってみて」
私の言葉に3人は頷き、鉄ぐわで掘り始めた。
見た目よりも力のある3人は、地面をどんどん掘り進めていく。
――5分後
先ほどまで平だった地面は、深く掘られている。
「白石。あったぞ」
他のところから感じる霊力を追っていた私は、蓮くんの声でハッと顔を上げた。
「お疲れ。早かったね。ありがと」
そう言いながら穴の側まで歩き、中をのぞく。
そこには、昼間回収した黒い小箱と同じようなものがあった。
「それで白石。これ、どうするの?」
蓮くんにそう聞かれ、確かにどうしようか……と思案する。
回収したら、多分明日は何もなく過ごせるだろう。
ただ、この箱に何か仕掛けがしてあるかもしれない。
この箱の仕組みが詳しく分からない以上、下手に動かすのは得策ではない。
それならば……。
「放置ね。私たちがここを掘ったとバレないようにもう一度埋めて。どこにその箱があるのかがわかったらそこを警備すればいいでしょ? まあ、わざと警備をせずに油断させて、犯人が何か動いたところを叩いてもいいけど」
私の言葉に、蓮くんがニヤリと口元を緩めた。
「悪くない。犯人は『作戦はうまく進んでいる』と思い込んでいるはずだ。なら、その油断を突いた方が確実に網にかけられる」
蓮くんの言葉に烏丸くんは頷いて続けた。
「じゃあ、この小箱は場所だけ確認して、元通り埋め直そう」
烏丸くんと水瀬くんが素早く鉄ぐわを動かし、掘り返した土を元に戻していく。
水野さんが結界の術を微調整し、掘り起こした痕跡すら綺麗に誤魔化してくれた。さすがの手際だ。
よし、2つ目はこれで完了……!
安堵の息を吐きかけた、まさにその時。
ザッ、ザッ……と、遠くの廊下から足音が近づいてきた。
「っ……誰か来る!?」
「九条先生以外の見回りか、それとも犯人か……! 皆、隠れるぞ!」
水瀬くんの低い囁きと同時に、蓮くんが私の腕を引いた。
「わ、わっ……!」
引き寄せられるまま、私は裏庭の隅にある用具小屋の影――月明かりも届かない真っ暗な隙間へと滑り込んだ。
「……っ」
狭い暗闇の中で、蓮くんが私を庇うように抱き寄せる。
至近距離にある彼の胸板から、ドクドクと強い鼓動がダイレクトに伝わってくるため、私の心臓まで爆発しそうになってしまう。
ち、近すぎる……!! 息ができない……っ!
暗がりの中、蓮くんの整った顔が目の前にある。
橙色の狐火も消しているため、お互いの顔はほとんど見えないはずなのに、耳元で聞こえる彼の低い息遣いと肌の熱で、自分が熱くなっていくのが分かった。
カツン、カツンと足音が用具小屋の前を通り過ぎていく。
九条先生から小箱を探す許可は得ているけれど、ここで別の誰かに見つかって大騒ぎになったら作戦は台無しだ。
私は蓮くんの服の裾をぎゅっと握りしめ、ただ足音が遠ざかるのを祈った。
やがて足音がすっかり消え、夜の静寂が戻ってくる。
「……ふぅ、行ったか」
蓮くんが胸を撫で下ろし、ふと私を見下ろした。
闇に目が慣れてきたのか、彼が自分の体勢に気づいたのが伝わってくる。
「あ、すまん……!」
「う、うん! 助かったよ、ありがとう……!」
二人して慌てて身体を離した。暗闇で本当によかった。
もし明かりがあったら、林檎みたいに赤い私の顔を見られていたところだ。
「……コホン。お二人さん、無事ですか〜?」
用具小屋の反対側の影から、水野さんが呆れとからかいの混ざった声とともに顔を出した。烏丸くんと水瀬くんも上手に隠れていてくれたらしい。
「よ、よし! 気を取り直して、残りの2つもサクッと探しに行こう!」
ごまかすように声を張り上げる私に、蓮くんはどこか気まずそうに咳払いをする。
私は深呼吸をし、皆で再び夜の校舎へと足を進めた。
――1時間後
「これで全部だね。もう新しく感知できる箱はないと思う」
私がそういうと、皆から「やっと終わった……」と安堵の声が漏れ、疲れたような、でも、達成感に満ちた表情が浮かべ、頷いてくれた。
「結局、昼間見つけた小箱以外に見つかった小箱は計9個。それぞれ裏庭に3個、中央広場に2個、演習場周辺に4個だね。結構多い」
私がそう整理して皆に伝えると、水瀬くんがドサっと地面に座りこんで言った。
「中央広場と演習場の周りは特にガス灯が多くて明るいから焦ったぞ……だが、これで犯人の仕掛けた『罠の全体像』は分かったな」
「ああ。これだけの小箱を学園内に設置できたとなると、やはり内部の人間の協力、あるいは手引きがあったと見て間違いないだろう」
そう答え、烏丸くんが腕を組み、静かに眼鏡の奥の瞳を光らせる。
夜の静寂の中、みんなの顔には疲労とともに、犯人に対する怒りと決意が滲んでいた。
「明日――日付が変わったから今日か。学園祭の最終日、対抗戦の決勝戦の最中に犯人はこの小箱を起動させるつもりかもしれない」
蓮くんが低く力強い声で言う。
「白石の提案通り、小箱はすべて配置を把握した上で放置してある。犯人は自分が完璧に仕掛けを終えたと思い込んで油断しているはずだ」
「うん。相手の油断を突いて、決戦の舞台で一気に仕留めよう」
私が力強く頷くと、水野さんも頼もしそうに微笑んだ。
「そうと決まれば、今夜はもう自室に戻って休むべきですね。他の生徒に気づかれないよう、静かに撤収しましょう」
「そうだな。白石、帰りも油断するなよ」
蓮くんがそっと私の顔を覗き込んできて、また胸が小さく跳ねる。
さっき用具小屋で密着したときの熱を思い出して焦ったけれど、私は悟られないようにぐっと拳を握りしめた。
「うん! 大丈夫、任せて」
私たちは気配を消しながら、各自の寮へと静かに戻っていった。
朝になれば、学園祭最終日。そして対抗戦の決勝だ。
犯人の企みを阻止し、この大事な学園を守り切ってみせる。
暗い自室のベッドに潜り込みながら、私は月明かりに照らされた天井を見つめ、静かに決意をした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
そういえば、昨日で投稿を始めて一ヶ月でしたね。
時が流れるのは早いね。
ここまで続けられたのは、皆さんがこの作品を見つけてくれたからだと思います!
これからも柚葉と蓮の物語を楽しんでいただけるよう、頑張って更新していきたいと思います。
……と、ここで終わろうと思ったのですが。
柚葉「ちょっと待って、作者!」
……はい?
柚葉「私たちからも言いたいことがあるの!」
蓮「……俺もいる」
いや、二人とも急に出てこないでください。
柚葉「だって! 私たちのこと、これからも応援してくれたら嬉しいなって……!」
蓮「……まあ、そういうことだ」
柚葉「蓮くん、なんか私より上手く言おうとしてない?」
蓮「別に」
柚葉「絶対そうだよ!」
……というわけで、二人ともまだまだ言いたいことがあるようです。
が、これ以上書くと長くなってしまうので、今日はここまで。
また明日。
これからも柚葉と蓮の恋路を、温かく見守っていただけると幸いです!




