学園祭6
「――以上を持ちまして、本日の全日程を終了とさせていただきます。みなさん、本日は誠にありがとうございました!」
夕方、大勢の生徒で埋め尽くされた中央広場。
マイク越しに声を張り上げながら、私の心臓は緊張でバクバクした。
……いや、大役への緊張だけじゃない。
先ほどまでの出来事が私の脳裏を掠める。
この華やかな学園祭の裏で妖魔を引き寄せる小箱が仕掛けられていて、しかも今夜、自分たちの手でそれを探し出さなきゃいけないなんて。
笑顔で締めの挨拶をしながらも、頭の中は夜の作戦のことでいっぱいだった。
◇◇◇
――夜
私は、他の小箱を探すため、鈴ちゃんに気づかれないよう最善の注意を払いながらこっそりと寮の自室を出た。
無事に部屋を出た私は、すり足差し足でそっと寮を出て、校舎に続く渡り廊下を歩き、集合場所である実験小屋の前についた。
真夜中の実験小屋は想像していた以上に不気味だ。
立て直してくれることを切に願う。
そんなことを思いながら、深呼吸をして実験小屋の戸を叩き、そっと開ける。
「失礼します……」
恐る恐る小屋に入り、狐火を灯す。
昼間の後悔を活かし、光量は必要最低限だ。
しかし、それをすぐ後悔することになる。
「思ったより早かったな」
「ひゃっ!?」
すぐ隣から聞こえた声に驚き、思わず変な声を出してしまう。
灯したばかりの狐火の光量を迷いながらも上げ、声の聞こえた方を見ると、呆れたような顔をして立つ蓮くんがいた。
こんなことなら変に怖がらずに狐火の光量を落とすんじゃなかった……と、本日2回目の後悔をする。
「柚葉、うるさい」
「ご、ごめんね……。他のみんなは?」
謝りながら聞く。
「まだ俺らだけだ」
「そっかぁ〜」
そう答えてすぐ、ハッとする。
あれ? これって密室に2人っきり?
そう気づいた瞬間、私の頬が熱を持ち始める。
それを隠すため、どうにか狐火の光量を必要最低限まで落とした。
照れる気持ちを隠さねば。
そんな私を訝しげに見ながら、蓮くんが言葉をかけてきた。
「……柚葉?」
「な、なにかな蓮くん!?」
声を上ずらせながら問い返すと、蓮くんが一歩、にじり寄ってきた。
狐火の揺らめく橙色の光が、彼の整いすぎた目元を妖しく照らし出す。
絵画どころの騒ぎではない。国宝指定レベルだ。
「お前、なんか顔赤くないか? 熱でも――」
「あ、赤くないよ!? 狐火の光の加減かな! うん、絶対そう!」
蓮くんが心配そうに顔を覗き込んできたものだから、私の心臓は爆発寸前だ。
必死に手を横に振って誤魔化そうとした、まさにその時。
ガチャリ、と音を立てて実験小屋の重い戸が開いた。
「やあ、お待たせ。二人とも早いね」
「す、すまん遅くなった! 寮の見回りを撒くのに手間取って……って、固まってどうしたんだ、二人とも?」
入ってきたのは、静かに微笑む烏丸くんと、息を切らせた水瀬くん。
そしてそのすぐ後ろから、水野さんも呆れたように入ってくる。
「二人とも、妙に距離が近くない?」
「「っ……!?」」
水野さんの鋭い一言に、私と蓮くんは跳ね起きるようにサッと距離を取った。
「な、なんでもないから! ちょうどみんなを待ってたところだよ!」
私の叫び声に、烏丸くんは何かを察したようにフッと口元を緩め、蓮くんはどこか気まずそうに咳払いを一つした。
「……コホン。全員揃ったな。それじゃあ……夜の捜索作戦を始めよう」
みんなが揃ったことで、ようやく私の心臓も落ち着きを取り戻す。
「で、まあ探すにしても作戦が必要だよな。なんかあるか?」
と、蓮くんが聞いたことで、夕ご飯を食べながら考えていたことを思い出す。
「私、作戦思いついたんだけど、いい?」
「ああ。白石、言っていいぞ」
蓮くんから発言許可を得たところで話し出す。
「まず、昼間見つけた黒い小箱あるじゃない? 詳しいことはきちんと調べないとわからないけれど、それに込められた妖力や霊力は一瞬でわかると思うわ」
私がそういうと、水瀬くんと水野さん、烏丸くんの3人が固まった表情で顔を見合わせる。
なんか引かれている気がするのは気のせいだろうか。
うん。気のせいだと思おう。
そして、その3人を「俺も最初は思ったよ」的な暖かい目で蓮くんが見ていたので、つま先を軽く踏んでおく。
蓮くんが「イタッ」というのを無視して続きを話す。
「で、その込められた妖力や霊力がわかればそれを元に探すことができると思うの。どう、かな?」
恐る恐るそう皆に尋ねると、皆は「いいんじゃない?」と了承してくれた。
「探す方法はいいと思いけれど、一つ問題点があると思うんだ。あのさ昼間、九条先生、小箱を鍵付きの金庫に入れていたよね? 開けられなくない?」
そう水瀬くんが言ったことで実験小屋が静まりかえる。
その沈黙を破ったのは、水野さんだった。
「あの、普通の鍵だったら開けられるかも、です」
そう言って水野さんは髪を止めていたヘアピン2本を髪から抜き、曲げて金庫の鍵穴にさした。
薄暗い小屋の中に、鍵を解除していくカチャカチャという小気味いい音が響く。
――1分後
「開いた!」
水野さんの歓喜の声を受け、皆で開いた金庫を覗き込む。
「すごい! なんで開けられるの?」
そう聞くと、水野さんは照れたように笑って言った。
「私のお姉ちゃんの友達に欧米の子がいて、その人に教えてもらったの。そこから嵌って、一時期ずっとこれをやってた時期があったから」
「へぇー!!」
その話に皆の声が揃う。
「鍵も開いたところで白石。作戦実行といこうか」
蓮くんの言葉に頷き、私は黒い小箱に手をかざし目を閉じる。
すると、瞼の裏に、妖魔が撒き散らす不規則で濁った波動とは違う、整然と編み込まれた光が浮かび上がった。
これを芸術と言わずしてなんと呼ぶのだろうか。この小箱にかけられた術を解除するだけでも一苦労しそうだ。
……これはあやかしの妖力じゃない。人間の『霊力』だ。
つまり、この箱を作ったのは人間――それも、かなり高度な術者ということになる。
私は必死に頭をフル回転させ、思考を巡らせた。
通常、人間もあやかしも自身の力を使えば済むため、わざわざこのような霊具を作る機会は少ないはずだ。
それなのに、これほどの代物を用意したということは……学園内に協力者がいて、その裏には巨大な組織が存在するのではないだろうか。あるいは、学園内部の人間による単独犯という可能性もある。
犯人の目的も正体も、まだ完全には見えてこない。
私は深く息を吐き出し、ゆっくりと目を開けた。
「……分かったわ。これは霊力で作られたもの。つまり犯人は人間よ。霊力の波長は覚えたから、さっさと探しに行きましょう!」
私の言葉に、皆が頷く。
私たちはこの学園内に埋まっているであろう他の小箱を探すべく、月明かりの下で動き出した。
少し涼しくなってきて嬉しいです(o^^o)
でも涼しくなったと思ったらすぐ暑くなるんだろうなぁ。
皆様、体調にはお気をつけて。




